レベル1
「た、すけて…」
肺を絞るような声で助けを求める。腰が抜けて動けない。助けを求める声は目の前の悪魔に対してか、それとも救世主に対して向けられたかは分からない。ただ、この状況を打破してくれれば誰でもいい。
「残念だがぁ、この辺に俺より強ぇー奴は居ないぜぇ。そして俺はおめぇを助けねぇぜぇ。つまりぃ、お前を助けてくれる奴は居ねぇぜぇ。」
目の前の悪魔は真っ赤な舌をペロリと出しながら嗤う。
ここは安らぎの森。モンスターのレベルが低く、危険性の低い、駆け出し冒険者育成用の森である。
本来なら悪魔なんていう上位のモンスターは出る筈がない。なのに目の前には悪魔が居た。
「強ぇー奴と殺し合いも楽しぃーがよぉ、偶に雑魚をブチッと殺ちまうのもスゲェー楽しぃーんだよなぁ。」
ゆっくりと私に近寄る悪魔。カラスのように黒い身体。細身であれど力強い肉体。
レベルは解らなくても解る。レベル6の私より圧倒的に強い。
「因みにぃー、俺のレベルを教えてやろぅー。俺のレベルは52だ。」
ニヤリと口角を上げながら私を見下ろし笑う。終わりだ。この周囲にそんな強い人は居ない。
『死』
心がその言葉でいっぱいになる。いやだ、死にたくない、未だスライムしか倒していない、クエストの報酬も貰っていない、仲間も出来ていない、装備を新しくもしていない、魔法を覚えてもいない、悪党をやっつけて皆にありがとうとも言われていない、船に乗ったり飛行船に乗ったりして今まで見たことない海や大空を見てもいない、未踏のダンジョンの主を倒して初めて攻略してない、お宝をゲットしてギルドの皆に噂されてない、功績を認められて王様に謁見していない、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
「死にたくない、助けて…」
残った息を吐きだし、来もしない、来る筈ない助けを求める。
「残念、もうお終いだぁ。死になぁ。」
悪魔が手刀を振り下ろす。圧倒的レベル差の膂力では確実に助からない。
終わってしまった。
「見つけた!助けに来たよ!」
死の間際に聞いた言葉は緊張感の無い声だった。
意識が暗い水の底に沈んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます