第20話 取り敢えずの休憩
俺が休み休み帰った時には、既にシンハ君が大麦を大きめの袋1個分持ち帰ってきていた。
「早いな、シンハ」
「ミタキが遅いだけよ」
ミド・リーにあっさりそう言われてしまう。
でも俺も頑張ったんだぞ。この暑い中2時間近く歩いたんだからな。
「それでこの麦はどうするんだ? 農家の人は牛等の餌にしかならない安麦だって言っていたけれどさ」
シンハが尋ねてくる。
「まずは大鍋に半分位入れて、水に浸しておいてくれ」
「発芽させるんだよね」
ミド・リーに先回りしてそう言われる。
「ああ。でも取り敢えず半日は待って、水をよく吸収してからの方がいい」
「何を作るのでしょうか」
アキナ先輩が興味深そうに尋ねる。
なお既に海で遊んでいた模様で、顔や腕が少し赤く焼けている。
ほかの居残り組みの皆さんも似たような感じだ。
「まずはこれで甘い汁を作ります。その後は未定です」
麦芽糖から水飴をつくる予定だが、それだけでは面白く無い。
折角だから何かデザートらしい形に何とかして持って行きたい。
でも今のところ考えつく物は無いな。
「取り敢えず昼ご飯にしてさ、午後はのんびり海を楽しもうぜ。折角ここに来たんだしさ、海で遊ばなきゃここの価値がない」
そう言われればそれもそうだな。
せっかくだから海で遊ぶとするか。
材料もひとつ見つけたし、今日のノルマは達成ということで。
ノルマなんて設定していないけれどさ。
「食事出来た」
フールイ先輩がそういうのでキッチンに行って昼食を運ぶ。
お、これはなかなか凄いぞ。
「アクアパッツアか。いいな、魚が届いたのか?」
べらとかカサゴとかそこそこいいサイズの魚がふんだんに入っている。
「これはフールイ先輩の魔法で捕ったんだよ。貝とかは僕らも拾ったけれどね」
シモンさんが教えてくれた。
「凄いな、どんな魔法なんだ?」
「危険すぎて他に使い道がない」
本人はそう言うけれど、
「戦闘ならきっと最強だな。私でも本気でやったら勝てない」
ヨーコ先輩の評価は高いようだ。
どんな魔法なんだろう。
「その辺は昼食を食べながら話しましょう。素材探しの方も海の方もお互いの様子が知りたいと思いますから」
ナカさんの言葉で準備を進めて食卓に着く。
「……というわけで、探していた砂糖を精製する植物を見つけられなかった代わり、大麦で水あめを作る方法を思い出したんだ」
なかなか美味しいアクアパッツアを食べながら俺は説明する。
「思い出したって、どこかでそんな事をしていたのか?」
「前に家を出入りする商人にそんな話を聞いたんだよ」
前世の記憶なんていえないのでそう誤魔化させてもらう。
「なら明日か明後日にはその甘いものを食べることが出来るのですね」
「そうなんだけれどさ、折角だからちゃんとした一品にしたいんだ。その辺はまた明日当たり探そうと思って」
「素材探しはそんな感じね。そんな訳でシンハに麦を買いに行って貰って、私はばて気味のミタキと一緒に帰ってきた訳。そんな感じかな」
「こっちの方は皆さんで海に出ましてね。砂浜や岩場を歩きながらいろいろ見てみたのですわ。そうしたらシモンさんが岩場の深いところに魚がいろいろいると教えてくれたので、フールイさんの魔法で浮かせて、ヨーコさんの風魔法で集めて捕まえたのです」
「工作系魔法の初歩で見えない部分の構造を把握するなんてのがあってね。それを応用したら深いところにいろいろ魚がいるのがわかったんだ。それでどの辺に魚がいるか距離と方向を教えてくれってフールイ先輩に言われて、教えたらドン、と海が揺れた後、魚が浮かび上がってきて」
「それを私が風魔法で寄せて集めたわけだ」
なるほど。
でも疑問が残るのでやっぱり聞いてみる。
「フールイ先輩の魔法はいったいどんな魔法なんですか」
「破壊炸裂魔法。父が鉱山技師で山を掘るときに使っていた。何でも爆発させたり炸裂させたりする。規模は小石1個から学校の丘規模まで」
「凄いなそれ」
シンハ君は目を輝かせるけれど、
「普通に生活する分には使い道はない。危険で役に立たない魔法」
フールイ先輩自身はそんな感じだ。
「魚がいろいろ入っているおかげか、このアクアパッツア美味しいよな」
「それはナカさんの腕ですわ」
「料理はそこそこ得意です」
うん、確かに美味しい。
腕もあるし魚の新鮮さもあるのだろう。
そのまま食べても美味しいしパンを汁につけても美味しい。
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