Folge 51 息抜きは大事

「うん、そうそう」

「へえ。もっとややこしいものだと思っていたよ」

「見方を変えれば分からないと思ったことも見えてくるの」


 約束通り、美咲に勉強を教えてもらっている。

 なんとなんと、勉強の事とは言え話しに困ることが無い。

 いい雰囲気で勉強も捗りつつ会話が弾んでいる。


「サダメちゃん、授業を聞けていなかっただけなんだね。勉強すごくできるじゃない」

「そう? 必死なんだけど」

「私が教えているのを恥ずかしくなってきているわ」

「なんで? 一つも間違えていないし、分かりやすいし、美咲凄いと思うけどなあ」


 シャープの頭をこちらに向けて上目遣いをする。

 女の子の上目遣いってさ、いいよね。

 オレだけかな。

 ズルいなあって思っちゃうよ。


「勉強できる人にそういうこと言われるとね、恥ずかしいんですよ」

「本当のこと言っているのに……」

「もっと近くで教えますから!」


 その宣言はなんなんだ? そりゃ近いと嬉しいけど。

 せっかくの二人きりだしね。

 たぶん聞き耳たてているヤツがいるんだろうけれども、今更気にするオレではない。

 最近こういう時間が恥ずかしくなくなってきているなあ。

 外だとまだ気になることがあるんだが。


「はい、続きをやっていきますよ。いっぱいあるんですから」

「はーい」


 美咲が生き生きしてきたな。

 弟妹もそうだが、美咲たちも勉強できるんだよなあ。

 才色兼備ってやつか。

 そんな連中に囲まれているなんてな。


「サダメちゃん、続きをやると言いましたけど、ちょっと息抜きしていいですか?」

「そういや始めてから一度も休んでないね。一息つくか」


 と言ったとたん、押し倒された。

 倒され過ぎていないか?

 一緒に勉強ってことで、普段の机ではない。

 小型テーブルを囲んで床に座っている。

 だからこそ押し倒しなんてできるわけだ。


「美咲さ、息が荒いよ?」

「そうですか? なら……静めるために抱きしめさせて」


 斜めからのフォールを決められる。

 カウントスリーじゃ起き上がれない。

 はい、オレの負け。


「鼓動がめっちゃ伝わるし、息も激しくなっているけど落ち着いている?」

「んはあ。これは、安心するので落ち着くのですけど、興奮もしています」

「興奮って――今は二人の時間だし、オレ逃げないよ?」

「そんな風に言ってくれるなんて……嬉し過ぎます」

「そんなに? ほら、頭も撫でるし、背中をトントンしたりするよ?」


 今日は妙に落ち着いている自分。

 これぐらいの事ならしてあげたくなっている。

 咲乃と一緒にいることの方が多かったのは確かだから。

 悪いと思うわけじゃないけれど、同じようにしていたいんだ。

 二人共同じレベルで楽しんで過ごして欲しい。

 オレにその手伝いができるのなら、いくらでも相手する。

 何故とか、どちらがとか、そういうのは考えたくない。

 どちらも同じように温かみを感じていてくれ。


「撫でるだけでも役に立っているか?」

「役に立つとかそんな風には思っていません」


 頬をくっつけてきた。

 双子でも全然違うこの感触。

 妹と一緒だ。

 それぞれ一人の人であって、双子は同じでは無い。

 ――力説することかよ。

 口に出していないからいいものの、何様なんだか。

 変なテンションになっているのかな。


「好きな人に構ってもらえるって、どんなことでも嬉しいんです」


 頬ずりズリズリ。

 彼女ではない同級生とのスキンシップ。

 なんて思うと妙な興奮を覚えるな。

 ヤバい。

 いよいよ何かが麻痺してきていると思う。

 何かがわからない。


「美咲。なんかね、こうされているのが嬉しいんだけど」

「ならいくらでもしますよ?」

「うん、それでもいいし、オレってどうしたらいいんだろ」

「ん? 何を困っているのですか?」

「今美咲が嬉しいことをしてあげたい。撫でるとかも嬉しいとは言ってくれたけど」


 頬ずりを止めて顔が正面に現れる。

 部屋の照明が隠れて綺麗な顔を拝みにくくなっちゃった。


「では緊張しますけど……させてください」


 はい、この体勢ならキスだよね。

 オレも求めていたようだ。しっくり来ているもん。

 同級生とキスするのがしっくりくるとはなんだ?

 段々自分が壊れていくような気がしている今日この頃。

 止めなくていいのかな。

 ヤバければ妹が止めてくれるのかな。

 答えが出ないから、キスに集中して逃避することを選んだ。

 ――勉強の続き、できるかなあ。

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