3章:証言その1



探偵が先ず最初にやったこと。それはブラウン警部が拘束されているうちに証言を行員の方にお願いすることだった。

 人間の記憶は鮮度が命。現場は残しておいてくれるだろうから先に証言を取っておこう。という事らしい。

 警察の人が矢鱈協力的で、直ぐに僕と探偵の二人は銀行内の応接室で行員から証言を訊くことが出来た。




「聞いてくださいよぉ探偵さん!」 最初に証言協力してくれたのはリリーという中年の女性行員だった。初めに手を挙げてくれたお陰で協力し易い雰囲気を作ってくれたのだが、

「全く!朝部屋に入った時には健康そのものだったのに店長さんが倒れてるって聞いてビックリしましたよ!てっきり最初は病気か何かかと思ってお客さんの話を中断して駆けつけたら血が一杯でアタシはひっくり返るかと…」

中々流れるような舌運びでこちらの舌を巻いてくれていた。

「店長さんたらいつも難しい本読んで勉強してたもんだからアタシが「店長さんは勉強熱心ね」って言ったら何て言ったと思う?「いえいえリリーさん、私は本が好きで好きで仕様がないただの中毒なんです。昔は司書の資格も取ってて銀行員じゃ無ければ司書になってたくらいなんです。」って!アタシみたいなヒラ行員にさん付けするのよ!?いつも最後まで仕事して朝は誰より早く来てて本当に彼みたいな人が何で此処に居るんだか分からないったらありゃしない」

機関銃は止む気配が一向に無い。しかし、訊かないと証言の意味が無い。何か捩じ込まないと。

 隣にいるカモヤもそうコンタクトを送ってきた。

「店長さんは真面目な方だったのですね。」

それで精一杯だった。

「そうそうそうそうそうなのよ!真面目も真面目大真面目で金庫開けるときとかトイレに行く度に店長室の鍵かけるのよ信じられるかしら!?」

面白い話が聞けた。流石に通常業務の合間にこうやって来て貰っているわけだし、もうそろそろ次の人にも話を聞いてみるか…。

「理由もなしにここに飛ばされたのに人事に怒る様子もないのよ信じられる!?」

キリがない話を強制的に切り上げて次の人に来て貰うように頼んだ。


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