第86話 魔石使用装置・再実験

 休憩で回復した皆さんの食欲は思った以上だった。

 それなりにたっぷり用意したロースト鹿魔獣チデジカは見事完食。

 予想外だったのは麦飯にモツ煮込みをかけるという食べ方が好評だった事だ。

「朝はもういいと思ったのに、また食べたくなるのは不思議だよな」

「また捕まえたら焼き肉やりたいね」

「刺身もおいしかったです」

「次は鹿魔獣チデジカのモツだな」

 この人たちの食欲は大丈夫なのだろうか。


 さて、肉も野菜類もたっぷりあるので午後は魔石使用機械のテストその2を実施。

 ヨーコ先輩の魔法杖は魔法銅オリハルコンで新たに作り直し、試験用には別の杖を作った。

 構造そのものはヨーコ先輩の魔法杖とほぼ同じ。

 ただ魔石が入る場所があり、三脚の固定がアンカー仕様で、操作が遠隔スイッチなのが主な違いだ。

 なお前回の反省を踏まえ、片方の導線のうち半分は魔法の抵抗がありそうな錫、残りの一部は木炭を圧縮して固めた炭素棒にしてある。

 これが電気抵抗ならぬ魔法抵抗になって出力を抑えられるかなと思ったのだ。

 なお錫や木炭はシンハ君に昨日魔法銅を購入した組合の店へ買いに行って貰った。

 作業に使用する錫と木炭を分けて貰った形だ。

 他にもスイッチを改良。

 バネを使って接点がくっつくのは一瞬だけになるようにした。

 これで少しでも実用に近づいてくれるといいのだけれど。


 例によって実験前に武装を全部並べておく。

 更に今回はミド・リーが魔獣の状況を確認。

「今すぐ来そうな魔獣はいないけれど、昨日と大分状態が変わっている。あの大きな猪魔獣オツコトを倒したせいで色々変化が出ているみたい」

「今日明日で襲ってきそうな魔獣はいないですよね」

「それは多分大丈夫」

「なら実験開始だ」

 また皆さん堰堤の陰に隠れて、そして俺はスイッチを押す。

 フォン。

 一瞬だけ風が出たような気がする。

 山の方には特に影響は無さそうだ。


「大丈夫そうだな」

「もう一度確認します」

 スイッチを押し込むときにやはり接点が一瞬接触する。

 フォン。

 やはり一瞬だけ風が出た。

「これくらいなら連続で出しても大丈夫だと思うぞ」

「やってみます」

 バネスイッチでなく元々の押し込みスイッチを押してみる。

 フォーフォフォフォフォフォオー

 風が出ているようだ。

「大丈夫だ。やや強い程度の普通の風だな」

 風が見えるヨーコ先輩が教えてくれた。


「第一段階突破だね」

「ああ、これで実用化に近づいた」

 次は錫や炭素棒で作っている魔力抵抗を小型化して可変化する作業だ。

 その辺は後でシモンさんと相談だな。

「これはどう使えるんだ?」

 シンハ君が聞いてきた。

「色々だな。この機構を船に積めば魔石で動く船が出来る。風車を回せば蒸気機関と同じで機械の動力に使う事も出来るな」

「魔石を狙って魔獣の乱獲が起こるかもね」

 確かにその可能性もあるな。

 その辺は後で考えよう。


「他の魔獣の魔石も使えるでしょうか」

鹿魔獣チデジカの電撃魔法は発電機代わりになるかもしれない。猪魔獣オツコトの土魔法は魔法がどう出るか確認してみないとわからないな。いずれにせよここにいる内にある程度実験を済ませておきたい。研究室内だと危なそうだしさ」

 鹿魔獣チデジカ用は電圧計とか電流計、それに抵抗代わりの何かをつなげて試してみよう。

 その辺はこの後シモンさんと相談しながらの事になる。

 でもまずは猿魔獣ヒバゴンの魔石を完全に使いこなせる機械を作るのが先かな。

 猿魔獣ヒバゴンは個体数が多いし比較的よく出てくるらしいので。


「とりあえず今日の実験はここまでで大丈夫です。後はまた装置を作ってからでいいかなと思います」

「なら討伐をやっておくか?」

 ヨーコ先輩の台詞にミド・リー首を横に振る。

「今日は止めた方がいいかな。山の魔獣の動きが不安定に見える。一旦落ち着くのを待った方がいいと思うの。下手に刺激して暴走が起きたら危ないし」


「なら片付けて部屋に戻りましょうか」

 これはアキナ先輩だ。

「今日くらいはのんびりしても大丈夫でしょう。それに個人的にそろそろ甘い食べ物なんて食べたいなと思いまして。昨日色々仕入れましたけれどあの材料で何か出来るでしょうか」

「なら今日は私が作ります。焼き林檎なんてどうでしょう。バターたっぷりの」

「いいな、それは」

 そんな事を話しながら広げた魔法杖や武器をそれぞれ片付ける。

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