ただの女子でも英雄になれます。
あいれ
第一章
第1話 元引きこもりは強制転移で異世界へ
異世界に英雄として召喚された。
何寝ぼけたこと言ってるの?って思ってくれて構わない。
私だって信じられないよ。信じたくないって言ったほうが正しいのかな。
ある平日のお昼。
花の女子高生(笑)の私、
なんで家にいるのかって?
いじめられてたんだ。いや違う、いじめられてるんだよ。現在進行形でね。
原因は嫉妬。
自分で言うのもあれだけど、私は成績はもちろんのこと容姿もきれいで、入学式の日には早速告白してきた男子がいた。もちろんフッたんだけどね。
だって見た目だけで告白とか無いでしょ。
告白してきた人たちを片っ端からフッていったら、それに嫉妬した女子に無視されたり、悪口を言われたり、ひどいときにはお母さんの作ってくれた弁当をひっくり返されたり……。
そんなことがあって耐えられなくなった私は引きこもることにした。家にさえいれば安心だもんね。
――話がそれちゃった。
目が疲れた私はお昼を食べにリビングに行こうとした。
その時だった。
突如、どこからか伸びてきた謎の光に包まれた。
いや、囲まれた。
床を見ると謎の光はそこから垂直に伸びており、更に床にはいつの間にか現れた、ゲームなどで言う『魔法陣』が書いてあった。
「どうし――」
――て!
声が出なかった。否、魔法陣からの音が大きすぎて自分の声が聞こえなかったのだ。
金属音のような不快な音が鳴り響く。
お母さん気づいて――!
しかしお母さんには魔法陣から鳴り響くこの不快な金属音が聞こえていないようだった。
【ユニーク《オリジナル》スキル、
唐突に、機械のような無機質な声が私の脳に直接流れ込んできた。
そして、魔法陣から溢れた光がわたしの視界を奪った。
視界が回復した次の瞬間私は家じゃないどこかにいた。
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「やったぞ、成功だ!!」
宮廷魔術師達は一瞬ぽかんとしていたが、すぐに状況を把握し、疲労していたのも忘れ歓声を上げた。
宮廷魔術師達は膝立ちになって泣く者、溢れんばかりの笑顔で喜びを表現する者など、様々な感情を見せていた。
無理もないだろう。
なにせ、長年欲してやまなかった、英雄の召喚に成功したのである。毎月毎月失敗ばかり。やっと成功したかもしれないのだ。
涙を流したり、笑顔になったりするのは至極当然だろう。
――しかし。
そんな宮廷魔術師達の歓声は、あることが原因で止まってしまった。
原因は召喚された英雄である。
なんと、魔力保有量、運動神経、魔力抵抗値が0に等しかったのである。
更にその英雄が女だったことも歓声を止ませる原因となっていた。
――成功ではなく、失敗だった。
魔力保有量や、身体能力は努力次第ではどうにでもなるが、魔力抵抗はどうしようもないのだ。
だが、そんな英雄にもいいところはあった。
そう、この召喚された英雄はとてつもなく頭が良かったのだ。
クリストフは役立たずか……と内心思いつつも、顔に出ないように我慢し、英雄に歩み寄って優しく声をかけた。
「初めましてお嬢さん、あなたは英雄に選ばれました。お名前を教えていただけますかな?」
英雄はキョトンとしていたが、すぐに我に返り、
「――へ……?」
と、間抜けた返事を返した。
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気がつくと私は、物語に登場するようなお城に座り込んでいた。
さっきの声は何だってんだろう……何かを獲得したって言ってた気がするけど私じゃないよね。わたしにはそんな特殊能力なんて無いし。
周りには男の人がたくさん居る。しかもみんな泣いたり笑ったりしている。
みんな嬉しそう。
正直言って怖い。
だって一瞬意識が飛んで、戻ってきたら何処かわからない場所にいて、しかも男の人に囲まれてるんだよ?
