第48話 ミド・リーの目的

 場所は多分、シンハ君宅の別館内の何処か。

 石鹸の匂いでわかる。

 下はベッドか何からしく柔らかい。

 俺は寝ているみたいだがどういう状態なんだ?

 目を開ける。

 視界の6割近くは天井板。

 残り4割に知っている顔がいくつか見えた。

「よかったですわ。でもまだ動かないで下さいな」

 アキナ先輩だ。


 俺はゆっくり起こった事を思い出す。

 そうだ、俺はミド・リーに気絶させられたんだ。

 今横になっているのは石鹸工場の部屋にある長ソファーの上。

 木製フレームが折れて腐っていたのをシモンさんが直した奴だ。


「ミド・リーは?」

「隣の部屋で休んでる。魔力をギリギリまで使ったからさ」

 これはシンハ君。ちょっと離れたところの壁沿いに立っている。

「強回復魔法をかけました。半時間30分もあればミド・リーさんも回復すると思います」

 これはナカさんだ。


「ミド・リーは何をやったんですか」

 俺を気絶させた上でそこまで魔力を使う事をやった訳か。

 でも俺には何をやったか思いつかない。

「ミド・リーさんが何故、錬金術研究会に入ったか知っていますかしら?」

「エリクサーを作るためと言っていましたね。お金を儲けるために」

 アキナ先輩は小さく頷く。

「確かにエリクサーを作るというのが目的でした。ですがお金の為ではありません、本当はね。そういう意味では錬金術研究会の3人の中で、一番早く目的を達成したと言えるかもしれませんわ」


 ちょっと待て。

 ミド・リーは治療魔法の使い手としては最高レベル。

 本職の治療魔道士と比べても遜色ないどころか、持っている治療魔法の質も数も並の治療魔道士以上。

 魔力量こそ年齢相応だけれども。

 つまり本人はお金の為以外の理由でエリクサーは必要ない筈だ。

 自分の持つ各種治療魔法でどうにでもなるのだから。

 そして今、アキナ先輩は“目的を達成した”と言っていた。

 それが俺を気絶させた事とつながっているのなら答えはきっと。


「俺の治療の為だったんですか。エリクサーも、今休んでいるのも」

「本人は誰の為とは言っていません。ただ彼女の治療したい誰かさんは先天性の異常が数カ所あって、“元の状態に戻す”が基本の治療魔法では完全な治療が出来なかったそうです。エリクサーなら何とかなるかもしれないから、そう言っていましたわ」


「シンハも知っていたんだな」

 さっき俺を取り押さえたのはミド・リーの意図を理解していたからだろう。

 案の定奴は頷く。

「気づいていないのはお前だけじゃないかと思うけれどな」

 ちょっと待て。そうだったのか。

 何か異様に恥ずかしくなってきた。

 どんな顔で会えばいいんだ。

 遅くとも半時間30分後なのに。

 なんて思った時、部屋の扉が開いた。

 勿論入ってきたのはミド・リーな訳で……


「まだ動かないで。処置は完璧な筈だけれど」

 ミド・リーの方から先に言われてしまった。

「ありがとう。何か色々……」

「これで私やシンハもミタキの事を気にしないで自由に出来るんだからね。それだけだからね」


 おいおいそれが本音かよ。

 でも有り難い事には変わりない。

 なのでもう一度、ちゃんと礼を言っておこう。

「でもありがとう。これでもっと色々な事が出来る」

「いきなり体力が人並みになる訳じゃないからね。確かに主臓心臓の穴とか弁とかは全部直したけれど、体力そのものはまだ最低レベルだからね。あと一月は今まで通り無理しないこと。私やシンハに手間かけさせないでね」

「わかった。気をつけるから」

 ミド・リーの方から色々言ってくれてありがたい。

 どう挨拶をしようかとかどうお礼を言おうとか考えずに済む。


「あと私用のあの魔法杖、うちの親でも使える? あれがあると治療に楽だと思って。もしあの杖の存在を秘密にしたいなら、家の二階と天井に仕込むとか色々考えるから」

「そうでした。あの杖の件ですけれど私とヨーコからもお願いがあります」

 いきなり別の話が出てくる。

 いや、もともとは魔法杖の試作と試用で、それでミド・リーが俺を治療した結果こうなったんだっけ。

 気絶から目覚めた途端の急展開で俺も頭の整理が追いつかない。

 頼むちょっと待ってくれ!

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