#12 服選びには性格が出る
視界の端に浮かぶワールドガイドウインドウ、あたしはお喋りがてら目を走らせる。
――
それは機械生命を生産する超大型機械生命のことである。
なにしろ巨大な機械生命を生産するわけで、最小規模とされるクラス8ですら
またマザーファクトリー単体も厳重に武装しているが、さらに多数の機械生命によって護衛されているのが常であり、危険度は群を抜いて高い。
ここだけ読めば手を出す理由なんて思いつかないくらいヤバい相手だけど、喧嘩を売るに足る見返りがある。
全身これ唸るほどの資源の塊であるうえに、特に貴重なのがコアモジュール。
機械生命の設計図をつかさどるこの部位は、のみならずあらゆる機械の生産に応用できる。
――もちろん、タイタニックフィギュアにだって。
それはもう企業にとって垂涎の代物、
まさかエクソシェルのレースからこんな進み方をするとは思ってなかったけど。
ふと見れば
可愛いからやめい。ぴしっとデコピンかましておく。
「……そうね、面白そうな話だと思うけど。率直に言うと結構な大物狙いってわけだし、TFすらもっていない雑魚に頼むことじゃないんじゃない?」
セドニアム重工のエージェント、マネージャーを名乗るNPCの男はしたりとばかりに微笑んだ。
「まさか生身で向かえとは申しません。TFであれば当社にて製造しておりますものを、本依頼中に限り
「ほはー! マジでー! TFクルー!?」
「ステイステイ、イドっちステーイ。そりゃまぁ随分と太っ腹ね。後で幾ら請求されるの?」
美味い話には何とやら。悲しいかな今までのゲーム経験があたしをすぐには頷かせない。
「疑問を抱かれるのも当然、企業というものは利益を重視して動きます。ならばこそ大きな利益のために投資するのは当然のことと言えましょう。問題となるのは投資の先です」
マネージャーがここぞとばかりに身を乗り出してくる。
「貸与可能なTFはどれも我が社の優秀な製品、性能は保証いたしましょう。しかしながら、良い道具が性能を発揮するためには見合うだけの良い使い手が必要になります」
「それであたしらに? まぁ評価してくれてんじゃん」
「単にレースで勝利したのみならず、エクソシェルを駆りTFを迎え討って見せる腕前と度胸。是非とも当社にて振るっていただきたいと考えております。投資対象としてこれほど魅力的な条件もそうはありますまい」
「へっへー、それほどでもあるね!」
イドっちがすっかりと乗せられてる。
投資は結構だけど、思ったほどの腕前じゃなかったら速攻捨てられるってことなんだけど。
そこは考えても仕方がないか、己の価値は撃った弾丸で示せばいいこと。
「オーケイ! その条件で受ける」
「感謝いたします。時に、もう一つお話があるのですが」
「え? なになにまだぶっ壊すのがあんのー? 盛りだくさんじゃーん」
「ああいえ、こちらは
「おっと専属ときたかぁ」
NPCが
ぽんとウインドウが開く。セドニアム重工との専属契約を結びますか? はい。いいえ。
ノータイムでウインドウをさっと手で掃って、視界の外に押しやった。
「さっきも言ったけれど、依頼は受ける。でも専属はなし。あたしは身軽が信条なんでね」
「えー。ええー……うちもナシナシクーリングオフ期間でお願いしモース!」
「なるほど。残念ではありますが、承知いたしました。お気が変わったときはいつでもご相談ください」
断られるのは予想していたって顔。さすが最新の世界構築エンジン、しぐさが細かいわ。
「じゃあ早速だけど。依頼の成功のためにも戦力を確認したい。レンタルに出せる機体ってのを見せてもらえる?」
「もちろんでございます。ガレージへまいりましょう、こちらへ」
それじゃあ気分を切り替えて、楽しい楽しいショッピングとしゃれこみましょうか。
◆
林立する巨人兵器。
まるで古の遺跡か寺のお堂を彷彿とさせるこの場所は、セドニアム重工ジェイベル支社付属のTFガレージである。
支社とはいえさすが基幹企業。ガレージの広さも大したもので。
「ほああー。ほあー……」
そしてイドッちはさっきからアホの子丸出し口あけっぱで周りを見回している。可愛い。
あたしも居並ぶ巨人を見上げてみる。
「……タイタニックフィギュア」
それはメカアクションシューティングと銘打ったこのゲーム『
それはとりもなおさず、この人型兵器は部品のひとつから構築可能であるという、高い自由度によって支えられたもの。
ひとくちにTFと言って、中身は千差万別。とりあえず大きな分類を紹介しておくと。
ゲーム内企業によって製造され、街などで流通しているのが『
企業は基本的に
次に、これら企業製の既製機をベースに一部を交換したり手作りして組み上げたものが『
