050 恋愛相談④

僕と月夜が見守る。


遊佐ゆさあまつは足を開いて、まるで応援団ように両手を後ろにまわした。

そして言葉を連続で投げかけたのであった。


「瓜原木乃莉さん。僕はあなたのことが好きです。好きの半分は……一目惚れでした!」

「友達と一緒になって小鳥のように笑うあなたに一目惚れしました!」

「あなたと何とか接点を持ちたくて、神凪さんに近づいて、いっぱいあなたのことを聞きました!」


「え、天に聞かれてたの?」

「……全然記憶にない」


星矢もそうだけど、この兄妹、気を許していない人間の会話を記憶から抹消する傾向がある。

例えば家族の構成を言っても絶対に覚えてない。それでどれだけ泣かしてきたかも実は覚えていないのだ。

天はさらに続ける。


「仲良しな友達と会話が終わった後、ちゃんと机と椅子を戻すあなたが好きです!」

「移動教室の後、ちゃんと黒板を綺麗にしたり、電気を消したりするこまめなあなたが好きです!」

「掃除当番を忘れた生徒のフォローで倍を動く優しいあなたが好きです!」

「休んだ生徒のためにプリントをファイリングして届けてあげるあなたが好きです!」


「ちょ、ちょ、い、いきなりそんなこと」


予想もしていない言葉の連続に瓜原さんも困りきっていた。

でも……好きですという言葉の連続に瓜原さんも頬を紅く染めている。


「大会で負けた友達を精一杯励まして元気づけてあげるあなたが好きです!」

「放課後に教室で飼っているカメにエサをあげて語りかけているあなたがかわいくて好きです!」

「体育でどうしてもできないことがあってもあきらめず努力してるあなたが好きです」

「告白されて疲れた友達を待って、一緒に帰ってあげるあなたが好きです」


瓜原さんがじっと聞いている。天の想いが伝わり始めているのだろうか。

告白されて疲れた友達。これは月夜のことか。

それを言われて、機嫌のよくなかった月夜も口を緩ませているような気がする。


これが星矢が最後に言っていたアドバイス【木乃莉の好きな所を100個あげて全力で伝えろ……】か。


「4月25日に髪につけていた髪飾りが似合っていて好きです!」

「5月20日に着ていたピンクのチュニックに思わず見とれてしまうくらい好きです!」

「6月5日におさげのひもが切れて、セミロングになった時は何度も何度も見てしまうくらい好きです!」

「7月8日にクラスの友人から借りたメガネをかけた時の姿が記憶に残るくらい好きです!」



「日記でもつけてんのか? それとも記憶力か」

「あれくらい私だって覚えてますよ。太陽さんが来ていた服だって全部…‥あ」

「え?」

「お、お、覚えてるわけないじゃないですか!!」


「4月27日に付けていたショートの靴下が花柄ストライプだったのがキュートで好きです!」

「5月9日に付けていたロングの靴下が星柄のチエックだったのが僕好みで好きです!」

「5月27日に付けていたショートの靴下が表裏逆だったのがうっかりっぽくて好きです!」


「何か変な方向に行ってませんか」

「ちょっと止めるか」


僕が飛び出すと同時に大きな声が響きわたった。


「私は!!」


瓜原さんの声だった。この子、こんな強い声を出せたのか。


「好かれる……ほどいい子じゃないです」

「いいや、好きだ!」

「全然……優しくない!」

「世界一優しい!」

「ちんちくりんだし」

「僕はちんちくりんの方が好きだ!」

「めんどくさいし」

「めんどくさい子が好きだ!」

「頭も悪いし」

「僕がいっぱい教える!」

「とりえなんて何もない!」

「それがどうした、僕は好きだ!」

「海ちゃんよりも明るくもカリスマもない!」

「君の方が1000倍ステキだ!」

「月夜よりもかわいくない!」

「僕は神凪さんより君が好きなんだ!」


「あ……!」


天はどっと駆け出して瓜原さんの両肩を思いっきり掴んだ。


「僕は……あなたが大好きだぁぁぁぁ!」


その強固ともいえる叫びに瓜原さんの涙腺は崩壊した。涙がボロボロ落ちて、顔を沈ませる。

でも天はまだ続けていた。


「僕は君の靴下が好きだ! 僕は1日3回君でオ」

「待て待て待て! 絶対後悔するからやめろ!!」


暴走する天の口をふさぎ、瓜原さんから引っぺがした。瓜原さんには月夜が付き添う。

……告白ショーもこれで終わりかな……。



◇◇◇



15分ほど時が過ぎ……ようやくみんな落ち着き始めた。

天は我に返って向こうで頭を抱えて座り込んでいる。

1年生の王子様がまさかこんな暴走機関車とは誰も信じないだろう。 

録画してりゃよかったな。親戚の兄ちゃんがやってたように結婚式のスライドショーで流してみたい。


