第43話 モテキ到来

 僕はとにかく好きな人がいるからの一点張りで押し通した。だけど、後輩雨宮さんはまた教室に遊びに来ますと言って去っていった。


 その後、友人たちとカラオケに行く感じでもなくなったので、家に帰る。


「はー……」


 僕はベッドに大の字で寝そべり、白い天井を見つめる。その時はどうもなかったけれど、今になってドキドキして来た。


「生まれて初めて告白された」


 手で顔を覆うと熱を感じる。しかも、かなり積極的な子だった。さくら祭りでは大人しい感じに見えたのに。


 でも、あの調子だと、また来るだろうな。今度はカナデの写真を見せて、この子が好きだからって言おうかな。カナデとは、タイプが違うから納得してくれるかもしれない。


 そんなことを思っていると、ドタドタと階段を駆け上がってくる音が聞こえてきた。


「真尋!」


 僕の名前を叫びながら真咲が無断でドアを開ける。僕は上半身を起こした。


「告白された!?」


「ああ、うん。やっぱり真咲にも伝わっているんだ」


 あれだけ堂々と告白されたんだもんな。違うクラスの真咲の耳に入っても、不自然じゃない。


「違う!」


「え、違う?」


「真尋が告白されたのは知っている。そうじゃなくて、私が! 告白されたの!」


「ええっ!?」


 なんだ、なんだ。双子の姉弟揃ってモテキ到来か!?


「だ、誰に?」


「知らない人」


「え?」


「いや、私が知らないだけで、真尋は知っているかも。帰る時に靴箱に手紙が入っていたの。三通」


「三通!?」


 真咲は通学バッグの中からシンプルな白い封筒を取り出した。確かに三通ある。


「知らないっていうか、学校の奴じゃん。なんで、いきなりこんなに」


「それは、真尋の女装が学校でバレたからだと思う。手紙にも眼鏡を取った顔が好みですとか書いてあったし。真尋と同じ顔だと思われているのね」


「まぁ、あんまり違いないけど……」


 真咲と僕はよく似ている。しかし、反響がこんなに早くあるなんて。告白は素早くするのが流行っているのか。


「それで、その三人にはなんて返事するのさ」


「返事なんてするわけないでしょ。顔も知らないのに」


「ああ、そう……」


 何となく真咲はそう言うんじゃないかと思っていたが、勇み足で手紙を書いた三人が哀れでならない。


「それはそうと、真尋に告白して来た後輩」


 険しい顔をして真咲は僕の隣に座る。


「どういうつもりなの。こんなに堂々と女装のことをばらして」


「別に悪い子じゃないと思うけど」


「真尋、あんた。告白されたからって、その子の肩を持つのね。実の姉が被害を被っているのに」


「被害って……、告白されたことをそんな風に言うなよ」


「全く知らない人から手紙貰っても迷惑だわ。私にはそうきゅんがいるし」


「そうきゅんもいいけど、たまには現実の人間も……」


「なんでそんなこと言うの!?」


「へ?」


 真咲は立ち上がって叫んだ。


「せっかく人が心配して慌てて帰ってきたのに。真尋なんてその後輩のせいで、学校でシカトされればいいんだ!」


「ええっ! な、なんでそんなことに」


 立ち上がった真咲から冷たい視線が刺さる。


「だって、女装のことバレたんだから、今まで通りって訳にはいかないでしょ。私は別に平気だけど」


「た、確かに……」


 これまでが簡単に受け入れられ過ぎているのだ。果たして、これまで通り普通の男子高校生として接してもらえるか。急に明日から学校での生活が不安になった。


 その晩、みんなにラインで連絡を入れる。


真尋『実は学校で女装のことがバレたんだ』


朝丘『マジか』


カナデ『真尋ちゃん、大丈夫?』


真尋『放課後だったし、特に何も言われずに帰ってきたよ』


江藤『何かあれば俺たちに言えよ』


真尋『うん。そうする』


美早『こんな時、一緒の学校だったら良かったのにって思うわよね』


 本当そうだよな。一緒の学校だったなら、女装する必要もなくて、カナデとも自然と出会っていただろう。どうにもならないことを思っても仕方がない。




 次の日。緊張しながらも僕は学校に行く。となりを歩く真咲はまだ怒っていた。


「しゃべらないのに一緒には学校に行くんだな」


「……。」


 真咲はじっと黙っている。僕たち二人は電車を降りたぐらいから、人の視線が刺さってくる。


「ほら、あの子」


「あー、確かに女装似合いそう」


 別に特別悪意のある視線じゃなかったけれど、そばを歩く生徒たちは興味津々といった様子だ。


「小野田さんって、眼鏡取ったら可愛いらしいぜ」


「なんでコンタクトにしないんだろ」


 僕の女装とは関係なく真咲にも視線が集まっている。


「よっ、小野田。おはよ」


「おお、おはよう」


 僕はクラスの友人から肩を叩かれ、話しかけられた。いつものように笑顔で挨拶する。

なんだ。普通じゃん。真咲が考えすぎなんだよ。と、思ったんだけど。


「小野田さんも、おはよう」


「……はよ」


 いつもは僕とだけ話す友人が真咲に話しかけた。


「今日もいい天気だね」


 どうでもいい話題で、再び話しかける。なるほど。真咲狙いか。ただ、真咲の方は挨拶を返しただけで、黙ったままだ。真咲が怒っているのって、僕の心配がどうのって言うより、こうやって男子が絡んでくるからじゃないか? 


「先輩。おはようございます」


 校門をくぐってすぐの所で雨宮さんが立っていた。モデルのような彼女はすれ違う生徒たちに振り返って見られている。


「おはよう、……って、もしかして僕を待っていたの?」


「はいっ!」


 爽やかに笑う雨宮さん。


「そ、そうなんだ」


 さすがに僕も照れる。そんな爽やかな朝の風景とは真逆の真っ暗なオーラを発している真咲が言う。


「その子が真尋に告白してきた子なの?」


「あ、ああ。うん。一応」


「先輩? その隣の方は?」


 雨宮さんが恐る恐るといった感じで聞いてきた。


「ああ、真咲は僕の」


 双子の姉と言おうとしたら、グイッと強引に腕を引かれた。真咲は雨宮さんに噛みつくように言う。


「私たち昨日から付き合っているの! だから、あなたの入る隙間なんてないから!」


「「「え……」」」


 僕だけじゃなく、そばにいた友人も目を点にしている。目撃者も多数。そのまま、ぐいぐいと引っ張られ、友人と雨宮さんを置き去りにして靴箱の方へ。


「ちょ、ちょっと、真咲!」


「ふぅ、これで万事オッケーね。あの子もしつこくしてこないだろうし、私も男子にちょっかいかけられることないわ。そうよ。こうすればよかったのよ」


「いやいやいや! 女装の噂よりもよっぽど立ち悪い噂が立つから!!」


 腕を組んでいる僕らはすでにひそひそと噂されている気がする。


「双子の姉弟で付き合っているとかないから!」


 この日、僕は必死で否定して回る羽目になった。

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