けもの ノ
くろかーたー
[かばん] 覗き見るペラペラの何か <中>
来てくれてありがとうございます。
少し、涼しくなるようなお話をしませんか。
そうですね、せっかくなんで僕の実体験を皆さんにお話ししましょう。
・・・もう、大丈夫になったので。
信じるか信じないかは、あなた次第です。
初めまして、かばんです。
海の向こうへ行く計画を立てる間、"へいげん"寄りの場所にログハウスを建ててもらったんです。もちろん建ててくださったのは"こはん"のビーバーさんとプレーリーさん。
「何かまだ足りなかったら言って欲しいっす~」
「自分たちが、すぐに用意するのでありますっ!」
本当、あの方たちには頭が上がりません・・・。
普段はサーバルちゃんとパークを探検していた僕ですが、この日ばかりはとても出歩ける状態ではありませんでした。
熱が・・・風邪をひいてしまったんです。フレンズが体調を崩すことは珍しいのですが、僕は "あの件" から少し身体が弱くなってたのかもしれません。
「リンゴとハチミツだね!博士たちのところへ取ってくるから少し休んで待ってて!」
サーバルちゃんは "としょかん" へ元気に駆け出していきました。風邪に良く効くものをお願いして取ってきてくれます。
ところで、僕たちが暮らすログハウスの間取りですがそんなに広くはありません。
ビーバーさんとプレーリーさんに苦労させたくなかったのもありますが、サーバルちゃんやラッキーさんと過ごすにはそれで充分だったので。
入ってすぐ中心に木造りの四角い小さなテーブルとイス、すぐ右側にはお手洗いへのドア。その左には食器などを入れる棚。
入口の左右と奥前方の左右に1つずつ小さな両開き窓。
右隅に2つずつ横向きにベッドがあります。
頭は右向き。
サーバルちゃん、いつも僕のところへ潜り込んできてたっけ・・・。
そしてベッドの向かい側、つまり入って左奥には右へスライドして開ける木造りの戸を作ってもらい、奥には物置用の小部屋がありました。
って言っても、そこには1人分入れるくらいの木箱があるだけですが。
まだ熱があった僕は、お昼に擦ったリンゴを入れたおかゆを食べ終え少しベッドで休むことにしたんです。
ふと、物置の方を見ました。
僕の目は熱でボーっとしつつも、何かを視界に捉えた。
戸が少し開いていたんです。
そこから何か見えた。
・・・ヒトのような何かがこっちを見ている。
一言で言うなら、戸から両手の指を引っかけ顔を出してる恰好。
ツチノコさんがしていたって言えば分かります?
細い目をしており、角張ったような顔をして髪の毛はありませんでした。身体も見えない。
少し濃い肌をした顔だけが扉から半分もないくらいに顔を出している。
さらに違和感を感じました。
何故か奥行きのないような見え方でした。
この時の僕は寒気を覚えつつも怖いとは感じず、じぃっとその何かを見返しました。
ぼんやりしててよく分からなかったのかな・・・それこそハシビロコウさんみたいだったかもしれません。
瞬きもせずソレと目を合わせて見てました。
40秒くらいでしたがとても長い感覚。ついに目の乾きを感じた僕は瞬きをしたんです。
一瞬視界が暗くなった瞬間に、それは居なくなってました。
物置に入って辺りを見ても痕跡とかなく、ならばと上を向く・・・。
何もいない。固定された丸太群があるだけ。
間を置いて急に怖くなってきました。
──ガタッガタン。
急に背後から物音。喉が詰まり、体中の血液が熱々になるような感覚が走る。
振り向くと影がいた。左にある窓から来る光に照らされ黒く、何かを両手に抱えた人影。
「うぶっ・・・!?うわあ゛あァァぁ!!ぐっ・・・」
「か、かばんちゃん!?大丈夫、私だよサーバルだよ!!」
腰を抜かせつつ確認すると、立っていたのは確かにサーバルちゃんでした。どうやら帰って来ていたようです。
抱えていたのは、頼んでおいた風邪に効くもの。
「ハァ、はぁ・・・いててごめんね、びっくりしちゃった・・・」
腰を抜かした拍子に背中が箱の角にぶつかり、痛かった・・・。
この日、さっきのことをサーバルちゃんに伝えず、1日が過ぎました。
タイミングが悪いことに、あの時はラッキーさんを腕に付けずテーブルに置いていたんです。録画しておらず・・・でも警報とかは発してませんでした。
「わたしとボスがいるからすぐ元気になるよ!」
「カバン、ナルベクボクヲツケテイテネ」
2日経ちました。
あれから特に変わったことは起こらず、体調も少しずつ良くなりました。
だけど、この日は様子がおかしかったんです。
夜中に目が覚めました。
用を足すとか風邪だからとかではない。
何かが顔に当たり続けて目が覚めたんです。
玄関の方を向いてて、サーバルちゃんのベッドが視界下に見えます。
玄関の左にある窓からは月明かりが見えます。
明るさを見て少し落ち着く僕。
この日は珍しくサーバルちゃんはこっちに来ておらず、自分のベッドで眠っていました。
・・・? 顔に水分がついている。
雨漏り・・・? と思いましたが月は出ていて雨も降っていない。
