あなたの行くままに

@gaotra

第1章 別れと再会

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 午前7時のアラームが部屋中に鳴った。カーテン越しからは日差しが溢れるばかりに入り込んでいる。

 「あー、朝か。」

 俺はいつものように携帯の目覚ましを止めた。それと同時に・・・

 「おはよう、お兄ちゃん。ご飯できたよ。」

 妹が部屋のドアを開けて俺を起こしに来た。いつも俺よりも早く起きて尚且つ朝食を作ってくれている、とても優しく、よくできた妹だ。

 「おはよう、ありがと。今から行くよ。」

 妹がキッチンに戻るために俺の部屋から出た後に、「朝は本当に好きになれないな」と一言愚痴をこぼしてから心にしまい、部屋を出た。


 俺にとって、この生活は3年目になる。カムイ共和国は世界でも有数の先進国である。首都であるクリタマは日本で言えば東京のようにビルが山脈のように連なっており、複合施設も至る所に存在している。この首都から南へ遠く離れた先進都市カフマといういわゆる公園都市のような町の海沿いにあるアパートで俺と妹の紬(つむぎ)は生活している。紬の背は俺より頭一つ小さいが、モデル並みにスタイルが良く、栗色のロング髪で二重の目、鼻は高く、ぷっくりとした唇がチャームポイントの女の子だ。俺とは少し歳が離れているが、この春から大学3年になった。

先進都市というのは科学技術などの実用化を都市規模で行われている都市のことを言う。このカフマの他に全部でカムイ共和国10都市が先進都市に指定されている。なので、この国の首都クリタマで多く使われている携帯電話はスマートフォンだが、この都市ではそのような四角い端末ではなく、メガネやサングラスの中にチップが埋め込んでいるものを使っている。メガネ、サングラスなどの眼鏡類やイヤホンコードの途中など自分たちが身に着けているものからプロジェクターのように携帯電話と同じような画面が映し出され、その人が空気中で操作をするとあたかも携帯に触れているかのように電話やメール、ゲームなども行えるという代物だ。俺もこの先進都市に住んで長いので、自分のメガネからアラームなどの携帯機能を使用している。研究者は日々このように実験に参加してくれる人々から改善点などを拾い上げ、国として実用化できるように日々切磋琢磨している。

 話は戻るが、今俺と妹が住んでいる家は、元々祖父の家だった。しかし祖父がクリタマに住んでいる俺と妹の両親と一緒に住むことになった。その時、俺は大学1年生のころだ。俺は大学生になっても実家から通いたかったが、両親から「面倒になるから一人暮らししろ」と無理やり家から追い出されてしまった。もちろんその時に料理や洗濯など家事全般したことがなかったし、やりたくなかったからだ。結果的に祖父と入れ替わりでこの家に住むことになった。

 それから4年が経過して、俺が会社の面接試験に合格した数日後に妹から連絡がきた。大学が遠いために一人暮らしをするということになっていたが、俺が住んでいるアパートに一緒に住みたいと言い始めたのだ。いやさすがに高校3年で、しかも来年から大学生になる妹がなぜこのアパートに住みたいのか。その時に俺はそう感じていた。もちろん過去の経験からでの兄として心配していた。その数日後に妹から理由を聞いたところ、俺の勤めている会社の近くに妹が通う予定の大学があったためだ。まぁ妹から俺が住んでいるこのアパートから通いたいと希望を出してきてくれたし、その思いを汲んでやろうとその時決めた。また両親からあまり接点を持ちたくなかったというのも後々聞いた。大学くらいはそうしたいだろうと思ってはいた。よってその年の春から俺は妹と二人で生活することになった。


 「今日は休みだから友達と買い物に行ってくるね。」

 「わかった、夕飯どうする?」

 「そうだねー、帰ってから食べるよ!」

 こんな日常じみた会話をしている中でも紬はすごくうきうきしている。それは起きた時から思っていた。まるで毎日どこかのアーティストのライブにこれから行くような感じである。が、まさか今日で、しかも朝に言うとは思わなかった。いつもなら前日子供みたいに嬉しそうに言ってくるのだが。なぜかはわからず俺は結局朝から会社に行くので、あまり深くは突っ込まなかった。朝から楽しそうにしている妹を見ていると先ほど愚痴をこぼす程朝でイライラしている俺の心が少し落ち着く。と同時に、朝からなんか変なことを考えてしまったなと思い深く反省をした。それくらいは兄として幸せそうな妹を見ることはひとり暮らしでは出来ない特権であろうと感じた。しかし、今日は天気が良さそうだな・・・。昨日は天気予報で雨とか言っていたのに。こんな日は会社を休んで公園とか行ってゆっくりしていたいな・・・などと今度は妹の次にくだらないことを思いながら朝ご飯を食べて俺は妹に先に行くと告げて家を出た。

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