第274話 魔法缶の威力

 1日経過して魔力電池試作型と魔力電池先行量産型候補の状態を鑑定魔法で確認。

 容量の大きい試作型は順調に動いている様子。

 鑑定魔法で確認するとこのまま一週間は動く模様だ。

 サイズの小さい先行量産型候補は魔力の自己放電にあたる現象でどれくらい容量が減っているかを確認。

 うん、これなら有効期間1年としても多分大丈夫。

 この状態なら1年後も9割以上は中の魔力が残っているだろう。


 さて、魔力電池の有用性をアピールするためにちょっとしたお遊びをしてみよう。

 かなり前に使って今では研究室の隅でほこりをかぶっている『誰でも風魔法アンテナ』を引っ張り出す。

 これの魔力供給部分を小改造。

 電池ボックスを作り魔力電池2個を入れるようにする。

 なおこの試作型魔力電池はだいたい前世の小さい缶コーヒーと同じ大きさだ。

 それが2個なので電池ボックスとしては非常に大きい。

 この世界には電池ボックスなんて他に無いけれど。


「何で今頃その杖をいじっているのかな」

 シモンさんに見つかった。

 説明しようとしたが言葉がうまく思い浮かばない。

 よく考えたらこの世界に元々電池なんてものは無いのだ。

 ちょっと考えてこんな説明をしてみる。

「魔力をこの缶の中に入れて自由に取り出せるような状態にしたんだ。勿論使えば中に入っていた魔力は無くなってしまうけれどね。この缶そのものは魔力クレソンから作ることが出来るし、これさえあれば人がいない場所でも魔力を供給し続ける事が出来るんだ」

「つまり魔法の缶詰みたいな物だと思っていいのかな」

 話が早い。


「そんなところ。それでこの魔法の缶詰だけでもどれくらい威力が出るか試してみようと思ってさ、この杖を魔法の缶詰を使用するタイプに改造してみた」

 魔法の缶詰、というのは少し言いにくいな。

 省略して魔法缶でいいか。


「でも実験するなら場所を選ばないとね。前みたいに岩が崩れるような威力だったら洒落にならないし」

 猿魔獣ヒバゴン魔石の時の失敗を思い出す。

「ああ。だから海岸で海の誰もいない方向めがけてやってみるつもりだ。勿論こっちが吹っ飛ばないように杖はしっかり固定して、発射ボタンも遠隔にしてさ」

「面白そうだね。僕もちょっと見に行っていいかな」

「勿論」


「何だ何だ。新兵器でも作ったか」

 ヨーコ先輩がやってきた。

 ちなみに水着である。

 身体強化組の連中は冬からずっと研究室内では露天風呂を根城にしているのだ。

 勉強会もトレーニングも会議でも。

 しかもヨーコ先輩、最近胸廻りが育ってきてなかなかイイ身体になってきている。

 いやいやそんな事は意識しない意識しない……

「いえ、単に魔法の缶詰の実験です。どれくらいの力を貯めておけるか、風魔法の杖で確認しようと思って」

「ならちょうどいい場所があるぞ。ウージナの北側の丘の上だがだいたい2離4km位小灌木だけで何もない場所だ。その先も海だから問題なく風魔法を飛ばせる。私がたまに風魔法を練習している場所だ」

 それは有難い。

「その場所を教えて頂けますか」

「私も同行しよう。ちょっと服を着てくるから待っていてくれ」

 そりゃ2月に水着だと外に出られないよな。


 そんな訳でヨーコ先輩、ミナミ先輩、シモンさん、シンハ君、ミド・リー、キーンさん、俺という面子で北側の丘まで移動魔法でやってきた。

 随分と人数が増えてしまったが、まあ仕方ない。

 ちなみにミナミ先輩はあの魔法クレソンを利用した製品を見てみたいという事で。

 キーンさんは魔法缶に興味があるそうだ。

 あとはまあ、やじ馬である。

 俺達の研究なんてそんなものだ。


 大型魔法アンテナ2本を設置する。

 1つはヨーコ先輩用。

 もう一つが今回の実験用だ。

 なお実験用の方は念のため脚を強化し、更にアンカーを1腕2m程埋め込んである。

 勿論こういった仕事はシンハ君の作業だ。

 用意が出来たところでまずはヨーコ先輩から。


「とりあえず景気よく一発撃ってみるか!」

 ドーン!

 空気の塊が遥か遠くまで飛んで行った。

 雑木の枝が全て同じ方向にガッとしなる。

 当たってはいないのだが勢いで回りの空気まで動いてしまうのだ。

「これで大体2離4km先の騎馬を倒せるくらいかな」

 なるほど、流石ヨーコ先輩。


「それじゃ魔法缶で試してみます。威力がわからないので皆さん離れて下さい」

 以前、猿魔獣ヒバゴンの魔石で失敗した件を古いメンバーは知っている。

 だから皆さん横方向に、それも念入りに離れてくれる。

 その辺を知らないキーンさんやミナミ先輩を引っ張ってだ。


「では行ってみます」

 ドガーン!

 ある意味予想通り。

 抵抗も何もなしでやった結果、思い切りよく吹っ飛んだ。

 一応アンテナの脚は強化したしアンカーも打ってある。

 だから今度は魔法アンテナ本体は飛んでいない。

 代わりに思い切り曲がっている。

 結構太いパイプで作ってあったのだけれども。


「やり過ぎだなこれも。さっきと同じ表現で言えば2離4km先の普通の家を倒せるくらいだ」

「その代わり魔法缶2個の魔力を使い切りますけれどね。まあ実際はこんな威力を必要とする事も無いでしょうけれど」

「いや、これはこれで使い道はあるだろ。それにその魔法缶のアピールとしてはいい感じだと思うな。とりあえずその杖はもう少し強化して作り直した方が良さそうだけれど。あとはその魔法缶の増産」

 確かにまさか曲がるとは思わなかったからな。

 俺もちょっとびっくりだ。


 

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