しかもみんなよくわからないけど嬉しそう。
怖くないわけがない。
とりあえず家に返してください。
心からそう思った。
――突然歓声が止まった。
みんな私を見ている。何なんですか……。私、何かしましたか? ものすごく怖いんですけど……。
一番偉そうな男の人が私に近づいてきた。
無意識のうちに私の体に力が入る。男の人は基本的にみんな嫌いだ。
偉そうな男の人は私に優しい声で、
「始めましてお嬢さん、あなたは英雄に選ばれました」
「へ……?」
思わず変な声が出てしまった。
だって意味分かんないもん!
英雄?私が?聞き間違いじゃないの?こういうのって普通男じゃないの?なんで?
そもそもなんで言葉が理解できるの!?
もうここ怖いよ家に帰りたい……
私は気づいた。教えてあげなきゃ。馬鹿にしてるって思われてもいい。いや実際馬鹿にしてるのかな?
そして私は言うべきことを言うために声を出した。
「あ、相手に名前を尋ねるなら、じ、自分から先に名乗るのが礼儀じゃないんですか?」
男の人は困ったように、
「ははは、面白いな。それもそうだな、あまりにうれしくて自己紹介を忘れていたよ」
いやさっきの歓声が止まったのは何だったんですか……。
怖かったんですけど……いや今も怖いんですけど。
「私はキース・クリストフ。聖教教会の司教だよ。クリフって気軽に呼んでくれ。なにせあなたは今日から人間族を救ってもらう英雄になってもらうんですから」
やっぱり聞き間違いじゃなかった……。
聞き間違いであってほしかった。
「ところでお嬢さん、お名前をお聞きしてもよろしいですかな?」
クリフは優しい声で聞いてくるが、男の人にそんな声で聞かれると、迷子にでもなったかのような気分になってくる。はぁ……。
「えっと……三雲、茉莉……です。……英雄ってなんですか?」
「未来の英雄にこの世界のことを説明しよう」
なんですか未来の英雄って……面倒事の予感がする。
クリフの説明を聞いて私は、本気で帰りたいと思った。
クリフの話を簡単に説明すると、ここは剣と魔法のファンタジー世界。しかし人間族と魔人族以外はほぼ絶滅しているらしい。なんでも、500年前から姿を見かけなくなったそうだ。
そして人間族は魔人族と土地や資源を巡って800年に渡り、戦争しているらしい。
……ちなみに今は休戦状態とのこと。
で、その戦争を終わらせるために、異世界(地球)から英雄召喚術で私を呼んだらしい。
その英雄召喚術はランダムで一人が呼び出され、召喚された者は、魔人と楽に戦えるようになるオリジナルスキル……
「君のユニークスキルを見てみるかい?おーい、ちょっと来てくれハンス! お前の解析魔法の出番だ」
「俺の出番じゃねーのかよっ」
私の返事も聞かず、クリフはハンスという仲間を呼び、私の魔法を調べ、パズルのピースがハマったときのような明るい顔で、一人で納得している。
「何かあったんですか……?」
恐る恐る尋ねるとハンスが、
「三雲さんはどれも平均以下の才能だね」
爽やかな笑顔で私にそう告げた。
結構傷ついたよ? 泣いちゃうよ?
「おいハンス、ストレートに言うなよ」
苦笑いしながらクリフ言った。
えっ……?
平均以下……私なんで呼ばれたの……。
「でもなー、知力だけはえげつねーんだよなぁ。スキル名は『
ハンスがしれっとスキルについて説明してくれた。
三雲茉莉……なんて恐ろしい子なの……!!
さっきのを差し引いてもお釣りが来そう……。
でも知力だけじゃどうにもならないよね……ははは。
「ただ他のは成長次第って感じだな」
いいこと聞いちゃった。
頑張れば強くなるってことだね?
楽しくなってきた。
――このときの私はこの世界を楽観視していた。
何度も命を落としそうになるほど英雄が弱いなんて誰も思わないもんね。
絶対に生きて帰る。私は強く決意した――。
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