Folge 13 美脚のいじわる

 それからだが。

 お近づき記念。

 ということで、美乃咲姉妹はウチで夕飯を一緒に食べる事となった。

 大勢で食べられるものはなんだろうと話し合う。

 結果は焼肉との競り合いで水炊き鍋に。

 美乃咲姉妹が二人で鍋はなかなか食べられないとのこと。

 そもそもあまり食べたことが無いという理由でもある。


 ところで。

 ウチの双子が先ほどからう~う~唸りっぱなしなんですけど。

 オレの両側は妹のポジションのはず。

 だが、片側にいつもと違う顔がくっついている。


「うふふ。ふふ」


 その子はずっとニコニコと含み笑いが止まらないでいる。

 座るとさらに露出された素足。

 強引に目に入り込んできてまた鼻血が出そう。

 気分の良さをアピールするかのようにその両脚をブラブラと。

 なおさら気にさせられて……ニヤけてしまうんだよ。


「あらら。咲乃は藍原君の事がすっかり好きになってしまったみたいね。恋なんてしない子だったのに」

「マジか。つーか、この短い時間のどこに恋心を抱く要素があったというんだ?」

「好きも、恋も、理由無く沸き上がる気持ちですし。私のようにきっかけがあって沸き上がる気持ちもあります。説明はできませんよ」


 咲乃さんは最初の印象で感じたクールさとは程遠い人物となっている。

 はっきり言って、オレにデレデレしている。

 いや男ですから、そりゃあこういうシチュエーションは大好物ですよ。

 美咲さんがぶつけてくる甘さとは違う濃い甘さ。

 クールから濃い甘さというギャップ。

 これがこの子の魅力を強烈に引き上げてしまって……。


 ――――好きかも。


 多分それを感じ取ってしまっているんだろうな、妹たちは。

 唸り声がどんどん大きくなっている。

 この後どうフォローしようか困ったな。


「あのさ、そこはカルラの席なの。申し訳ないんだけど退いてもらえるかな!」

「うふふふ」


 へえ。

 ツィスカがカルラの味方をしたよ。

 最近レアなシーンが見られるなあ。

 いや、そんな平和な話じゃないな。


「ねえちょっと! 聞いてるの!?」

「ふふふ、サダ君かなあ、サーちゃんかなあ、呼び方何にしようかなあ」


 おい、そんなこと考えながら食べていたのかよ。

 お茶碗と箸は持っている。

 でもさっきから何も口へ運んでいないぞ。


「あなたね、人が話しかけているんだからちゃんと答えなさいよ!」

「そうよ咲乃。お話はきちんとしましょう」


 咲乃さんのブラブラ脚が止まった。

 あ、いや、ずっと脚を見ていたわけじゃない!

 決して、決してね。

 ブラブラ動かす度に感触が伝わって来る。

 そんな太ももを見ていたわけじゃない!

 いやいや、『見ていた』だと見ていたことになるから『見ていない』んだ!


 多分…………。


「お話? ご飯、美味しいね」


 一口も食べてないよ!?

 作った家族がイラッとするから。

 ちゃんと食べてからそういうことを言おうね!