ポタッ......タッ......。 考えてる間にも頭に落ちてくる。
眠っていた頭が冴えてくるにつれ、言い様のない不安を感じる。
「(上から・・・──!!!」
上を見たとき内心の言葉が停止しました。
天井が緑色に暗く光り、洞窟みたくボコボコになっていた。
さらに、僕の片腕くらいの幅はある黒い目玉の模様があったんです、無数に。
全て僕を見ていて落ちる水は、その模様から出ていたんです。
黒目の部分はまさに暗黒。
「イ゛っ!あ゛っあああァァァ!!」
今まで出したこともない声を出す僕。"食べないで"の余裕すら無い。
「サ、サーバルちゃん!!起きてェ!サーバルちゃん!!!」
大声で揺すってもサーバルちゃんは目を覚ましません。ラッキーさんも何故か凍り付いたように反応を返さない。
叫んでる間にも、天井が上から目の形に押し迫ってきてるように見えました。メキメキと変な音も立っている。
体中の穴から噴きだすモノか、落ちてくるモノで僕はすっかりビショグショになっていて。
なのに2人とも反応を返さナイ。
何とか起そうとしつつ、闇の中で外へ逃げるため玄関を見た。
その時、僕の視界はまた何かを左端に捉えました。
何かいる。
向こう、後ろから明かりに照らされお手洗いの扉からはみ出て何かがいる。
さらにあり得ない状況を見てしまった。
扉は閉まっている。
開けるためのノブがある逆の方、蝶番のところから顔を出し見ている。
物置で見かけたアレがいた。
先ほど奥行きがないって言った理由。
分かりにくいかもしれないけど、薄い隙間から紙のようにはみ出てこちらを見ているんです。
──バギッバギギッ
上からもおかしな音がスル。目玉が僕を潰しに来ている。
過呼吸になってめまいと吐き気を覚え、もう凝視も考えるヒマも僕にはなかった。
瞬きした時・・・
それはフッと消えたんです。
だが。
さらに瞬きをすると今度は食器棚の隅へ出現してこちらを見ている。
奇妙だ。
普通の存在なら隠れるスペースなんてないはずなのに。
さらにこのペラペラのナニかは、僕が瞬きする度に消えて出現してを繰り返していた。
そして少しずつこっちに近づいている。
消えた。
テーブルの右脚。
──バギギギッバギッ......
消えた。
椅子の背もたレ。
消えた。
──バギギギギィッ......
前方閉まった窓の隙間。もう目の前だ。
サーバルちゃんもラッキーさんも固定されたように全く目を覚ましません。上は黒目の暗黒を近づいてきて──
「イッ...ギギイ゛ィ゛ィィィ ィィ ぁ
声にならない絶叫をあげつつ、何かがとうとう僕の中で千切れたんだと思います。
そこからもう夜のことは覚えておりません。
あれから目を覚ませたんです、カーテンの隙間から差す陽光で。
気づいた時には目に光が入っていた。
目を開けて気を失ってたんだと思います。
とっても恐ろしい夢? を見たからか、おねしょまでしてました。
サーバルちゃんに笑われちゃうなぁ・・・と思いつつ、意を決して天井を見ました。
なんともない。やっぱり悪い夢だったんだと僕は安堵しました。
でも、"隙間"と"天井"に対しては怖いものを感じて仕方がないです。
ベッドにはサーバルちゃんがいませんでした。
すでに起きたのかな?ビーバーさんたちの所、それか博士たちのところへ行ったのかも。
・・・何故か、自分に言い聞かせているかのような感覚でした。
だけど、僕の思考は一瞬で寒気へと変わる。
「かばん!サーバル・・・サーバルはいますか!?」
白いふわふわの恰好、頭に羽をはやしたフレンズ、通称"博士"。
ものすごい勢いでログハウスを訪ねてきたんです。
それと、もう一人フレンズの方がいました。初対面の方です。
黒と、フチに青い線の入った格好。
黄色い卵を持っております。
「手短ですが初めまして、ダチョウと申します。
大変です、サーバルさんの見え方が非常に不吉だったので・・・!」
聞くに、僕の風邪を治すための食物を取りに来た時にサーバルちゃんと出会い、占いをしたそう。
この時にサーバルちゃんから不吉なものを感じ、占った時の"波長"を卵に残していたらしい。不吉の正体は僕の風邪だと思ったらしいけど、念のため今日の朝に視たら──
卵には、 "黒と茶色掛かったものだけ" が見えたらしい。
「黒ってだけで不吉なのに、茶色なんてものが混ざったことは今までなかったんです!それで急いで博士さんに連れてもらい──」
「ビーバーさんたちのところへはどうです!?」
僕も焦ったからか、ダチョウさんを遮る形で聞き返してしまった。
すると、ラッキーさんが音声を発しました。
僕が目覚めても発さなかったのに今初めて・・・。
「カバン、サー...バルハド..─コヘモイ─ッ...テナイ─...ヨ」
ラッキーさんは何故かノイズ交じりの声になっていた。
それより、どこへも行ってない・・・?場所を聞こうとした瞬間・・・
──
ガンガガガガンガガガガガガガッ
ガガンガガガガガンッ
ガガガガガガンガガガガガガンッ
何処からか、強烈に木材を固い物で打ち付けるような音が聞こえたんです。
何処か・・・?
