第01話 貧乏家にだって朝は来る
まあ日本全体等しく朝であるが。
「朝メシ出来たぞー」
スーツなのは、これから仕事に行くためである。
よれよれなのは、貧乏なのと、あまり気にしないためである。本人も家族も。
「やったー! 起きたばっかだけど腹減ったあ!」
「腹減ったあ!」
叫び声と共にふすまが開いて、
「あたしの胃袋は常に準備おっけえええい!」
「おれもだあ!」
ずるずる這い上りながら、ちゃぶ台に着く姉と弟。
しかし、テーブルの上に置かれた料理を見た瞬間、二人の表情は冬の北風に当たったかのごとくに凍りついていた。
「なにこれ……」
ぼそり呟くカズミ。
ハンバーグの上に目玉焼きが乗っており、横にはポテト。のみならず、朝からなんではあるが、小さなハムカツまで添えてある。
と、メニューだけなら、ごく普通。
ならば何故に北風が吹くかであるが、ことごとくが、なんともしょぼいのである。
しょぼいというか、一週間ほっといてカリカリ乾燥して縮んでしまったかのような感じだ。
シベリアの永久凍土から、数万年前のハムカツやフライドポテトを発掘して、電子レンジにかければ、このようになるだろうか。
「なにこれ、ってちょっとハワイっぽいだろ? こうするだけで」
朝から手間暇を掛けたこと、ありがたく思えといわんばかりの智成の表情であるが、期待通りにならないのが世の常。世の無情。
「まずそ」
カズミは、げんなり顔で首をガクーッと落とした。
「犬も食わねえ」
駆が、左手で鼻を摘まみながら、手にした箸で皿をぐいーっと遠ざけた。
「食ってからいええ!」
怒鳴る智成。
ズダーン、と足を激しく踏み鳴ら、そうとするが畳に着く寸前にブレーキを掛け、ふわっと落としたのは、以前にこんなことして畳どころか床までぶち抜いて、大穴を開けてしまったことがあるからである。
「しょうがねえな。空腹という名の調味料に一縷の望みをかけて、いざ! ……いただきまーす」
「いただきまーっす」
と、箸を口に運ぶ二人。
「まずっ! 見た目通りまずっ! 道に落ちてるハンバーグっぽい形のなにかを拾って洗ってソースかけただけじゃねえの? それと横にあるこのゾウリみたいの、ひょっとして駄菓子屋で売ってるビッグカツ? 好きだけど、でもこれお菓子だろ」
「普通のハムカツだよ! まずかろうとも食えよ。せっかく早起きしての手料理を、好き勝手ボロクソ抜かしやがって!」
「兄貴だって、あたしが作るのけなすじゃねえかよ!」
智成とカズミは、週替りで料理当番をしているのである。
そしていつものこと、お互いに不味い不味いいい合っているのである。
「だって、お前の方が、おれより遥かにクソまずいじゃんかよ。女のくせに料理もまともあーーーーーっ、なにすんだ!」
カズミが身をさっと乗り出して、智成の目玉焼きの、ぷるぷる目玉を箸で激しく突き破ったのだ。
目玉にそっと開けた小さな穴に、醤油をちーっと流し込んで食べるのが兄の楽しみであること、知っていてわざとやったのであろう。
がくり肩を落とす智成。
「畜生、最悪だ。……おれ今日仕事休む」
「行けよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます