Folge 98 嵐の前の静けさ

 一人、また一人と寝落ちから帰還している。

 全員が寝ぼけ眼だ。

 構いたい気持ちをグッと堪える。


「そろそろ起きようかな」


 と思ったけれど、まだ饅頭にされていた。

 自分が起きるために妹を起こさねば。

 二人を抱きかかえる。

 ああああ、このまま寝たい。

 いや、我慢だ。この誘惑に負けてはならない。

 ならない――な、な、な、ああ!

 ツィスカを剥がしてカルラを剥がす。

 ほっぺた痛い。


 にゅ~、すぽん!


 って感じで、ギリギリまで吸い付いていた。

 マジでほっぺた取れるかと思ったよ。


「ツィースカ! カールラ! 起きてくれよ」

「兄ちゃん、電話してなかった?」

「なんだよ、起きてたのか」

「あれだけ話していたら起きるよお」

「だってさ、ずっとほっぺた吸い付いてたぞ」

「起きたら吸い付いててびっくりした。でも美味しかったからそのままハムハムしたの」

「美味しい?」

「兄ちゃんは美味しいよ」


 オレって食べ物?


「そうね。サダメは美味しいわ」


 カルラまで……いつも味わっていたのか。


「その、ご飯の様に美味しいの?」

「わたしたちの元気が出る美味しさなの」

「わからない」

「そりゃ食べられる側なんだから、兄ちゃんには分からないでしょ」


 分かったような、分かっていないような、分かるわけないか。

 妹にしか分からないことだもんな。

 どうあれ、好きでいてくれればいいさ。


「それより、誰からなの? ママだとは思うけど」

「分かってんじゃん」

「帰ってくるの?」

「らしい、パパもだってさ」


 カルラとハイタッチをするツィスカ。

 そういうのも、可愛い。

 そして、やっぱり大喜びだ。


「ママにファッションのこと聞かなきゃ!」

「新しいメニュー教えてもらわなきゃ」

「僕は撫でてもらう」


 タケル!? 猫じゃないんだから――あ、猫のような連中だった。

 やっぱり親に会いたかったんだな。

 寂しさは誤魔化せなかったか。

 オレだけで親の代わりができるわけないよ。


「サダメ、どうしたの? 寂しい顔している……ボクがいるよ?」


 ああ、こうしてちゃんとフォローしてくれる人がオレにはいるんだな。


「ありがと、大丈夫だよ。あのさ、両親が帰ってくるんだ」

「そうなの!?」

「うん。だからさくみさを紹介するつもりだけど、いい?」

「え!? それって、プロポーズみたいなんだけど」

「あ、確かに。そこまで飛躍はしないけどさ、ウチにほぼ住んでいるのもあるしね」

「……そういうことかあ。ちょっと残念だけど、一緒に住んでいるのを伝えてくれるのは嬉しいかも」


 喜んでくれるなら何よりだ。

 でもね、オレが話しておきたいのさ。

 助けてあげたいってところから始まった同居。

 今は一緒に居て欲しい人ってことを伝えておきたいんだよ。

 これは、二人に内緒。

 さて、あの二人が帰ってきたら賑やかになるな。

 ……少し不安もあるけれど。

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