「何も聞いてないじゃない! あんたの座っている所はカルラの席だって言っているの!」

「ああそうなんだ。今日は譲ってくれてありがとう。優しい妹さんだね」

「ち、違う! 誰も譲ってないわよ! ちょっと兄ちゃん! なんとか言いなさいよ!」


 結局オレに矛先向くんだよなあ。

 でもツィスカを本気で怒らせるとまた怪我をするかもしれない。

 ここは美脚とさよならするのは惜しい、いや。

 カルラと替わってもらうように話をしないと。


「咲乃さん、悪いんだけどずっとウチらは同じ席で食べていたから、崩されると落ち着かないんだ。カルラと席を替わってもらえるかな?」


 咲乃さんはカルラとオレの顔を数回交互に見てから答えた。

「ボクの方が似合っていると思うからお構いなく」

「――っ!」


 言葉にならない何かを発したカルラが食卓を叩いた。

 鍋すら浮いたんじゃないかと思うぐらいの衝撃で。 

 鍋の出し汁は少し零れたけど。


「いい加減にしてよ! ここはわたしたちの家なの! わたしたちのルールに従ってもらうのが筋じゃないかしら?」


 カルラが怒りを露わにするなんて、これまたレアな光景。

 ここまでくると異常事態だ。

 明らかにそうなんだけど。


「ふ~ん、そちらの妹さんは大人しいのかと思っていたけど、案外激しいのね」

「咲乃。こちらはお邪魔している立場なのだからその辺は弁えてちょうだいね」

「じゃあ替わってあげるけどさ、サーちゃん、その咲乃さんって言うのをやめて呼び捨てにしてよ。美咲のこともね」


 うわぁ、なんでオレがルールを増やされなきゃならないんだよ。

 さりげにオレの呼び方がサーちゃんに決定しているし。

 都合の悪い所を全部オレに捨てるのはやめてください。


【藍原サダメはポイ捨てを許しません! ポイ捨て、禁止!】


 やっぱこれ作った方がいいのかな。


「呼び方ぐらいは対応するからさ、やっぱり兄としては妹が気持ちよく食事ができるようにしてあげたいんだよね」

「優しい。好きだったけど大好きになったよ。カルラちゃん、席替わろ~」


 そう言って立ち上がる前に、左脚をオレの右足にわざと絡めてから立ち上がった。

 やっべ。

 バレていたのか。

 いや、見ていないから!


「ボクの気に入ってくれたみたいでうれしいよ」


 ぎゃあー!

 バレてるー!

 ウィンクまでしてきたー!

 あ、でもそれ魅力的。


「うふふふ」

「何よ」

「そんなにつんけんしなさんなって。仲良くしましょ」

「あなたがさせているんでしょ」

「すみません、咲乃は父と喧嘩ばかりしていましたし、人と話すのは少々下手なので」


 下手とは思えないけど、喧嘩慣れしている感はあるな。


「そういえば美咲さ……美咲が登校する時一緒じゃないけど、別の学校に行っているの?」

「呼び捨てがうれしいです! ふふふ。ああ、そのことも話さないといけませんね。実は咲乃、学校は通っていません。というか、休学中という名の不登校中です」

「そうなの? 何か嫌な目にあったとか?」

「嫌な目には遭っていませんが、集団生活の中にいると拒否反応で吐いたり倒れたりしてしまうんです」

「そんな風には全然見えないけど。今もこうやってニコニコと話もできているし」

「それは藍原君のおかげですよ。あ、そうだ! 私も藍原君のことをサーちゃんって呼んでもいいですか?」

「ああもうその辺はご勝手に。でもオレのおかげって何もしていないけど」

「こちらにとってはされているのですよ。咲乃が心を開く時がこんなに早く訪れて、姉としてはもう、感激で」


 美咲泣いちゃった。

 まあ、母親がいなくて姉妹二人だけじゃ何かと心細いよな。

 そういう話ならウチの連中はよく分かる。

 実際、寂しい思いをしているから、弟妹はオレにしがみついて生きているわけで。

 オレもこいつらがいないと何も手につかないし。


「よし。とにかく飯を食べよう。腹が膨れれば心も満たされるよ。咲乃、まだ一口も食べていないんだからちゃんと食べな」

「気づいていたんだ。脚を見ていただけじゃないんだね。大好きだよサーちゃん」

「兄ちゃん、そうなの?」

「い、いや、それは勘違いじゃないかなあ。食べないなあと思って見てはいたけど」

「怪しいわね。わたしたちの脚も結構綺麗だと思うのだけど、今まで物足りなかったのかしら?」

「そんなことないよ! 二人の脚はオレのお気に入りだよ……ってそうじゃなくて、脚は見ていないから! 咲乃! 変な事言うなよ!」

「間違っていないと思ったんだけどなあ。それじゃあさっきのサービスは無駄だったね」


 両側から強烈に睨まれているんですけど!

 どうしたいの咲乃は!?


「サダメ、何サービスって? く・わ・し・く聞かせてくれないかしら?」

「サービスした人に聞いたら? オレは何のことやらさっぱり」

「ボクが説明したら変な事言うんじゃないの?」


 ああもう! 咲乃に勝てない。


 この後飯を食べながら聞けと言われ、説教されながら食事をしました。

 味なんか全然覚えていないよ。

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