第95話 対熊魔獣戦
幸いにもあの夜の件は誰にもバレなかったようだ。
少なくとも誰もその事については訊かなかったし特に変わった様子もなかった。
ミド・リーやフールイ先輩は隣の部屋だし危ないかなと思ったのだけれど。
さて、今日の夜も一応魔獣退治に出てみる。
でもまずは投光器とミド・リーの魔法アンテナだけ設置して様子を確認だ。
「ちょっとまずいかも。川の左側
「全員、堰堤の上で武器を準備しよう。いざとなったら逃げられるように」
「やりますか」
「ああ」
ヨーコ先輩は頷く。
「
「このままなら
「わかった。ただ
ミド・リーは首を横に振る。
「多分駄目。向こうの魔力がちょっと大きすぎて。魔力で障壁を張っているような状態よ。魔法よりむしろ物理攻撃の方が効くかも」
「この魔法杖を使っても駄目か?」
「わからない。でも普通の威力では効かないと思う」
とんでもない相手だ。
「砦に知らせておきましょうか」
「そうだな。ナカさん、砦に連絡を頼む。あとナカさんはそのまま砦で待機していてくれ」
「わかりました」
「大きさは体長
「わかりました。行ってきます」
ナカさんが砦の方へ走っていく。
相手は攻撃魔法を使ってくる熊で、魔法が効かない可能性があるのか。
なら俺の銃が一番役に立つかもしれない。
連射しても飛ばされないよう、三脚の足下のタンクに注水しておく。
これが重り代わりになるから反動は大分弱まる筈だ。
魔法銅の盾を堰堤に立てて、これも重り代わりの水タンクで固定。
フールイ先輩はアンテナと銃を両方準備している。
「来たら足場の土を崩す。一時的に速度が落ちる筈」
「頼む。でも無理はするなよ」
アキナ先輩とヨーコ先輩、ミド・リーは盾とアンテナ併用。
シモンさんは少し離れた場所から低い姿勢でボウガンを構えている。
シンハ君は猪魔獣の時と違う投げ槍を手にしていた。
「その重そうな黄金の槍は何なんだ?」
「魔法銅と魔法青銅で出来た槍さ。重いけれど魔法障壁が効かない筈だ」
防御は
なお俺を始め全員が用意した防具をフル装備している。
何せ相手は攻撃魔法を使うのだ。
用心しすぎる事は無い。
砦の方が騒がしくなる。
向こうでも通報を聞いて動き始めたらしい。
「熊魔獣まもなくよ。あっ、走り始めた。出る!」
ドーン!
川沿い右岸側の岩が弾けた。
フールイ先輩が足場を崩したようだ。
「手前で止まった。注意している。でもこっちへ出てきそう。来る。あと5、4、3、2、1」
出てきた。
黒くて見えにくいが確かにいる。
バン! 横で音がした。
大丈夫か。
「問題無い。盾が魔法で弾かれただけだ」
俺はその声に安心しつつ引き金を絞る。
ダダダダダダダダダ……
反動が大きいせいか弾がまとまらない。
それでもいくらかは当たっている筈だ。
でも
そして奴がこっちを向く。
視線が合ったと思った次の瞬間。
ドン! 目の前の盾がはじけ飛んだ。
そのまま盾は俺の頭をかすめて後ろ、背後の船着き場の方へ落ちる。
俺には当たらなかった。
銃を構えて姿勢が低かったのが幸いしたようだ。
「ミタキ!」
「大丈夫! でも下がる」
盾無しで今の攻撃魔法を受けてはただでは済まない。
俺はその場で伏せて、背後へと下がる。
堰堤の高さで熊魔獣の視界から外れたところまで来た。
ミド・リーがここでアンテナを構えている。
「どうだ」
「駄目。弾も矢も当たっているけれどまだまだ動ける」
「ミド・リーさん、手伝って下さい」
同じように下がって魔法杖を構えていたアキナ先輩がミド・リーを呼んだ。
「ここから魔法を撃ちたいのですが照準をあわせられません。でも私の魔法は堰堤の先まで届きます」
「わかった」
ミド・リーがアキナ先輩のところへ姿勢を低くして走っていく。
前方下で何かが弾けるような音がしている。
これはフールイ先輩が熊魔獣の手前の足場を崩しているのだろう。
ただ先輩も盾を飛ばされて直接攻撃できる状況に無い。
これはまずいかも。
そう俺が思った時だった。
「それでは足止め狙いの凍結魔法、参ります」
台詞とともにアキナ先輩の魔力が膨れ上がる。
ほぼ同時にヨーコ先輩とシンハ君が動いた。
ヨーコ先輩はそのまま、シンハ君は飛び上がって吠える。
「うごおぉぉぉぉ!」
黄金色の槍が2本宙を飛んだ。
ドン!
空中のシンハ君が背後に飛ばされた。
「むん!」
シンハ君は気合い一発、腕を無理やり振り回して空中で体勢を整える。
そのまま堰堤のギリギリ上に着地した。
「どうだ! ミド・リー!」
「命中よ。任せて!」
ミド・リーが自分のアンテナに飛びつく。
一瞬全てが静まりかえった後。
「生命反応消滅。終わりよ」
ミド・リーが戦いの終わりを告げた。
「大丈夫か、シンハ!」
どう見ても空中で熊魔獣の魔法の直撃を受けたように見たのだが。
「
流石頑丈人間、問題無いらしい。
「それでも後ろに落ちたら大変だっただろ。何で飛んだんだ」
「この方が威力が大きいからさ。一発くらい食らうつもりで前に飛んだんだ。でもちょっとぎりぎりだったな。まあこれくらいの高さ、姿勢さえ間違えなければ怪我しないで済む」
ちなみに堰堤の向こう側は船着き場で砦3階分ほど低い。
でもよく考えたら奴はそれくらい落ちても平気な筈だ。
初等部の頃遅刻しそうになって家の3階から飛び降りてきたこともあったし。
どうも俺は奴が頑丈人間だった事を忘れていたようだ。
そもそも空中で姿勢を立て直したりなんて人間の動きじゃない。
「大丈夫でしたか、皆さん」
ナカさんが駆けてくる。
衛士5人ほどが一緒だ。
「大丈夫だ。あと
「わかりました。後は我々で回収致します。報奨金等は後ほど」
「なら私達は休むとするか。もう大型魔獣は近くにいないんだろ、ミド・リー」
ミド・リーは頷く。
「
「なら片付けましょう。投光器は衛士さん達が
衛士さん達はスレッドをかかえて
取りあえず連射で熱くなった銃身を生活魔法で冷却。
三脚等を折りたたんで収納箱にしまった頃には、衛士さん達の引く
投光器を消すと暗い夜が戻ってくる。
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