第68話 厳しい追及
高さが学校裏の丘よりも高くなった。
「そろそろ熱魔法を止めていただけますでしょうか」
俺はホン・ド王子に声をかける。
「おっと、けっこう上まで来たね。それじゃ今度はミタキ君に質問いいかな」
えっ、何故俺に。
でも断る権利は残念ながらなさそうだ。
「わかる事でしたら」
「なら尋ねるよ。今は熱気球の中の温度を『水が沸騰するより少し高い温度』と表現しているけれどさ。これって長さや重さと同じように数値で表せると便利だと思わないかい?」
これは質問なのだろうか。
でもそれ以上台詞が続かないようなので仕方なく答える。
「ええ、そんな共通の尺度があれば便利だと思います」
「それじゃもしそんな尺度を作るとするとだね、その尺度はどんな基準で作ればいいと思う? 何を0度とするとか、何を10度にするとか」
この質問にどういう意図があるのだろう。
とりあえず答えてみる。
「例えばさっき熱気球内の温度を水が沸騰する温度で例えました。それと同じように水が凍る温度を0、水が沸騰する温度を100として区切るのが身近な指標を使えるのでわかりやすいと思います。ただ条件によってこの温度も微妙に変化するらしいので、厳密な指標とはならないかもしれません」
「例えばどんな時にそれらの温度は変化するかな」
「高地の方では水は沸騰しやすくなると聞いています。ですので測定する場所によって変化する可能性があると思います」
質問がちょっと厳しくなってきたぞ。
「それは場所による差なのかな。それとも他の要因があるのかな」
仕方ない。
「以前シモンさんに空気を密閉できる実験容器を作って貰ったことがあります。その中に水を入れて空気を抜いていくと、かなり低い温度で水が沸騰し始めた事がありました。ですので空気の濃さによって変わっているのではないかと思います」
あくまで気圧という言葉は使わない。
それはこの世界に無い概念だ。
それにしても何故に俺にこんな質問をするんだ。
説明要員でアキナ先輩もいるのに。
「なるほど。では今度は別の質問をするよ。今度もミタキ君用の質問だ」
何だまた俺か。
そしてどんな質問をする気なんだ。
何かヤバい予感がひしひしとするのだけれども。
「今年の夏、算術で久々に画期的な発見があってその世界では話題になったんだ。無限に小さいという概念を持ち込んだ新たな計算方法。これを使えば速度と加速度と距離。または長さと面積と体積。そういったものの計算が非常に簡単になるという画期的な計算方法だ。ミタキ君は思い当たることがあるよね」
ぎくっ。
王子が何を言っているのかはすぐにわかった。
微分積分の事だ。
定期テストでつい横着をして使ってしまったのだが、王子の処まで話が行っているとは思わなかった。
でもここはわからないふりをしておこう。
「何のことでしょうか」
「君が期末テストで使ったあの計算方法だよ」
あっさり指摘されてしまった。
「ところで気球の状態は大丈夫かな」
そう言われて慌てて鑑定魔法を起動する。
「大丈夫です。もう少しで下降を開始しますので、そうしたら上昇時より若干低めに加熱して下さい」
「わかった。ありがとう。
さて質問の続きだ。あの計算方法はどうやって考えたのかな」
聞かれてしまった。
でもこれにはかつて作った説明がある。
「速度と時間が与えられて距離を表す文章題が過去に出た時、その逆に『距離を表す式からその時点の速度を現す式が出来ないか』と考えたんです。ある時点という事なので、距離÷時間=速度という式の時間の場所が0になって計算がなりたたない。なら成り立たせるために0に限りなく近いけれど0ではない数値というのを使って計算できないかと考えたんです」
「なるほど」
王子は頷いた後横を向く。
「それでどうだった、マトゥバ君」
「今の最後の答えは嘘ですね。彼はその計算方法を元々知っていた。知っていた理由は残念ながらわかりません」
なんだと。
ちょっと待った。
何が起きたんだどうなるんだ。
「なお敵国の潜入員等危険な者でないのも確かです。今まで観察した結果害意は一切感じませんでした。身体分析でも典型的なこの地方の国民と出ています。更に彼の安心のためあえて言わせていただくと、父母及び交友関係にも問題ありません」
状況はいまいち掴めないが何が起こったかはわかった。
俺は罠にはめられた訳だ。
「悪かったね。君達の周囲に明らかに色々な発見や発明が多く見られたからね。誰がその原因でその正体は何か、そして何が目的か調べる必要があるだろうという話になったんだよ。そんな訳で色々調べた結果、おそらくこの謎の中心人物はミタキ君だろうという事になってね。最終的に確認するため、この場を設けたって訳さ」
そうだとしたら俺はどうなるんだろう。
ひょっとしたらこのまま拉致監禁され記憶を全部抜かれて調べられるとか。
そういう魔法は聞いたことは無いが秘密裏にはあるのかもしれない。
『お前は知りすぎた』とか『君のような勘のいいガキは嫌いだよ』とかそんな台詞が思い浮かぶ。
ヤバいまずいもう悪い予感しかしない。
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