第166話 避暑地リゾート
コイはいかにも高原という感じの場所だった。
街そのものは山の中の湖沿いに出来たそれほど大きくない街だ。
主な産業は観光。
避暑地としてや登山、湖でのレイクスポーツの拠点としてこの辺では有名らしい。
「何か絵に描いた高原と湖って感じだよね」
「実際その通りなのだ。それを意図して開発した場所なのだ」
「北部や西部は夏蒸し暑い。だから夏休みは長いバカンスを取る」
そう言えば授業で習ったな。
国の北側、ハツカイ・チーとかシンコ・イバシ等は夏蒸し暑いって。
「でもそれじゃこの別荘借りてよかったのかな」
「心配ないのだ。実はここ以外にもいくつも貸別荘があるのだ」
えっ。
「ここの別荘って子爵家の専用じゃなくて貸別荘だったのか」
「コイでは私有の建物は一切建てられない。子爵家経営の観光公社がホテルも貸別荘も商店街も全て所有している。乱開発で観光地としての価値が落ちないように。ここまでの乗り合いバスまで含めた一体経営だ」
「うちの一大産業なのだ」
この辺ではそんな産業も成り立っているのか。
でもウージナあたりではバカンスでも遠くへ出かけるなんて事は無かったぞ。
でもコイの街には結構人がいたな。
商店街をさっと見ただけだけれど賑わっていたし。
「元々は林業すら無い場所だったのだ。でも父の部下が遠出して遊ぶ場所を作ったら今までに無いから面白いのでは無いかと思いついたのだ。10年位前から細々開発を始めて今では我が領地の稼ぎ頭なのだ」
そうか、リゾートという概念を発見した訳か。
そこで俺は殿下が言っていた事を思い出す。
確かにこれはこの世界には無かった概念だ。
これを思いついた部下さんも異世界の記憶を持っていたのだろうか。
「でも夏はいいとして冬はどうするんだろう」
「温泉と雪遊びの場所をオープンしたのだ。これも最近かなり好評なのだ」
スキーリゾートみたいなものも作ってあると。
「でもそれなら貸別荘料金を払わないとまずいだろ」
「出資者枠で年間延べ2000人日使える権利を持っているのだ。例えば定員10名の別荘なら1年間で合計200日借りる事が出来るのだ。今回はその枠内で使うから問題ないのだ。実際使い切ることもないから気にしなくていいのだ」
会員制リゾートと同じような仕組みになっている訳か。
なかなか先進的なシステムだ。
ますます異世界の知識、それも俺のいた現代日本にかなり近い世界の知識のような気がする。
「そういえば昨年位に雑誌の特集でもやっていたな。今山岳リゾートが新しいって」
ヨーコ先輩は色々怪しい雑誌を好んで読んでいる。
おかげで以前えらい目にあったのは秘密だ。
「大分きれいになったよな。最初に別荘に来た頃と比べると」
「店も色々集めたのだ。今はお願いしなくても来てくれるようになったのだ」
「なら早速車を置いて街の方へ行ってみましょう」
「そうですわね」
荷物を別荘に入れると皆で街の方へと歩いていく。
商店街も今までの街とはかなり違った。
垢ぬけた生活感のない綺麗な街並みと店。
観光地的なアウトレットというかそんな感じだ。
お洒落な店とか話題の店、ちょっと美味しそうな食べ物屋が並んでいる。
「楽しいなこれは」
女性陣は色々な店へと右往左往という感じ。
俺とシンハ君、それにタカス君はそのたびに取り残される。
よく見ると所々にあるベンチに女性陣から取り残された男性陣が座っていた。
「見事だなこれは。観光地の雰囲気とちょっといいお買い物とがうまく合っている」
「これもここの開発を思いついた社員の思いつきらしい。今は公社の理事長だけれど。最初の数年は有名店なんかにお金をこっちから払って来てもらったそうだ。それを続けて5年くらいしたら一気に人気観光地になった。今では高いテナント料を払ってもここに店を出したい業者が山ほどいる」
うん、ますます俺のいた世界的な発想だと思う。
全く同じではないが同じような発展をした世界の発想に違いない。
まあ俺の勝手な予想だけれど。
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