#10 そこにかたちがなくても
大学生ともなれば、色んなひとの色んな色恋の話が耳に入ってくる。
少女漫画から深夜ドラマまで 実に多種多様で幅広い恋模様ではあるけれど、そのどれを聞いても、純粋にいいなあと思えるのは、自分が恋を知らないからだろうか。
恋というのは素晴らしい。それがどんなかたちであれ、好きなひとがいる、恋人がいる、というのは素敵なことだ。
そんな考えが増えて、広まった。かたちにとらわれない恋を、愛を。それは間違っていないと思う。特に異論もない。だって、実際に素敵だと感じているから。現在進行形で。
でも、おろかな私はときどきこんなことも考えてしまうのだ。
好きなひとも恋人もいない私は、生まれてから今までまともに恋をしたことがない私は、世界にやんわりと否定されているのではないかと。
もちろん、そんなつもりなんて微塵もないだろうということは理解しているけれど。
誰と会って、誰とごはんを食べて、誰と遊んだとしても、恋の話が出ないことはほとんどない。
これまで 色んなひとの色んな色恋の話を聞いてきた。それと同時に「あなたは何かないの?」と何度も聞かれてきた。
私には何もない。好きなひととのLINEのやりとりも。恋人のかっこいい、かわいい一面やデートで起こったハプニングも。どうでもいいことで喧嘩したあの日のことも。屑みたいな好きだったひとの屑みたいな振舞いも。何も話せない。おもしろくない人間なのだ。
1つ年下の男の子の友達がいる。
彼も私と同じようなタイプだった。恋愛感情というものが分からなかった。
でも、変わった。いや、この場合 変わったという言い方はふさわしくないだろうか。
彼は、恋を知ったのだ。年上の彼氏ができたらしい。
ほんとうに幸せそうに、色んなことを話してくれた。うれしそうで、楽しそうで。私もそれを聞いてうれしかった。うらやましかった。ほんとうにうらやましかった。
こんなことを書いておいて、来週には「これが私の運命の人!」なんて嬉々としてここに書いているかもしれない。そうなったら笑ってほしい。たぶん私自身がいちばん笑っている。
いつか、今の自分のことを笑えるようになっていたらいいなあと、心から思う。
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