第57話 開店を待ちながら
俺ハ何故コンナ処デコンナ事ヲシテイルノダロウ。
安息日の朝8時50分、俺は行列に並んでいた。
それも自分の家の新店の行列だ。
無論サクラという訳では無い。
ただ幸か不幸か俺一人でいる訳では無い。
当然いつものうるさい皆さんも一緒にいる訳だ。
「どれがいいかなっと」
「全種類買って味を確認させていただきますわ」
「研究会費ですので一人
「皆で分担して色々買おうよ」
「甘いな、これは
「楽しみ」
まあこんな感じである。
なお皆の手元には木版刷りの一枚紙がある。
店の紹介と主なメニューの一覧だ。
先程姉が列の全員に配って行った。
思いきり俺がいることがバレたが姉の奴にやりとしただけで去って行った。
絶対後で色々言われること確定だ。
ああ気が重い。
「ところで本当にどれを買おうかな」
ミド・リーが紙を見て作戦を練っている。
「ミタキのおすすめはどれになるの?」
そう言われてもな。
「だいたいどれも一通りは食べた事があるだろ」
「そうなんだけれど迷うよね。
予算目一杯まで買うつもりらしい。
まあ女性陣みんなそんな感じだけれど。
「俺達は別にケーキ1個でも充分だよな」
そうシンハ君に言ってしまったのが失敗だった。
「だったら残りのお金でパウンドケーキとかクッキーセットとか買って! そうすれば皆で味を確認できるから」
おいおいミド・リーよ。
「そこまで食べる気かよ」
「当然だ」
お、ヨーコ先輩が割り込んできたぞ。
「もし予算が余っているようならこのホールチーズケーキかドライフルーツ入りパウンドケーキ大がお勧めだぞ。そうすれば皆が分け合って食べられるしな」
「クッキーセットの方がいいなあ。あれ色々種類が入っているらしいじゃない」
「この、おいもちゃんケーキホールってどんな感じでしょうか」
「クリームとサツマイモと水飴を混ぜた甘い黄色いので飾ってあるケーキだ確か」
つまりはモンブランのイモ版である。
「ずいぶん列が長くなってきたね。これ最後の方は買えるのかな」
「相当用意している筈だから大丈夫じゃないか」
今日の分は確か昨日の夜から作り続けていた筈だしさ。
専用の工房をこの建物内に作って姉貴含め5人位で量産しまくった筈だ。
材料も恐ろしい量を用意していたし。
「甘いですわミタキ君、列をよくご覧なさい」
そう言われても100人位並んでいるな、としかわからないけれど。
「一番前の2人組はうちのハウスメイドだ。その3つ後ろの3人組はアキナ先輩の家のメイドだな」
えっ何ですと。
「他にもカミヤス家、ターカトリ家、トモー家のメイドさんがいらっしゃいますわ。皆さん目聡いようですね」
「他にもいるだろうな。私もこの辺の貴族の使用人を全部覚えている訳ではない」
ちょっと待てここは思い切り庶民の街だぞ。
でもそうするとだ。
「その辺の皆さんは大量注文する恐れがあるという事ですか」
「そうだろうな。うちも最低20人分は買っておけと指示した」
犯人ここにもいたか。
でもそうするとだ。
「私達は前から数えてちょうど10組目ですけれど、危ないかもしれないですね」
俺の危惧をナカさんが言語化してくれる。
「何もこんな庶民の店まで来なくても」
「甘いもの専門で作って売る店なんて初めてだからな」
「他にお昼はサンドイッチも出すとか言っていましたけれど」
配られたパンフレットにもそう書いてある。
ジャムとか餡子とか瓶詰め系も売っているらしい。
要は元の店から新規に作った食品部門を独立させた感じだ。
あっちはあっちで化粧品とか蚊取り線香とか旧来の食品系で忙しいらしいしな。
「それでは開店致します。前の方から順番にお進み下さい」
列がゆっくりと動き始める。
「
こらフールイ先輩、縁起でもない事を言わないでくれ!
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