Folge 66 好み合わせ

 さて、いよいよ夏休みになりまして。

 お泊り旅行の前日となり――


「可愛いパジャマ、可愛いパジャマ」

「わたしたちのって、全部可愛いけれど」

「その中でも特に可愛いのを持っていくの」

「そんな特別なのあったかしら」

「少しの差でも良いものを」

「ツィスカがそこまで言うと、わたしも気になるじゃない」


 お着替え部屋では妹が持って行く衣類を選んでいた。

 部屋中に広げられている。

 男子チームは当分選べそうにない。


「兄ちゃん、入れないよ」

「まだ選んでいるのか?」

「気が済むまで待つしかないよ」

「そうだな」


 女子の楽しみでもあるのかな。

 日数分あればいいと思うけれど、今回は一晩だけだし。

 そこまで気合を入れても、ねえ。


「他のモノから用意するか」


 と言っても、別荘には最低限の日用品はあるらしい。

 男なら着替えすら無くてもなんとかなるっぽい。

 しかしウチにとっては珍しい旅行だ。

 例え一泊でも楽しくなるのは当然だろう。

 それにウチと美乃咲家は親が関知していない。

 自分たちで考えて動けてしまう。

 だが流石に最年長が高校一年生。

 学校には話を通しておく必要があった。

 あるはずなのだが、その辺はウチの親が学校側に了承を得ていた。

 ただ不思議な事がある。

 通常ならば先生の一人は引率者として付いてくるべき話。

 部活の様にね。

 それが先生に話をしたら、「気を付けて」の一言。

 いいのか本当に!?

 経由場所と別荘からの連絡を担任にする。

 それさえすれば、自分たちだけで行けと。

 緩い、緩すぎる!

 地区の条例に引っ掛かるんじゃないのかな。


「そういえばあの二人も家で同じ状況とか?」

「連絡は無いけど、そうじゃない?」


 夜は藍原家で過ごすことになっている美乃咲姉妹。

 ウチに置いておけないものを取りに帰るだけ。

 そうか、ずっとウチにいるんだった。


「あっちの家、掃除とかしているんだろうか」

「どうなんだろう。家事については見たり聞いたりしたことなかったね」


 ふむ。

 なんだかんだ言ってもお嬢様たちだ。

 家事は苦手という偏見が頭に浮かんできてしまう。

 実際の所が気になるな。

 出来ても出来なくても納得してしまいそう。

 男子チームはそれぞれの部屋で他の荷物準備を始める。


「着替え以外となると……かゆみ止めとか、虫よけとかかな」


 あると助かりそうなアイテムを揃えることにした。


「兄ちゃーん! これ好き?」


 部屋に飛び込んできたのは下着姿の長女だった。


「そんな恰好で家の中を走り回るなよ」

「いいじゃん、家族だけだから」

「そうだけども。女の子なんだからさ、意識はしろよな」

「兄ちゃんにしか見せないのに。……怒られちゃった」


 怒られて喜ぶな。

 顔はにやけているじゃないか。


「ところで、あっちで下着を見せることってあるか?」

「へ?」

「いやさ、風呂は脱いじゃうし、寝る時も着けないじゃん」

「そっか。それじゃあ寝間着を考える! 何がいい?」

「オレの好みかよ」

「そりゃそうよ。あたしで兄ちゃんが喜ばなきゃ駄目よ」


 駄目なのか――そんなことは無いが。


「いつも喜んでいるから、ツィスカの好みにしなよ」

「そうなの!? 喜んでいるのかあ。そっかぁ。えへへ」


 なんだか顔色をピンク色に染めて戻っていった。

 なんであんなに可愛いのか。

 思わず両手を合わせて拝んでしまった――ありがとうございます。


「あの下着姿が綺麗だったな」


 本当に妹なのか? 妹で楽しみ過ぎていないだろうか。

 好きでしかないんだが。オレの人生に乾杯!

 ……未成年だけど。

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