部品は市販でも組み合わせ方にはプレイヤーのセンスが出る。やりやすさもあってプレイヤーの多くがTFをセミスクラッチビルドして使っている。
そして最後に、プレイヤーが部品の一つから集めて完全に手作りしたものが『
ここまで来ると部品を集めれば誰にでもできるってものでもなくて、作り上げる才能みたいなのも必要になる、まさに最終到達点って感じ。
でも、プレイヤーの最終目標とされがちなフルスクラッチビルドだけど、求めるかは人それぞれ。
セミスクラッチや、ものによってはレディメイドでもそう馬鹿にしたものではない。
動きさえすれば、あらゆる傭兵に戦いと勝利のチャンスが与えられるのだから。
さて、ガレージに並ぶのは当然、セドニアム重工製の既製機である。
通称『ドラゴニュート・シリーズ』。店売りの中ではやや値が張る部類だけど、その分安定して高い性能を発揮する。既製機とて侮れないってわけ。
「うーん、この機体いいなぁ。けっこーかわいーし?」
「へぇ。イドっちはビジュアル重視なんだ」
「ううん? パワー全振り」
「おい」
二人して気分はウインドウショッピングだ。モノは天を衝く巨大兵器だけど。
中でも最初に目につくのが、シリーズでも汎用機としてとして位置づけられた機種『マルモラータ』である。
特徴はない、しかし変な癖もない。初心者にもお勧めの機種として、資金が用意できるならば手に入れて損はないというのが巷の評判。
「中身は動かさないとわかんないか。これって試し乗りとかできる感じ?」
「シミュレータはこちらにございます」
マネージャーに案内されて、ガレージの一角にあるシミュレーターへと乗り込む。
しばらくうろついていたイドっちもこっちにきた。乗り心地まではカタログに載っていないからね。
「へー、噂どおり素直な子ね」
マルモラータ、初めて乗った機体ではあるけどイメージ通りに動く。
これなら少し動きのコツを飲み込めば、すぐにでも戦場に出れそう。
試し乗りしながら裏で最適化プログラムを走らせる。
これでパイロットの動きをサンプリングして、補正をかけてくるようになる。
だから長く使い込んだ機体ほどよくなじむ。今は始めたてで経験値が低いから、ないよりマシって程度だけどね。
「姐さーん。またぱっとしねーの選ぶじゃん?」
「ご挨拶だねー。こんなのは動けばいいのよ」
「それってもしーやー腕に覚えありな感じー?」
「そういうイドっちは本当に出力しか見てないチョイスね」
「戦闘は
隣でイドっちが試し乗りしているのは『ディプレッサワーレン』。
人型の中でも
この手の機体は
さらに武装の積載量も多くて、つまるところバカスカ撃ちあいたい奴に人気の機種ってわけ。
「そっかぁ。でもあたしはそういうのないんだよなぁ」
あんまり思い出したくないけどこのゲームを始めた経緯がアレなので、あたしはあんまりこれといった好みがない。
機体に合わせるというか、とかくぶん回せばなんとかなると思ってるし。
だから機体選びとかはなかなか迷うのだ。
あー、カニっちあたりに決めてほしい。バッチリなの選んでくれそう。
マルモラータの他にも目についた機体をとっかえひっかえ乗ってみる。
ディプレッサワーレンにも乗ってみたけど、あたし重いのは向いてないわ。
そうしてアレコレ見ているときに、その機体はあった。
「ほっほう。面白そうなのあるじゃない」
スマートな人型の機体が並ぶ中、やたらとスペースをとる主張の激しい奴がいる。
理由は明白。何しろそいつは――四本も脚があるのだ。
「中距離支援機『アーガスニワ』……ほほう」
人型兵器、タイタニックフィギュア。
しかしその構築の自由度ゆえ、時に人型の範疇に収まらないものもある。
いわゆる多脚機体はその代表格。
ざっくりした特徴としては安定性と積載に優れ、その分機動性は抑えめかな。
何よりも純正の人型機には不可能な動きが最大の特徴といえよう。
「マジっすか姐さん。渋いところ突いてっし」
「うーん。今回は拠点に突入するしね。こっちのほうが火力は出る」
シミュレーターをぶん回すあたしに、戸惑いがちの声が届く。
確かにこのゲームは二足人型のほうがやりやすく調整されているんだけど。
なんとかなるっしょ。
「ねぇマネージャーさん。これ、セッティングはどこまでいじれる?」
「ご要望とあらばいかようにも。ただ、機体を完全にバラすほどはご勘弁願いたいところですが」
レンタルだし贅沢は言わないけど、面白く遊ぶためにちょっとくらいは手を入れさせてもらおうかな。
それにしてもTFに乗るのも久しぶりだ。本格的に拠点を攻める前にちょっと練習しておこう。
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