第28話 Re:Re:Re:Re:【進行中】秋の黄昏作戦
「なんと、スズハル提督の言った通りになった……」
大柄ででっぷりとした初老の男がつぶやく。共和国軍宇宙艦隊大将の階級章がきらめく。
宇宙艦隊司令長官のノートン大将だ。
目の前には予期せぬ敵に出会い動揺しているリシャール公爵の艦隊60000隻。
「スズハル提督はとにかく臆せず撃ちまくれと言ってたぞ。
ノートン大将の司令で40000隻の共和国艦隊は一斉に動き出した。
アルテミス宙域の回廊の布陣と違い、2~3000隻ほどの艦隊に分かれて乱雑に布陣していた。
飛び交う小惑星、ブラックホールにクエイサー、恒星に属していない遊弋惑星など地形が多彩で非常に危険な宙域だ。
地形を完全に把握している共和国艦隊はそのいたるところに潜み、あるいはブラックホールの重力圏ぎりぎりに布陣していた。
主力となっているのはノートン自ら率いる第1艦隊、そして辺境を遊弋していた第6、第7の正規艦隊。
そして今回かき集めた5500隻の第13艦隊。
彼らは辺境宙域の小惑星やガス状惑星、クエイサーなど障害物の多い宙域を巧みに利用していた。
地形を完全に把握している彼らは神出鬼没に出現してはリシャール公の主力艦隊に撃ちかけた。
特に第13艦隊は武装商船など海賊まがいの船艇を含んでいる。
それらは商船構造の船に無理やり装甲や強力な砲だけ載せていたり、あるいは放出された旧式の軍艦の改造だったりした。
それを指揮するリアン准将は拳銃を抜いて指揮をとっていた。砂色のぼさぼさの髪の毛に豪快な髭。
彼は補充将校でもともとはほぼ海賊だ。
拳銃を抜いているのはそのほうが気分が出るためらしい。
「ウハハハハ! いいぞ撃ちまくれ! そうだお上品な貴族のお坊ちゃんなど捕らえて身代金請求だ!」
第13艦隊は時には小惑星のクレーターに潜み、敵味方の艦艇の残骸に隠れ、勇戦した。
「な……な、なんなのだこれは!」
リシャール公は白髪に近い金髪をふりみだし、モニタに両腕を叩きつけた。
一瞬、艦橋が静まり返る。
「戦術も……戦略も何もあったものではないではないか!」
リシャール公の瞳は怒りで燃えたぎる溶鉱炉のようになっていた。今までにない怒りに幕臣たちは思わず身をすくめる。
そうこうしている間にリシャール公の本隊60000隻は完全にこの自然の要害の罠にはまりこんでいた。
共和国主力をアルテミス宙域に集めたがゆえの、辺境の地域なら問題なく突破できるという油断。
スズハル提督さえいなければどうにでもなると考えていた油断。
そして大軍であるがゆえの奢りが今、リシャール公を苦しめていた。
帝国軍の大艦隊はこの錯雑とした宙域で身動きがとりづらく統制がとれず、その間にも突然現れる共和国の小艦隊の砲撃になぎ倒されつつあった。
「これでは……華麗な機動も、中央突破も、背面展開も何もできないではないか!」
リシャール公はうめいた。
メインモニタに映る形勢は刻一刻と悪化している。
リシャール公に付き従うきらびやかな幕臣たちも動揺しはじめていた。
「撤退されては……」
おずおずと副官が具申する。
それをリシャール公爵は睨みつけた。
「できるか! こうなったら全艦突撃だ! 何でもいい前にむかって前進しろ、そこが前線だ!」
「は……はっ!」
さながら足首を罠に絡み取られ、四方八方から降り注ぐ槍で倒れんとしていた古代のマンモスのような状態だった帝国艦隊は一転、ひたすら前進をはじめた。
機動も何もなく、どれだけ砲撃され撃沈されても前へ前へと進み始めたのだった。
砲火が激しく交わされた。
最初の攻撃で52000隻ほどに減少していたが、それでも帝国艦隊はまだ数の上でも優勢だった。
敵に倍する被害を出しながらも前線を押し上げはじめた。
「これは……!?」
提督席でノートン大将がうめく。
「な、何かの罠なのか?」
怯えた目でメインモニタを見つめる。被害を出しながらも共和国艦隊の中心に向かって一斉に「前進」する帝国艦隊にノートン大将はすっかり動揺していた。
「閣下……スズハル提督から託された書簡をお忘れでは?」
ノートン大将の副官がそっと紙でできた非常に高級な「手紙」をノートン大将に渡した。
「困ったときはこれを開けとおっしゃっていたかと……」
「う、うむそうだったな」
ノートン大将は巨体を震わせながらそれを開いた。
『敵が奇妙な行動をとるときは10000%罠ではありません。思いっきり反撃してください。劣勢になったら距離をとってできるだけ抵抗しながら後退してください。以上』
ノートン大将は疑心暗鬼になるのを止めた。そしてはっきりと指令するのだった。
「……距離をとりながら砲撃!質量弾を全部吐き出せ!」
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