料理人が始める冒険者生活〜チートスキルでモンスターを無双する〜
しのこ
第1話◇熟成肉
「よっしゃぁぁ! 今日は良いクエストクリアできたから奮発するぜぇ! ハル、熟成肉の塊焼き持ってこい!」
「はいよー! ルーさんが熟成肉頼むなんて本当に入りが良かったんだねぇ。サービスしとくから思いっきりくってくれよ!」
「さっすがハル! 恩に着るぜぇ」
俺が働いている『冒険者食堂ガルディア』での一幕。ガヤガヤと騒がしいし上品な店ではないが、いつもお客さんの絶えない活気のある店だ。今日も全席満席で大好評営業中だ。
今日もいつも通りに常連の相手をしつつ、料理を作っていく。今俺に話しかけてきたのもその常連の1人であるルーカス・ゴールド。
黒髪に少し白髪が混じっているせいもあって年齢のわりに老けた風貌をしているが、それをちょっと気にしている現在28歳の優秀な冒険者だ。俺がここで務めるようになった時にはずっとこの店に通っていて、俺によくしてくれる兄貴分だ。
この食堂ではモンスターを狩って生計を立てている冒険者が集う。この食堂は血の気の多い冒険者が集い、酒を飲み、飯を食い、冒険者同士が情報を交換をしてるおかげで毎日盛況だ。
そんな荒くれものが集う食堂で、俺は今日も料理を作る。
今年で22歳、料理人歴は15年だ。
俺は料理に特化したスキルを持っているおかげで、とてもここでは重宝されている。
それも、食材を一瞬で捌くスキルだ。
野菜も魚も、肉だって俺にかかれば一瞬で部位にバラすことが出来る。
料理人になるために生まれて来たかのようなスキルだ。
そんなスキルを俺は持っているが、俺は特別恵まれているわけじゃない。
どんな人でもスキルを1つ所持している。
ここに来ている冒険者は皆一様に戦闘に向いたスキルを持っている。あるものは炎を扱い、あるものは剣の扱いに長けたスキルを持っていたりする。
本来は俺も冒険者になって色んな冒険なんかしてみたかった。でも、生まれ持ったスキルがこんなものだったので、冒険者になる夢は諦めてここで料理人をしているわけだ。
この店に来る客は人相が悪くて見た目がおっかない奴が多いが、みんなうまい飯を提供している俺にはとても優しいし、なんやかんやで楽しくやれているので満足してる。
「さぁて、サクッっと作っちゃいますか!」
いくら仲が良くても元々気性の荒い人たちだ。いつまでも待たせていると怒りだすので、さっさと料理を始めることにしよう。そうは言ってもルーさんが頼んだのはほとんど準備が全ての料理だ。
予め準備しておいた熟成肉を保存庫から引っ張す。
こいつを作り出すのに3週間も熟成させているので、すでに肉の繊維は柔らかくなっている。熟成肉を手に持ち、仕上がりに満足しながら網の上に熟成肉を乗せる。
火を通しすぎないよう注意を払いながら炭火でじっくりと火を通す。
「うん、いい香り」
熟成肉が焼けてくると、肉の香ばしい香りが俺の鼻に届いた。
芳醇な香りに思わず口にしたくなる気持ちを抑え、次の工程に移る。
熟成肉はすでに肉の中に旨味が肉の中にパンパンにつまっているので、あとの味付けはシンプルで良い。下手に味付けをしてしまうと肉本来の旨味がなくなってしまう。
じっくりと火を通した熟成肉に圧倒的な旨味が凝縮されたクライス岩塩をパラパラと振りかけて完成だ。
完成した熟成肉をアツアツの鉄板皿の上に置くとジュウウと気持ちの良い音を立てた。
「ルーさんは濃い味が好みだから、普通より増やして、と!今日は機嫌も良さそうだし、ちょっとサービスしてあげるかな」
ルーさんが相手だから肉と一緒にご飯を出してあげよう。肉だけでも満足できるかもしれないけど、一緒にご飯をかきこむと美味しさ3倍だ。ふっくらと光り輝く炊き立てごはんを一緒にどんぶり山盛りに盛った。
「よしっ! これで完成。ルーさんお待たせしましたぁぁ! 熟成肉の塊焼きと、サービスでご飯大盛りだよ! 腹いっぱい食っていってくれよな!」
「そろそろ来るかと待ってました! こういうサービスが出来るからハルのことは大好きだぜ! 相変わらず出すのもさすがだよ!」
「そんなこと言ってもこれ以上何もでないからなぁ。ルーさん、それじゃ美味しく食べていってくれよな」
「いっつも平らげてるだろ! ハルの飯は最高だからなぁ」
お客さんに美味しいって言ってもらえるのが嬉しくてこの商売をしているところもあるから、ルーさんみたいなお客さんは大好きだ。冒険者にはなれなかったけど、こういうことがあるから料理人は辞められない。
ガンガンガンガン!!!!
そんないつも通りの日常を過ごしていると、店の外からやけに大きな音が聞こえてきた。
いや、音だけじゃない。注意してみると店もガタガタと揺れている。
「じ、地震!? ルーさん、早く店の外に出よう! 下敷きになっちゃうよ」
「ハルは地震程度でビビりすぎなんだよ。そんな慌ててるとどこかでとちるぞ」
「俺は冒険者じゃないんだからそんなことにはならないよ! ほら、のんびりしてるのもおかしいでしょ! 肉食べるの止めて外に出て!」
俺がこんなに慌ててるのに、ルーさん含めて店にいるお客さん達はみんなごはんを食べるのを止めようともしない。なんなら何を慌ててるんだ? と変な目で俺のことを見るぐらいだ。
いつもモンスター達と戦って胆が据わっているのは分かるけど、非常時なんだし俺の言うことも聞いてほしいもんだ。
「まぁ、ハルがそういうなら外に出るとするか。おい、みんな! ハルが困ってるし外に出てやってくれ! このままだとハルが移動できないからな」
「グハハハハ! ハルはビビりだなぁ。まぁ、ハルが可哀そうだし一応外に出てやるかァ」
「ガハハ! そんな胆じゃ冒険者にはなれんぞ! 目指してるんだろ?」
「そういうのは良いから外に出る! 言うことちゃんと聞いてくれたら1杯サービスすっから!」
「「みんなー! ハルのおごりだってよ!」」
俺が奢る、といったとたん店にいた冒険者たちはこぞって外に出ていった。なんて現金な奴らだ……
まぁ、俺の言うことを聞いて外に出て行ってくれたなら良いか。
俺も早く外に出て店の外で何があったのか早く確認しよう。
やけに大きな音だったけど、本当に大丈夫だよね?
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