銀河商事とおっさんの会社が競合するようです
【緊急】銀河商事がロストフ連邦と連携していました
「ロストフ連邦が?」
涼井は眉をひそめた。
海賊惑星ランバリヨンでのヘルメス・トレーディング社の整備は順調に進んでいた。宇宙港や補給拠点の整備を開始し、浮遊惑星であるがゆえのエネルギー不足は、やや旧型だがリアクト機関によるエネルギー炉の建設を進めていた。
これらは全て開拓宙域の資材をある程度適正な価格で買い上げることで行なっていた。エネルギー炉も中古の宇宙船などのリアクト機関を再利用していた。最初から専用で作る炉よりも効率は落ちるが十分だった。
涼井はちょうど、オフィスとしている副官のリリヤと打ち合わせをしているところだった。
ランバリヨンの低層ホテルをオフィスに改造したため、テラスがあり、そこは休憩所もできるように無料のドリンクを置いていた。さりげなく陸戦隊員などが警備についている。
そこに情報をもってロブ中佐がやってきたのだった。
彼はすっかり涼井の情報幕僚のようになっていた。
「はい、ロストフ連邦が正規の艦隊を、治安維持の名目で送ってきたようです。開拓宙息でもかなり深層の方ですが……」
ロブ中佐は汗をふきふき座り、カウンターからもってきた冷たいコーヒーを飲んだ。「カジノ産業を持つ惑星モルトは自衛を試みたようですがヤドヴィガとロストフ連邦あわせて2万隻強の船艇に粉砕されてしまったようです」
「かなり強引だな」
涼井はメガネをくぃっとあげた。
「はい、ロストフ連邦にいたっては偽装でも何でもなく正規軍ですからね。いくら開拓宙域が誰のものでもないにしても微妙なバランスで成り立っているわけですから」
「提督、いや元帥のメガネくぃっが久々で萌えますね」
「ロストフ連邦はこの世界の……いや、銀河商事と手を組んで何がしたいのだろうな」
「そうですね……これは私の推測になりますが」
「やはり萌えですよね」
だいぶリリヤの奇行に慣れて来たロブ中佐は淡々と事実と推測を分けて語った。
ロストフ連邦はもともと開拓宙域と関係が深い。
傭兵艦隊ヤドヴィガにもロストフ連邦の軍人出身者がかなりの数いるが、それは本当に脱落組なのか。実は軍事的には最初からロストフ連邦が協力しているのではないだろうか。
「なるほど銀河商事の持つ巨大な民間企業としての能力や資本と、国家が結びつくわけか……」
「開拓宙域は良い意味で自由を求める人々が多いのですが、実態は銀河商事が重いローンや交易手段の独占で締め付け、ロストフ連邦にはその資金が還流している可能性があります」
「なるほどそれがこの間のロストフ連邦による共和国侵攻につながるわけか」
「その通りです。さすが元帥、話がお早い」ロブ中佐が珍しく破顔した。
「ロストフ連邦は開拓宙域を利用して力をつけてきているようです。前々からの元帥の予感が当たっていたわけですな」
ロストフ連邦と銀河商事が組んでいる一方、商業ギルド同盟のように名目をつけて小規模ながら進出している勢力もある。帝国や共和国はこの世界でもっとも強大な国家だ。
その領土を何とか取りにかかるよりも開拓宙息のような場所で勢力を伸ばしたほうがリスクも少ない。もしかすると他にも独自に領域を見つけて惑星の開拓を進めている勢力はあるのではないだろうか。
そして銀河商事はヘルメス・トレーディング社をライバル企業として認識し、ヤドヴィガでは力不足と考えいよいよ正体を露わにしたのではないだろうか。
そうなるとあくまで独立勢力でそれぞれは小規模の海賊たちや、傭兵艦隊マトラーリャだけでは力不足になる。
「うーむこちらも正規軍といきたいところだが」
ロブ中佐はリリヤにこちらの予定を聞き、任務に戻っていった。
「さすがに共和国軍を動かすとなると帝国との利害の調整に手間取りそうだな」
皇帝リリザと直接話し合えるにしても彼女も帝国の統制には一苦労している。
涼井が統括しているのもあくまで共和国軍の宇宙艦隊のみだ。
そう簡単に共和国と帝国の足並みを政治的にも揃えるのは難しそうだった。
下手なことをするとロストフ連邦などの中規模国家群との戦争になってしまいそうだった。
今は共和国も帝国も内政の充実につとめたい時期でもある。
「なかなかあちらもこちらもだな」
涼井は苦笑した。
地球の銀河商事のプロジェクトなどでも社内政治の調整や、プロジェクトのあちらこちらで起こる不協和音の処理に追われたものだ。
「人間そのものはこちらもあちらもそう変わらないか……」
こう言う時に共和国大統領のエドワルドが懐かしくなった。
彼はタカ派とみられ嫌われていた金権政治屋でもあったが、よく軍部を支援し共和国を支えていた。新しい大統領はリベラルで、ちょうど帝国との戦争が一区切りついたのもあり、軍の削減案などを議会に提出している。
開拓宙域においては政治の成分も強く、以前のような政軍一体の協力関係のほうが望ましかった。
「会ってみるか」
涼井は新大統領とも会う必要性をふと感じたのだった。
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