対する瓜原さんはまだ完全には泣き止んでない。

月夜が抱きしめているが……。


「大丈夫か?」

「もう少しだけ待ってあげてください」

「すごかったな……あんな告白するとは思わなかった」

「そうですね。あそこまで愛があるなんて思わなかった」

「俺は結構好きだけだね……。ああやって思いの丈を叫んでくれると……自分を見てくれてるんだって思う。心が動くよね」

「そういうものですか……」


月夜は不思議そうに首を傾げる。このあたりは人の好みだろう。

僕も褒められることってそう多くないから……あれだけ好きだと言わてると心が動くだろうな。

瓜原さんがどう思ってるかは分からないけど。


「靴下の話はやばかったですね」

「性癖を出すのはやっぱまずいよな」

「大丈夫だよ、木乃莉。他にも髪の毛触りたいとかしつこく写真撮らせてくれって言う人もいるんだから」

「おい、僕の性癖をバラすな」


瓜原さんもようやく支え無しに立ち上がった。まだ目は紅いし、どことなく復調してるようには見えない。

そのまま天の方へ行く。


「あの遊佐くん」

「は、はい!」


僕と月夜は後方で見守ることにした。もう暴走することはないだろう。


「とても嬉しかったです。あんな風に人に褒めてもらったこと1度もなかったから」

「瓜原さん……」

「その……お付き合いとかはちょっとよく分からなくて……でも真剣に考えたいと思います。だから……私と友達になってくれますか」

「は……はい!」


こっからじゃ瓜原さんの顔が見えない。でも天の表情から……一番求めていた瓜原さんの笑顔がもらえたのかもしれないね。

良い感じで終わりそうでよかったよ。

っと思ったらいきなり月夜が瓜原さんに抱き着いた。


「うええええええーーーーん、良かったよぅぅぅ木乃莉!」

「えっ月夜!?」


今度は月夜が泣き始めてしまった。おいおい、これじゃあ。逆に瓜原さんが慰めてそうだな。

少し時間が経って、月夜も落ち着きを取り戻した。


「よかった。木乃莉が嬉しそうでほんと良かった。でもすごかったね、ちょっとうらやましいかも」

「月夜が私を羨ましい……?」


瓜原さんの表情がきゅっと喜んだ。


やはりか……。


瓜原さんの星矢へのあこがれの正体を悪い言い方をするのであれば月夜や世良さんへの対抗意識だ。

大好きな幼なじみだからこそ対等になれる何かが欲しいのだろう。そして……星矢という最上級の男を手に入れたい。

幼い頃からのあこがれが大きく変質していることを星矢は見抜いていたのだ。特に小中学生の頃に比べて……高校生になってから特に変わったらしい。

今、月夜にうらやましいと言われ……瓜原さんは顔を緩ませた。


……これを月夜に言う必要はないな。僕の胸にしまっておこう。


でも僕には星矢や月夜に……対抗意識はない。

瓜原さんと違って並び立とうとする根性はないんだ。それが彼女と僕の性格が似ていて、大きく違う所だ。


僕は天に声をかける。


「おつかれさん」

「山田先輩」


男同士の会話なので月夜と瓜原さんの耳に入らないように少し離れた。


「本当にありがとうございました。瓜原さんと関係を深められるかどうかは僕の頑張り次第ですが……どんどん好きだって言っていこうと思います」

「そうだな。でも靴下ネタはやめとけな」

「うぐっ!」


天もすっきりしたようで本当によかった。星矢の奴にも後で連絡しないとな。

天は月夜、瓜原さんの方を見る。


「山田先輩もいろいろフォロー頂いて助かりました。あの神凪さんと付き合ってるだけあって……経験豊かですね」

「はい? 別に僕は月夜と付き合ってないぞ」


何を言ってるんだ。そんなそぶりなどどこにもないだろうに。


「でも神凪さんのことを下の名前で呼んでるし……それに僕、あんなに感情豊かな神凪さんを見たことないですよ」

「いつもあんな感じじゃないのか」

「女の子にはそうですけど、同じクラス男子と話している時は仮面の笑顔で会話してる感じですね。気を許している所を見たことないです」

「……ま、まぁ信頼を得ていると思う。兄の友人だしな」

「神凪さんが先輩と話すときの顔って……恋する女の子そのものですよ」

「……え?」

「お似合いだと思いますよ」


「違う!!」


あっ……全員の視線を集めてしまった。

しまったな……。


僕は再び月夜の好意について悩むことになってしまった。

そんな気持ちのまま次の日によりによって僕から誘った月夜との2回目のデートが始まる。

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