Folge 48 寝落ち

 今日のベッドは硬いな。

 その前に、変な寝方をしているぞ。

 ああそうか、勉強していてキリがついた所で寝落ちしたのか。

 終わったと呟いた所までは覚えているけどその先はさっぱり。

 どうも机に頭を落とした後で意識が飛んだようだ。

 首が痛い。

 タコの吸盤みたいに机にくっついている耳も痛い。

 ヨダレは……大丈夫そうだ。

 今は何時だ?

 じかん、じかん――四時十分。

 また中途半端な時間だこと。

 でもまた寝るのは怖いな。

 あいつらが起こしてくれるはずだけど。

 せっかくだから少し進めるか。

 テスト期間までは一週間ある。

 しかし全教科一から目を通さなきゃならない状況。

 少しでも頭に詰め込まないと間に合わない。

 これが嫌で授業はしっかり受けていたのに。

 女の子にドキドキしていただけなんて、我ながら情けない。

 ん? ――あ。

 いつも情けないやつだった。


「ええい、勉強するんだ、勉強を!」


 嫌な事はスルーするんだ。

 あ、ダジャレになった、いやそんなわけないから。

 ――寝起きは変な事を思いつくな。


「喉乾いた」

「そこにあるよ。ボク、一口飲んじゃったけど」

「ああ、そんなの構わないよ。ありがと」


 シンプルに麦茶。

 もう夏だねえ。

 カラッカラの喉にはお茶の方が助かる。


「うめえ。染みるわあ」

「んふふ。お酒みたい」


 ……あれ?

 オレ、一人じゃなかったっけ。


「可愛い寝顔だったなあ。サダメ、好き」

「咲乃? いつからいたんだよ」

「ゴトって音が聞こえたから、飲み物もって様子を見に来て――」


 机に両肘をついて頬杖にしながら、軽く横目で話をする。


「お邪魔したら寝てたの。それからずっと寝顔見てたんだ」

「それ、可愛いな」

「ん? どれ?」


 寝起きなのもあって、口が緩い。

 思ったことをそのまま口に出してしまう。


「そのポーズ。結構好きかも」


 頭撫でちゃう。

 猫みたいに目を閉じてにっと笑みを見せてくる。


「そういうことサダメの方から言ってくれるようになって、嬉しいな」

「言うとマズイ関係でも無くなったからかな。素直に言えるようになった気がする」

「そう、なの?」

「それとも寝ぼけているからってのとどっちがいい?」


 頬杖を崩し、片腕をオレに伸ばしている。

 そして細い指が腕を掴んできた。


「前者。もっとボクに気持ちを伝えてよ。ボクからばかりだったんだからさ」

「お前が一方的にオレの中に入り込んできたんだろ? 耐性無いから大変だった」

「もう平気でしょ」

「……不思議と平気になってる」

「頑張った甲斐があったなあ。ボクは言葉で伝えられなくて、でも伝えたくて」


 掴んだ腕を引っ張られるのかと思ったら、彼女がスゥっと寄ってきた。

 上目遣いで目線を合わせてくる。

 こっちもロックオン。

 明け方の空気感が雰囲気を演出しちゃって。

 これ以上コイツを可愛くするなよ――。


「必死だったんだ。でもサダメは全部受け止め続けてくれた」

「気持ちは伝わっていたよ。とても分かり易かった」

「そうなの? ……必死にすること無かったかな」

「いや、妹で慣れているからさ。考える暇も無いぐらい畳みかけてくれたからだよ」


 極自然に二人の唇は重なった。

 こんなムードでするのもいいな、癖になりそう。

 その上、咲乃がいつもより綺麗に見えて。

 なんだよこれ、最高じゃないか。


「サダメ、好きだよ。やっぱり好き。ボクのになってよ」

「簡単に、はいそうですってわけにはいかないよ」


 気づけば互いの指を絡ませて両手をがっちり握り合っている。


「あの、さ。さく……」


 何か言おうとすると、音が鳴るシステムは何とかならないか。


「サダメ? まだ勉強しているの? 寝るのも大事よ」


 カルラか。

 もう起きたのかな。

 そういや時間は――


「五時半か。もう朝の準備をしてもいいぐらいだ」

「そうかもね、んふふ。何を言おうとしたの?」

「ああ、それは……また今度」

「んもぉ、ケチ」


 おでこをツンと指先で押された。

 テスト勉強せずに何をしているんだ。

 はい、イチャついているんです。

 寝落ちするのも、いいものですね。

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