第二章
第30話 英雄見習いは街へ行く
茉莉ちゃんってどんな服着てるんですか?
私はこれまでこの質問が来なかったことにとても驚いているよ。
説明しなくてもいいとは思うんだけど、不衛生とか勝手に思われちゃ嫌なので、説明しておきます。
私の服はモントが生成魔法で作ってくれます。
だいたいのものは生成できるらしくいつもお世話になってます。
靴とか下着も作ってくれますね。
素材を日頃から貯めてくれているおかげだね。
ありがとう、モント。
ちなみにだけど、雪姫と胡桃ちゃんの服は、私が二人を作るときに土で作りました。和服だから可愛いんだよね。
今度モントに頼んで二人の分も作ってもらおうと思います。
「寒い……」
私は小さく呟いた。今この砂漠は午前四時。わたしの体内時計がそう告げてる。空が少し明るんできているが、まだまだ寒い
雪姫が熱変動耐性付与、私が炎熱操作で周囲の温度を操作しているんだけど、効果が薄い。困ったときのモンえもん、なんでこんなに効果が出ないのか解説よろしく!
「モント、ここって魔法の効果が薄い気がするんだけど気のせいじゃないよね?」
「気のせいじゃないですよ、茉莉」
やっぱり。
「ここは魔力が薄いのです。体内にある魔力を使ったとしても結局は外で使われるわけですから、どうしても効果が薄れてしまうのです」
なんて迷惑な砂漠なんだ。私の魔法でこの砂漠を大きな湖に変えてやろうと思ったが、魔力が枯渇して動けなくなったら色々面倒なので今回は見逃してあげることにする。
次ここに着いた時まだ砂漠だったら私がオアシスを作ろうと思う。
モントにそう言ったら、
「わたしも手伝います」
と笑顔でモントは私に返した。
雪姫と胡桃ちゃんが私達の後ろで震えていたような気がしたが、気のせいだと思いたい。
今の会話に体が震えてしまうようなものは無かったはずだからね。
あったら教えてほしい。
それからしばらく会話をしながら砂漠を歩き回っていたが、なかなか街は視えてこない。もちろんオアシスもない。
水が魔法で精製できてよかったよ。無理だったら間違いなく死んじゃってた。
空がどんどん明るくなる。大体午前六時くらいかな?
暑くなってきた。陽の光を遮るものがほしい。女子にとって紫外線は天敵なのだ。
私は額の汗を拭った。
滅遮断系の魔法が使えないのはすごく辛い。泣いてもいいかな。
そんなわたしの心情を知ってか知らずか、モントが小さく魔法を唱える。
「日光遮断結界」
モントが唱え終わると同時に、地上から5メートルほどのところに地面と平行に薄い結界が現れる。
紫外線と熱だけを遮断してくれる結界のようだ。
モントさんの結界術素晴らしすぎません? どれくらいの種類があるんだろうか。以前聞いたときには、
「秘密です。茉莉も楽しみは残しておきたいでしょう?」
と言って教えてくれなかった。
確かに楽しみは残しておきたい。ショートケーキの上に乗っているいちごは最後に食べる派です。
ミステリー小説の解説編も自分で考えてから読む人です。
……いや、ミステリーのは関係ないか。
「ありがとうモント、ちょっと楽になったよ」
「いえいえ、茉莉は左腕がなくただでさえ辛いのですから。この程度のことならわたしに任せてください」
さすがモント、頼りになるね。
雪姫たちは、と思って後ろを振り返ると、雪姫たちは、今にも倒れそうになっていた。歩くのもつらそうだ。なんでそんなに疲れてるんですか……。
私が後ろを振り向いたことにモントも気づいて振り返る。
そして何かを考えてこう言った。
「雪姫と胡桃には魔力が薄いこの砂漠はきついんですね。大丈夫です、二人共寝ていてください、わたしと茉莉で運んであげますから」
なるほど、そういえば機械人形の二人は魔力をエネルギーに変換して生きていたんだった。
でも、重力魔法も体外に魔力を放出する魔法だし、効果が薄れちゃうんじゃ……。
そんなわたしの心情を察したのかモントは、
「大丈夫です、重力魔法は対象の中に干渉して発動させることもできます」
つまり、ものを動かしたりするときはその『もの』に魔力を送るから大丈夫ってことなのか。
「「重力操作」」
わたしとモントが同時に唱える。
私が胡桃ちゃんを、モントが雪姫を宙に浮かせる。
ちょっと魔力の消費が普段よりも多く感じるが砂漠に居るせいだろう。
急いで砂漠から脱出しなきゃ魔力が枯渇しちゃう。
雪姫と胡桃ちゃんは魔力がなくても生きられるが、活動ができなくなってしまう。そうなってしまうと魔物や魔人に襲われてしまったっときに危険だ。更に二人は魔力を受け付けなくするすべは持っていない。時間経過で勝手に弱っていってしまう。
――あれ、モントは魔力がなくても生きれるんだ……? あれ?
