[ジャイアントパンダ] 眠って剥がれるパンダのたましい <中>




 


 寝てる時の夢は、記憶の整理によるもの。

だから見たことない誰かやモノは、そこに現れないって言われている。知ってたかなぁ?



 でもそれ本当? 私はねー、そう思わないんだ。実は "見たことない" モノって何度も出てきてるはずだよ、覚えてないだけで。



   それって、どういうことだろね。


 私は居眠りが多いんだぁ・・・寝ようとする前からもう眠っていたこともあるぅ。ふぁ~....



  ...くぅ、ごめんシャキッとするね。


  居眠りが多いからこそ覚えてる事。

  次はそのお話を聞いてほしいな。



 あっ ごめん "ジャイアントパンダ" だよ。

起きるのに精いっぱいで、自己紹介が遅れちゃったけどよろしくね。もう大丈夫だから



─┈

┈┈┈お話の前に ちょっと経緯教えるね




 レッサーちゃんのお話は覚えてるかな?

夕方にだけ会える少女の内容だったね、ピンクのワンピース着た娘だって聞いたけど。


  きみも何処かで見たことあるかもよ。



 あの時はレッサーちゃんと一緒に、かばんさんのラボを訪ねた。その事で詳しくお話聞くために。


    聞いた様子だと──


 少女がレッサーちゃんに憑いてるんだって。

 んでレッサーちゃんは嬉しそうだった。



 その後お泊りし次の日 "ジャパリホテル" へ、各ちほーの娘たちと行くことに。三人の友達が危なかったから。



 ・・・・・・でも気づいたらホテル沈んでた。


 あっちでも居眠りしてたんだよね、あのイス持って帰りたかった・・・後でマッサージチェアって名前と分かった。


 皆ごめんね......あとお話もソれてごめん。



 その後モノレールへ乗せてもらい、レッサーちゃんとアヅアエンへ帰ってきたけど──



  ┈その五日後から妙な体験をした。



 普段ならお昼寝してる時間だったと思う

でもこの日は眠くなくて、運動がてらアヅアエンの川で水浴びをしてたんだ。


 足が浸かる程度の浅い場所を見つけ、そこに座って汚れを落とし休む。水の流れは緩やかで、冷たさも音も気持ちよかった。


 ふとボーッとしたところで記憶が飛ぶ。



     ┈─カァー  

        ──カァー......


  んうぅぅ~ ん......?

遠いカラスの声が聞こえて目を開けると、まず見えたのは空の赤い夕焼け。



・・・・・・また居眠りしてた、しかも水に浸かって仰向けで。下手したら溺れてたかもしれないけど、浅い場所で運がよかった。



 とりあえず岸に上がって、ぶるぶると身体の水きり。それを終えたとき、急に私は眠ってる間のことを思い出した。



 夢の内容で自信ないけど・・・何かを "見ないで" って言われた。理由なく、頭に意識を集中して思い出そうとしてみる──



   "┈─ぁを見ないで!"


  ...思い出せない。何してんだろ私


 けど強めに言われた記憶がある。誰にかは覚えてないけど、少なくともレッサーちゃんとかではなかった。


 ホテルで居合わせた娘・・・? しっくりこない。

 何処を? 誰を?それも分からない。



 周りを見ると、笹林が夕焼けに飲み込まれて黒い姿をしていた。普段ボーっとしてる私だって、夕方の林は抵抗ある。変なのいそうでさ。


    言っちゃうと普通に怖い



   ┈─ガサササー...

    ──ガサー... ササー....


 風で笹の葉が音を立て、早く帰れって聞こえるような・・・そんな気がした。



   この日は足早に川場を後にする......



 次の日も眠くなく、その川場で遊んでた。

水のさらさらした音が好きで、今までのお昼寝が損だとさえ感じてた。


と言いつつ結局は途中で眠っちゃうけど、夕方には目を覚ます。そして笹の音に怖がって帰る。



  ソレを三日ほど続けたんだけど──

 あの夢での言葉が少しずつ分かってきた。



    ┈┈┈..ぁた を見ないで!

     ┈┈の姿 を見ないで!


