#7 煙草


 おそらくこの先ずっと自分が喫煙者になることはないだろうけれど、それでも煙草というものに憧れがある。


 吸いたい、と思ったことはない。どちらかといえば匂いも好きじゃないし、煙を浴びせられると殺したくなる。


 ただ、ひとが煙草を吸っている姿を見るのはけっこう好きだったりする。

 別に誰でもいいわけじゃない。煙草を吸うそのひとの背中に、物語の欠片があるひと。もしくは、ほんとうになにもないひと。

 そんなひとを見ると、胸が少しだけときめくのだ。

 小説を読むみたいに、映画を観るみたいに。そのひとのことを立体的にではなく、平面的に俯瞰して、遠いところから、いいなあと思っている。


 喫煙者の友達に、苦くないの。おいしいの。なんで吸ってるの。なんて質問したことがある。


「おいしいよ。生命いのちを削って味わうものが、不味いわけないでしょ」

「最初はただの憧れではじめたけど、早く死にたいから吸ってるのかもしれないね」


 今ちょっと格好つけたでしょ。ってそのときは笑ったけど、それは案外本質なのかもしれない。何だか切ない。


 あのときの答えが嘘でも真実でも、吸っている姿がきれいでもおろかでも、生命いのちは縮めてほしくないよ。そう、思っている。

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