第25話 岩牡蠣と気の迷い
シンハ君がいなくなっても合宿は続く。
とりあえず甘味生成という俺自身のクエストは達成した。
あとは本腰を入れて遊ぶだけだ。
大分時間が経っていたので昼食は簡単にサンドイッチで済ます。
皆さんはずんだ水飴寒天の食べ過ぎで腹が減っていなかったようだけれども。
さて海だ!
海といえばかつての俺が是非採ってみたいと思っていた獲物があった。
家にあった小さめの折りたたみナイフを片手にバケツも持って岩場の方へ。
「何ナイフ持って危険人物やっているのよ」
「海に来たら捕りたかった獲物を思い出したんだ」
「何それ?」
「いるかどうかわからないけれどさ」
もしもいるなら奴は岩場、それも干潮でも水面下になっている場所で岩に擬態しているはずだ。
そんな訳で岩場に到着。
魚をとった深いところではなく、砂浜に隣接したところだ。
丹念に岩肌を見ると、周りの岩とちょっと違う色の膨らみがそこここに見えた。
目標補足だ。
『地球で言うところの岩牡蠣』
鑑定魔法が正解と告げている。
波が来る中立ち泳ぎする技能は俺には無い。
だから岩伝いに近くまで行って水中の岩に足をかけ、片手で岩にしっかりつかまりながら一見岩に見える奴を剥がす。
よしよし、1個採取成功。
続いて2個、3個と剥がして岩の上に置く。
更に下にもいっぱいついているのが見える。
よしよし、これは大漁とにんまりした時だった。
うぎゃあ!
足が滑って海中へと落ちてしまった。
やばいやばい、でも落ち着け俺!
とりあえずナイフを折りたたんで短パンのポケットへ入れる。
あとは静かにしていれば比重の関係で浮くはずだ。
そう思っているのだが流れのせいで全然浮く気配はない。
やばい、そろそろ息が苦しいぞ!
もがいてみたら何かに手が触れた。
柔らかくて岩ではない模様。
でもとりあえずしがみつく。
顔が水面に出た。
波が来るので難しいけれどなんとか息をする。
「岸に戻るわよ」
何か、いやミド・リーは片手で俺のアゴ部分を抱えながら片手で泳いでいる。
やっと安定して息ができるようになった。
ほっとした次の瞬間、俺は引っ張られる。
「もう立てるわよ」
気がつくとたしかに大分浅い場所、それも砂浜だった。
「全くミタキは見ていないと危なっかしいよね」
「毎度申し訳ありません」
そう誤りつつ俺は今回の件で気づいたある事実を心の中に仕舞い込む。
ミド・リーの胸、一見無いように見えるけれど、結構柔らかかったなあ。
ただそう思っている事に気づかれるとどんな目に遭うかわからない。
彼女の魔法は心を読むことも可能だから。
「さてミタキ、ナイフを貸して」
えっ、まさか俺の感想がバレて、ぐさっと一発なんて事ないよな。
「さっきの岩みたいなもの、必要なんでしょ。ミタキにやらせるより私が採ったほうが楽だし安全よ」
そういうことか。
ほっと一息。
「かえすがえす申し訳ない。でも頼む」
「わかったわ。でもあの岩みたいなの、何に使うの?」
「ああ見えて美味しい貝なんだ。場所によっては高級食材扱いになる」
この世界でもそうかは知らないけれどな。
そんな訳で再び岩場へ。
「じゃあ採るね」
俺と違いミド・リーは泳ぎ主体で採る模様。
しかも俺と違って自由自在に動いている感じだ。
こうやって見ると胸こそ無いし小柄だけれど、身体の線とかは結構綺麗だよな。
さっきの胸の感触を思い出してしまう。
いかんいかん、奴はあくまで幼馴染で治療院の娘で俺の監視役兼介抱役だ。
ついでにクラスメイトでもあるけれど、それ以上の関係ではない。
断じてそれ以外ではない!
「ミタキ、この辺にあったの大体採ったけれど、これでいい?」
その声に俺ははっと我に返る。
見てみると岩の上に牡蠣が山のように積んであった。
20個、いや30個近いかな。
「充分充分。ありがとな」
慌ててバケツにそれらの牡蠣を入れる。
確かにこれだけあれば充分だな。
生牡蠣、焼き牡蠣、フライってところでいいか。
「でもこの汚い岩みたいなの、本当に食べられるの?」
「まあそれは今晩のお楽しみだな」
「本当に美味しいの?」
「好き嫌いはあると思う。でも俺は貝の中で一番美味しいと思っている」
「なら期待していい?」
「当然!」
そんな話をしながらも俺は胸が微妙にドキドキしているのを感じる。
間違えるな俺。
これは一時の気の迷い、そう気の迷いなんだ!
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