 誰に言われてるかはやっぱり分からない。暗いか眩しい場所で、姿は分からず声も聞き覚えがない。


  これに対して怖くはなかった。

  誰なんだろうって好奇心。


   ・・・・・・でも本当は


 自分が普段と違う行動をし始めてる地点で、おかしいと気づくべきだった。



   あれからさらに四日経った


 今日も川に夕方まで居て、帰る間のこと。

行き先はアヅアエン入口近くの平らな岩、寝心地が良いんだ。・・・だらしない話、住処はまだ無いよ。



 そこへ行くには途中、広場の中を抜ける。レッサーちゃん達が前にブランコ作ったり、滑り台を組んだ場所。


 程なくして広場の前に着くと何か見えた...


   (──んっ 誰かいるなぁ )


 向こうにフレンズの姿があって、よく目を凝らすと・・・・・・レッサーちゃんだった。

ブランコに座って、じっと動かない。


 状況の予想がつき、わざとゆっくり近づく



 「──くぅ...くぅ.... はー ふふ....」


 やっぱり・・・。 彼女は居眠りしていた。

左右に二つあるうち左側のタイヤブランコに座り、背中を丸めた格好。


  お尻が入って丁度いいんだよね。



 夕焼けでもっとオレンジに染まるレッサーちゃんは、よく見ると楽しそうな顔してた。

 遊んでいる夢を見てるの・・・・・・ あっ


 っとここで思い出したけど、レッサーちゃんにはあの少女が憑いてる。私言ったかな?



   あれね、憑いたと言うより──


 レッサーちゃんが、自分から憑かせたらしい。その子とお別れしたくないのと、役に立ちたくて。

 すごい覚悟だよね。私には出来ないよ。



 ちなみに少女は "フウちゃん" と呼ぶけど、本当の名前ではないらしい。と言うのも、レッサーちゃんが考えたあだ名だそうで。


 残念ながら、私にその子は見えない。


 此処でレッサーちゃんと一緒に居眠りしても良かったけど、変な言い方すると今日は岩の気分だった。


 私もフウちゃんが見えればなぁと思いつつ、レッサーちゃんの前を通って広場を後にする。


   でも今だから思うんだけどさ──



 自分の悪い癖は直した方がいい・・・

 付け込まれるよ、見えない何かにさえ。


私は岩の気分とか言ってないで、レッサーちゃんと居れば良かったんだ。



 広場を出て20歩ほどして急に眠くなる私。

この時はいつもの事と、我慢して歩くけど──今度はボウンッと強い向かい風が吹く・・・


  と言うかぶつかるような感触だった。


「わはぁっ...!?」

思わず間抜けな声を私は漏らすが......



 その風は、なぜか柑橘系の香りがすることに気づく。匂いが心地よく、いよいよ意識が吹っ飛びかけるけど耐える。一つ思った・・・。



   嗅いだことのない匂いだ


 柑橘系と言ったけどミカンなどではなく独特の、焼けたような匂いも混ざった──少なくともここで嗅げる匂いではない。

 大体アヅアエンにそんな果物類もない。



 後で聞いたんだけど "違う場所" は、そんな匂いがするらしい。ここでの私は知る由もないけど



 もちろん、これで終わりではなかった。

風の勢いで後ろを向くと、眠気で霞む視界にさっきのブランコが見えた。だけど──



 あっちにレッサーちゃんがいなくなってる、タイヤに嵌って寝てたのに。起きたなら私に声を掛けるか、駆け寄ってくるはず。



    何だか胸騒ぎがした。


 眠気に耐えつつ広場へと引き返す。レッサーちゃんこっちに気づかず逆方向へ行ったのかな? と思うも


 ・・・ブランコを見た感じ、そうではなかった

  吊られたタイヤが揺れていない。



 コレを降りた時って、しばらくゆらゆら動くはず。でも最初から誰も居なかったように・・・地面に足跡もないし、風にも煽られてない。



 ここで私は二つただならぬ物を感じた



 一つ目は今の状況、レッサーちゃんが消えたことに対して。それともう一つは──



   私の眠気が纏わりついて離れない



 夕闇の中で不気味な事が起きてるのに、なぜか身体は必死に眠ろうとしてる。それに胸騒ぎするのに眠いってかなりおかしい


 そして絶対に寝てはいけない気がした。



 目を擦り開け、私の状態もおかしいけどレッサーちゃんを探すため身体を引きずって歩く。



  広場にレッサーちゃんはいなかった

  空がみるみる藍色に染まる・・・・・・。


 私はお昼寝してるのに夜目が利かない。

でも出来る限り他の場所も探そうと、入った方と逆側から広場を出ることに。


 だけど出口を抜けた次の瞬間、私はまたもや不気味な状況を味わせられることになる。



  「ふぎっ......!?」



 思わず擦れた声を漏らす私・・・急に動けなくなった。金縛り・・・だけど、居眠り多いくせに私はここまでに経験したことなかった。


  内心かなりパニックになる私


    ──キリ... 