新しい疑問が生まれたが、それを考えている余裕はない。一刻も早く街を見つけなきゃ。
ということで思考の片隅に追いやることにした。
「モント、近くに街はない?」
なんとかならないかと考えモントに聞いてみる。
モントは少し遠くを見つめ、やがてこう言った。
「あり……ます、ね。ここから2日の距離ですね……。風の魔法が使うことが出来ればもっと早く到着できそうです」
風の魔法……無理、使えない。いくらモントでも無理そうでしょ。ていうかさ、どうやって歩いて二日間かかる距離を目視したのさ……。
モントについての謎がどんどん増えていく。いつか全部知りたいよ。
それにしても二日間か……。
雪姫と胡桃ちゃんは二日間耐えられるかな……。
「雪姫、胡桃ちゃん、二日間耐えられそう……?」
私は二人を気遣って聞いてみる。
「……うん、大丈夫……。でも、なるべく早く頼むよ」
雪姫は話すのもつらそうでぐったりとしている。
ごめんね、無理させちゃって……。
私は心の中でそう謝る。
「モント、行こうか、二人がつらそうだし」
なにより時間がもったいない。
モントを頷いてくれた。
時刻は……だいたい午後一時。わたしの体内時計はそう告げている。なんて優秀な体内時計を私は持っているんだろう。恵まれてるなぁ……。
――いや、それはないか。左腕を返せ。
迷宮を出てからもう12時間ほど歩きっぱなしだ。
いくら体力のある私でも流石にきつい。
「休憩していいよ、茉莉。雪姫ね、ずっと浮いてるの疲れちゃった」
「……私も」
雪姫と胡桃ちゃんが休憩を促してくれた。
私達はその言葉に甘えて休憩を取ることにした。
私達は食事を取り、水分を取った。
「あああーー、生き返る〜〜〜〜」
これは私だ。情けないとは思うが私は人間だ。何かを食べなきゃ死んでしまうし、何かを飲まなければ干乾びてしまう。人間とはそういう生き物だ。仕方ない。
私は急いで食事を終えると、モントに預けていた鉱石を取り出してもらう。
拳大の大きさの鉱石は青く柔らかな光を放っている。
これは魔力貯蔵鉱石。名前そのままの効果を持っている。
魔力を定期的に貯めておけば、魔力がなくなってしまったときに使えるのでとても便利だ。
普段はモントが4つに魔力を送り込んでいる。
それを雪姫と胡桃ちゃんに持たせておく。
これで少しは楽になるだろう。
そんなものがあるなら始めから使えと言われてしまいそうだが、それは無理だ。この有能な魔力貯蔵鉱石にも欠点はある。
この魔力貯蔵鉱石は、魔力を完全に貯めないと、効果を発揮してくれないのである。
その上、その貯蔵しなければならない魔力の量がとてつもなく多いのだ。
それを4つだ。モントは凄いなぁ、と感心せずにはいられない。
モントに取り出してもらった魔力貯蔵鉱石を雪姫と胡桃ちゃんに手渡す。
魔力が吸収できずにつらそうだった二人の表情が少し緩んだ。
「……良かった」
そろそろ休憩は終わりかな。
そう思い私は立ち上がる。同時にモントも立ち上がった。
「行きましょうか」
モントが私に言う。
「そうだね。雪姫、胡桃ちゃん。……?」
返事がない。何事かと思って振り向くと、二人は安らかな顔で眠っていた。
――うん、可愛い。この世界にスマホを持ってこれていたらな……。
と、どうしようもないことを考える。
写真に収めたかったよ……。
考えても仕方がない。私とモントは重力に干渉し、雪姫と胡桃ちゃんをそれぞれ浮かばせる。
「ありがとう、茉莉……」
胡桃ちゃんが弱々しくそういった。が、さきほどよりも楽そうだ。
ごめんね、早くに気づいてあげられなくて……。
それから私達は二日間、何度か休憩を挟み、街にたどり着いた。
途中で魔人に囲まれたときは本当に焦ったけど、相手も魔法が使えなかったおかげで、私が
ここはクレーンというモントに教えてもらった国ではなく、ショードルという国らしい。正直に言うと、国の名前なんてどうでもいい。
迷宮を管理していたのがクレーンなのは覚えていたけど、出てくるところがショードルって......。これを知ったら不法入国者がたくさん出ちゃいそう。まず迷宮を攻略できないと思うけど。
街は西洋風の作りで、ガンマンがいても可笑しくなさそうだ。
カウボーイとか普通にいそうだけど大丈夫かな……。
とりあえずまずは病院……は無いんだった。まあいいや。病院を探さなきゃ。
まずは町の人に聞いてみる。
「すみません、病院って何処にありますか?」
「ビョウイン? ああ、ショードル医院か。それなら、この通りをまっすぐ行けばいいよ」
ショードル医院っていうのか。そのまんまだね。