違う、このログハウスから聞こえていた。
僕を含め、皆その一瞬は生き物じゃなくなったのではと思うくらいに硬直しました。
「胸が焼けるようです・・・!何なのです、今のは・・・!!」
「あっちですね・・・あっちの方から聞こえました・・・!」
ダチョウさんが震えながら指を差した先、スライド式の戸。
物置がある場所でした。あそこは今までの物を仕舞っている木箱がある・・・だけ・・・。
「かばん、あの中見ますよ!」
博士が真っ先に向かい戸に手をかける。
多分、この時の僕はまた恐怖から固まってたんです。
だが、博士は驚くべき反応をした。
"熱い"!!
戸に手をかけられないくらいに熱いと言いだした。
──
ガガガガガガガガンガガガガガンガンガンガンガガガンッ
ガガガガンガガガンガンガンガンガンガン
瞬間、また強烈な連打音が響いてくる。
先ほどよりも周期が狭まっている気がする。
狼狽する中、僕たちも手をかけるが確かに取っ手が熱すぎるんです。
陽光は射してますが、ここまで熱くなるとは思えない。
近くに布手袋、ミトンを使ってやっとのことで戸を開けることが出来た。
普段とはあり得ないくらいに重く感じた。
中は、窓がないとは言え普段よりも暗く感じた。
念のため3人で固まって入り、僕が中を確認をすることに。
「気を付けるのです。分かってると思いますが、明らかに普通の空気ではありません」
「かばんさん、危ないと思ったらすぐに離れてください・・・。とてもいいと思える状態ではなくなってます・・・」
博士とダチョウさんも身構えている。
木箱を、開いていく。──ギィィー・・・
中から先ほどとは変わって冷たい空気を感じた。
中身は何も無くなっている。ナイ。
当然、サーバルちゃんもいない。
だけど、何より強烈に悪寒を感じたことがあった。
木箱の、底が真っ黒だ。
いや、底が見えない・・・?
物置には電気があるので手を伸ばす──
「ダメェェェェ!!!ツケないで!!!!」
強烈な絶叫が聞こえた。
ダチョウさんが叫んでいた。
!? 振り返ると、ダチョウさんは鼻血を流している。
博士も完全に青ざめ、とうとうお手洗いへと駆けていってしまった。
「ぞのま゛ま・・・蓋を、閉じでくだざい・・・」
涙を流しつつダチョウさんは訴える。
僕はと言うと、もう何も考えられず指示に従うしかなかった。
それから、サーバルちゃんは見つかりませんでした。来る日も来る日も探したけど・・・。
あのログハウスは完全に取り壊しました。
僕ももう海の向こうへ行く気力も完全になくなり今もパークにとどまっています。
あの覗き見るペラペラのものは何だったのでしょう。
天井に居た無数の目玉模様は何だったのでしょう。
何でサーバルちゃんは居なくなってしまったのか。
「多分ですが、ログハウスの建てた土地に何らかの恨みの念があったのかもしれません。
それとかばんさん、貴方は紙を燃やして飛ばしたことがありますね?
世界には見えない存在、霊がいると言われていて、物に憑く霊もいると言われているのです。
その霊と、土地の恨みの念が合わさってしまったのかもしれません。それで、代わりに貴方の大事な物を連れて行ってしまったのかも・・・」
ダチョウさんはそう言ってました。
けど、仕方ないじゃないですか。こうしないと皆は、僕も含めて無事では居られなかった。
あれから数年が過ぎました。
ずっと、博士たちと勉強しながら"ごめんなさい"をしました、その見えない霊に対し。
そしたらもう大丈夫になったんです。
彼女が他のパートナーを見つけて無事でいたから。
霊さんは、記憶を持ち出したんでしょうけど。
彼女は無事でいたから。
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