      ──キリ......



 それと同時にロープの張る音がする、多分後ろのブランコに・・・何か居る。心音も自分に聞こえるくらいヤバい


   なのになぜか私の眠気は取れない。



  (うっ!? ぎぎぎッ......うあ!)


 身体が言うことを聞かない 動けないんじゃなく、勝手に後ろを向こうとしてる!無理やり動いてる感じで関節の音が聞こえそう


   (ぎぎぎぃ......!!)


 抵抗できずまた後ろを向いてしまうと、広場には


    ┈┈えっ・・・・・・なんで


 驚くことに今度はレッサーちゃんがいて・・・眠ってる。向こうでさっきの恰好、同じ場所に。

 ロープの音は彼女の重みによるもの


 ここで眠気が晴れ、動けるようになった。



よかったと思うよりも「これダメだ、何かヤバい」と感じ、急いで私はレッサーちゃんに駆け寄る。


 消えたり見えたりするこの子を、まず起こそうとした。ところが・・・



「ジャイアントパンダちゃん!!」

「ちょっ──うわぁ!?」


 思わず驚いて声を上げてしまう私。なんと起こそうとする前に彼女の方から飛び起きて、抱き着いてきた。

 レッサーちゃん何か安心した様子だ。


   ・・・・・・?

   この子の反応に違和感を覚えた



 起きた時って、まず周りを見るはず。でもレッサーちゃんは目を覚ました瞬間にしがみついた。

こちらを驚かそうと寝たふりしてた・・・?


