第01話 わたしたちの存在

 現金な考え、なのかも知れない。

 だって、自分たちが仮想世界の住民であったこと、自分たちが単なるデータであったという事実を知ったことで、あれだけの悲壮感やなげやりな気持ちが生じ掛けていたというのに……

 それなのに、仮想世界がまだ存在していると分かった途端に、守らねばという気持ちや、さらには自分たちが生きる上での希望のようなものまで、湧き上がってしまったのだから。


 でも、冷静に考えて見れば、当然のことなのかも知れない。

 こっちの世界も、わたしたちの暮らしていたあちら側も、同じだ。

 みな、現実を生きているんだ。


「そう、ここに……地球は、あるんだ」


 ぎゅ、

 アサキは、自分の小さな拳を強く握り締めた。


 この現実世界の宇宙に、遥か昔に存在していた地球。

 それがなかったら、わたしたちはいない。

 でも、それよりも、この、手の中の雲、仮想世界にある方こそが、我々の、地球なんだ。


 真実を知ろうとも、その思いは変えちゃいけない。

 でなきゃ、わたしたちの存在とは、なんなんだ。

 この中に生きている人たち、生命の存在は、なんなんだ。

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