「ありがとうございます」
私は街の人にお礼を言って歩き出す。
ショードル医院ってところで鎮静剤みたいなのをもらえるといいんだけど……。
私達は町の人に教えてもらったとおりにまっすぐ歩いた。
しばらくすると、多くな建物が見えてきた。
「あれ、だよね……?」
「そうだと思いますよ」
みつかってよかった……。
そして私はあることに気づく。
「お金!!」
そう、お金がないのだ。
そして私はあることを思いつく。
「無いものは作ればいい」
このときの私の顔は醜く歪んでいただろう。
だが私は気にしない。大切な妹を助けるためだ。
モントに迷宮から持ってきた鉱石を取り出してもらい、硬貨を作る。
お手本は幸い、迷宮に実技の授業を受ける前に最低限の金額を持ってきていたのだ。最低限と言っても金貨五枚(五万円相当)なんだけど。
モントに取り出しておらった金鉱石に手を触れ短く唱える。
「錬成」
お手本となる本物の金貨を隣に置いて金鉱石に魔力を送る。
凹凸が多く、少し厄介な構造をしていたが、わたしの腕にかかれば軽いもの。
こうしてあっという間に私は50枚ほどの金貨を作成した。
隣でモントが、
「え、茉莉? えっ?」
と、うろたえていた気がするけど気のせいだと思う。思いたい。
出来上がった金貨をみて私は思う。
――何処からどうみても完全に金貨だね。さすが私!
「じゃあモント、行こうか」
そう言って私はショードル医院に入っていく。ここではもう重力魔法を使っていない。騒がれると面倒だし。ということで胡桃ちゃんと雪姫はおんぶされている。右手だけでおんぶするのって結構辛い。
あとからモントも私に続いた。
ショードル医院はとても広く、受付だけでも凄い広さがある。
私は受付に居るお姉さんに尋ねる。
「魔力安定剤って何処で買うことができますか?」
診察は流石に無理だろうしこう聞くのが正しいかなと思ってこう尋ねた。
受付のお姉さんはこう答えた。
「ここで買えますよ、いくつ必要ですか?」
このお姉さん、できる。
私はそう思った。何をもってできると判断したかはわかりません。
「二つお願いできますか」
私がそう聞くと受付のお姉さんは、
「かしこまりました。銀貨300枚ですがよろしいですか?」
と、視線を雪姫と胡桃ちゃんにずらしながら答える。
私は何か邪な気を感じモントをみた。
モントは首を横に振っている。
そして私は確信した。
――この人は嘘をついていると。
さっきの『できる』は撤回させてもらいます。
「嘘を吐く相手は選んだほうがいいよ、お姉さん」
私は受付のお姉さんに嫌味を込めてそう言った。
お姉さんは「何故バレたし!」と言いたげな表情をしている。
嘘を暴くのってなんか気持ちいいね。
「すいません、銀貨200枚でした」
先ほどと同じように視線を雪姫と胡桃ちゃんにずらしながら答えた。
自覚してないのかな、自分の癖を。
勇気あるなぁ、と思いながら、私はこう言う。
「最後の忠告、嘘をつく相手は選んだがいいよ、お姉さん♪」
♪はおまけだ。
「ひっ……!」
受付のお姉さんがいじめられているように視えてきた。
なんでそんな顔するんだよ、そっちが悪いのに。
そう思って私はお姉さんを睨みつける。
「すいません、銀貨50枚です」
今度はわたしの眼をみてちゃんと言った。やっとかよ。
モントをみてみる。首を縦に振った。
私は金貨を一枚取り出しこう言う。
「ありがとさん♪」
お姉さんは私から金貨を受取り、銀貨五十枚のお釣りと魔力安定剤を私に渡す。
モントの顔を見る。モントはゆっくり頷いた。
オッケー。
最初からこうしていればよかったのに。
私達はショードル医院を出た。そして、さっき手に入れた魔力安定剤を雪姫と胡桃ちゃんに呑ませる。
すると、苦しそうにしていた雪姫と胡桃ちゃんからだんだん苦しみが引いていくのがわかる。
金貨一枚→10000円
銀貨一枚→100円
銅貨一枚→1円
お金はこんな感じだろう。単純で助かるよ。
魔力安定剤を手に入れた今、この街にとどまる理由はない、むしろ今すぐ出ていきたいくらいだ。
ここの人たちはみんな嘘を吐くからね。なるべく早く出ていきたい。ショードルの国の人たち全員がそうでなきゃいいんだけど。
「じゃあ、行こうか」
「ありがとう、茉莉、モント」
「……ありがとう」
雪姫と胡桃ちゃんが私に言う。
「いいよ、そんなこと気にしなくて。早く次の町に行こうよ」
「そうだね、茉莉!」
私たちは次の街を目指して歩き出した。
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