 いや、この子がそんな事すると思えない。

イロイロうーんと頭が真っ白になる私に、レッサーちゃんは言葉を続ける。



「はぁっ はぁっ... よかった戻ってくれて!もう会えなくなるかと思ったんだよっ!?」


 ・・・正直ワケ分からなかった。

しかもこの子の言葉に対し、こっちのセリフだと感じてしまい、ちょっぴりキレそうな私。


 レッサーちゃんは様子を察したらしい──



「あっ 違うのごめんね...。分かってるんだジャイアントパンダちゃんが、私を心配して探してくれてたの・・・。その、ありがとう!」


 お礼を言ってすぐ、説明する体制に。

 だけど彼女も何処から話そうか戸惑ってた。


   ┈┈──



 日が落ちて空も広場も藍色の中、今度は私がタイヤブランコに座り、レッサーちゃんは木の板ブランコに腰掛けて口を開く。


   まず始めにまとめると──



 居なくなってたのはレッサーちゃんではなく、私の方だという。つまり、誰も居なかったあの広場が "違う場所" ・・・だったらしい。


「 "夢次元" とか "逆次元" って言うんだって。

あの場所」



 そう説明してくれるも、まだしっくり来ない。鈍いのか私は。けどあの柑橘の風を思い出す──アレで私は飛んだのかも。


・・・でも何でレッサーちゃんこんな詳しいんだろう。それに彼女は眠ってたのに──

 私は聞き、レッサーちゃんも答えてくれた。



「 "フウちゃん" が教えてくれたんだよ。

あとさっきの事だけど、ジャイアントパンダちゃんが "こっち" へ現れたって──」



 次に出たのは少女の名前──フウちゃん。やっぱり憑いてるのか。私たちフレンズは "~次元" とか難しい言葉使わないし。



 もしや今話してるのはフウちゃん? とか思ったけど、そうではないみたい。憑くだけで乗っ取りは出来ないし、そのつもりもないんだって。



   ・・・・・・そういえば


「さっきレッサーちゃん "あの場所は" って言ったよねー?それに私の状況も分かってた。その言い方──レッサーちゃんもあそこにいたの?」



 聞きたいことには普段より早口な私。

でもレッサーちゃんはきちんと答えてくれた。



「うん、フウちゃんと広場から離れた場所にいた。あの子は夢次元なら、何か現れたら分かるんだって」


 レッサーちゃんもいたみたい。つまりこれ、私は起きたまま夢に入り込んだってこと、かな。確かにウトウトしてたけど・・・・・・


   でもなんかおかしい。



 私は眠ってないし、眠気がまとわりつく感じだった。寝れ、早く みたいな。



「これはね、この広場が "スポット" になっちゃったから・・・なんだって」


 レッサーちゃんが言うに、幽霊のフウちゃんが長い間ここ (広場) に居ることで、スポット......別次元に繋がりやすくなったからだと言う。



 広場の左右にある二つの出入口は "ある条件" で、さっきの・・・・・・夢次元だか逆次元に繋がる。



・右の通路から広場に入るとアッチへ

・逆に左の通路から入ると元のコッチに戻る


  って聞いた。

  広場を出る場合はそのままらしい。


 レッサーちゃんがいなくて、右から入りアッチへ・・・けど左から出たところで金縛りに合い、後ろを向かされた。


 そこにブランコのレッサーちゃんが居て駆け寄ったけど・・・

 左を通って私の方が戻ってきたって事か。


    でも......



 通る・・・だけの条件では無いと思う。

だって出かける時とか、この広場をよく通り抜けるし。他に条件があるなら、例えば


   眠い状態とか、夕方とか・・・?

   でもまだ足りない気がする。  


 ちなみにレッサーちゃんは憑かれてるおかげで、広場じゃなくても寝るだけでフウちゃんと夢次元へ行けるらしい。


   レッサーちゃんが言う。



「金縛りはね、フウちゃんがしたって。

あそこ居る時に聞いた。と言っても、ただ抱きついて後ろを向かせたそうだけど・・・。



 私は遅れて元の場所に戻ったの。ジャイアントパンダちゃんがあのまま広場を離れてたら、危なかったんだよ!」



    なるほど。


「もう会えなくなるかと思った」とレッサーちゃんが言ってたのはそういう事か。キレそうになってごめんね・・・。


 金縛りでフウちゃんは見えなかった。残念

 ところがレッサーちゃんはさらに続ける──



本当にヤバかったのは、私が広場を離れることではなく "夢次元で寝てしまった場合" だと言う。


「ここを離れるだけなら、無理やり連れ戻せる...フウちゃんがしたみたく」


 レッサーちゃんが少しビクビクしてる。

今までの話から眠ると "たましい" は、ここと近いけど別の場所に行く。


と言うことは別の場所でさらに眠ったら、次の行き先が分からない。


  そうなったら私は助からなかった。



 夜の中、レッサーちゃんともう少しお話する。


 夕方だけ会えて、広場から出られない少女──フウちゃんに憑かれてからは、何故か寝てる間 (夢次元) でしか、遊んだり出来なくなったらしい。



「けど起きてる間も、見えないだけで私の近くに居て、広場から出られるようにはなったんだって」


 レッサーちゃんが少し嬉しそうに言う。自分が役に立ててる実感があるからかな。



    そうそう・・・・・・


 この数日後に分かったことがある。

私が寝てないのに夢次元へ吹き飛んだ理由が、あと二つあった──



 一つは昼に眠っていた場所がイケないらしい。


   ──アヅアエンの川。


 水場は厄介な物を引き寄せやすいこと。

お昼であろうと、昔の出来事によっては何が起こるか予想できないから。


 昔の事なんて知ったこっちゃないけど

 原因はもっと最近にあると言う。



  ここでもう一つ理由を言われた。


 私の居た川、実はフウちゃんの目覚めた場所と近いらしい。本当はもっと上流の池だけど。


 そういえば彼女は水に浮いてたって聞いた。

 あの場所がそうだったのか。



 しかも私はレッサーちゃんと同じく、寝てる間に川でフウちゃんと会ってるらしい。

ただ私は覚えてない・・・。



  言い訳すると

  夢の事って意外と忘れるでしょ。




 場面を戻すけど、この日は広場でレッサーちゃんと眠った。けどまた夢のことを覚えておらず・・・。



  さてと、ここまでが一区切りかな・・・。



 それから1ヶ月後のこと。

さばんなでお店を開いてる "ロバ" ちゃんの所へ、レッサーちゃんと遊びに行く話になった。


 かばんさんがモノレールでアヅアエンへ来て、入れ替わりでモノレールを借りることにしたんだ。



 調べ物があるんだって。

運転はラッキーさんがオートでしてくれる。


  次はモノレールで眠った際のこと。



 

    ┈┈の姿 を見ないで!


 川での夢・・・あれも分かっていない。

レッサーちゃんと擦り合わせ、フウちゃんの声で間違いないけど、本人は言った覚えがないと言う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る