第7話 ケーキに夢中な水樹さん

 水色の覆面の人が、水色のスウィーツをたくさんお皿にのせている。話かけてみよっと。


「水色好きなんですか?」


「えっ? ああ……、これミント味なんだよ。おいしいよ」


「へえー。ミント味なんだー。かわいいのがいっぱいあるー」


 タメグチで話されたから、こっちもタメグチでいいや。こういう人には合わせちゃったほうが楽だよね。結婚相手には困るけど、友達ならおもしろいかも。誰か紹介してもらえるかもしれないし。


「これきれいなんだよ。小さい四角い水色のゼリーが丸くなってて、あじさいみたいになってるんだ」


「あ、ほんとだー。きれー」


 水色の覆面をかぶった人は、むちっとしていて体に厚みがある。背は私より少し高いくらい。私の背は160センチだから、この人は168くらいかな。


「たくさん食べてもとをとらないとって思ってさ」

 水樹さんは結婚相手を探すよりケーキに夢中みたい。


「そうだね。甘いもの好きなの?」


「うん、大好き」


「水色の覆面ってことは、名前は水に関するの?」


「そうそう、みずきだよ。みずきは水道の水に、樹木の樹」


「へえー、きれいな名前。私は田中藍っていうの。」藍の漢字はもう説明しなくていいや。


「あ、そうなんだ。ほら、このマカロンもおいしいよ」


 水樹さんは淡い水色のマカロンを指さした、そのとき……


 チャポンッ!


「あっ! 冷てぇっ!」


 水樹さんがバッジをアイスティーの中に落としてしまった。アイスティーが顔や手にかかったみたい。


「だいじょうぶ? ティッシュあるよ!」


 私はポケットティッシュを出して、はねたアイスティーをふいてあげた。


「あー、ごめんねー」


 水樹さんは自分のハンカチでもふき始めた。


「ハンカチ汚れちゃうからしまっていいよ。って何そのハンカチ。かわいい!」


 水樹さんが持っていたハンカチは、覆面レスラーの柄だった。


「あー、これ? うちの会社であつかってるやつ」


「えっ。なんの仕事してるの? 私、覆面大好きなの!」


「雑貨屋。こういう覆面レスラー柄の雑貨ならいっぱいあるから、今度見に来てよ」


 雑貨屋さんの名刺をくれた。


「へえー、今度時間あるときに行ってみたい!」


 うちの会社の近くにあるみたいだ。



 ツカツカツカツカツカ



 ん? 誰かが近よって来た。


「藍ちゃん! あっちにおいしそうな紫芋のスウィーツがあったわよ! 行きましょ〜!」


 そう言って朱理先輩が私を水樹さんから離して、ひっぱっていった。


「えー? は、はいい。」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る