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結局、ハロルドというのが誰なのか、ソフィーからは教えてもらえなかった。あの容貌からして、レオンの縁者なのは間違いない。おそらく弟だろう。けれどあれは当主を飾る場所だ。次期当主は、レオンではないのだろうか。
レオンのあの性格からすると、単純に肖像画が嫌いなだけだという理由かもしれないが。
大抵のことは話してくれるソフィーも、あの肖像画に関しては口が重く、ローズをこのガゼボに押し込むととっととお茶の用意をしに逃げてしまったのだ。今は、話しかけられないくらいの程よい距離をとって控えている。
(レオン様なら教えてくれるかしら)
あれこれ考えを巡らせていると、視界の隅に動くものが映った。廊下を歩いていくのは、まさに今思い出していたレオンだ。エリックがついていないところを見ると、出かけるわけではないだろう。彼の歩いていく先は、確か中庭へと出るはずだ。
少し考えると、ローズは立ち上がった。
「お戻りになられますか?」
すぐにソフィーが近寄ってくる。部屋へ戻る、と伝えると、ソフィーは隣にいたメイドにその場を片付けるように言ってローズについてきた。
「ああ、そういえば」
わざとらしくならないように、ローズは言った。
「こちらの図書室には、フルラエ朝についての書籍はあるかしら」
「はい、ございます」
そこで即答できるのは、ソフィーの教養の高さを示している。図書室にある資料まで、彼女はきちんと把握しているのだ。ソフィーと一緒にいると、同じメイドの立場としてローズは舌をまくことが多々ある。
「目を通しておきたいから、部屋に持ってきていただけるかしら。できればあの時代の服飾史が含まれるものがいいのだけれど」
現在のドレスの基本は、フルラエ朝の時代に確立した。今でも正装にはついては特にその時代の基礎が重んじられるので、社交界にでるならばこれらを確実に熟知しておかねばならない。
ソフィーは、ローズが何を知りたいのかを敏感に察した。
「かしこまりました。何冊かありますのでお持ちしますね。現代の服飾についてはどうされますか」
「それも読みたいけれど、あまり多いとソフィーが持ってくるのが大変だから」
「では、ワゴンをとってまいります。少しお時間をちょうだいいいたしますがよろしいですか?」
「構わないわ。ありがとう」
軽く頭をさげて、ソフィーは踵を返した。その後ろ姿を見送って、ローズも歩き始める。自分の部屋とは反対の方向へ。
幸か不幸か、そばに侍るメイドを遠ざける手ならいくらでも知っている。
(ごめんね、ソフィー)
彼女はまさか伯爵令嬢がとんずらするとは思っていないだろう。心の中で謝りながら、ローズは足を早めた。
☆
「レオン様」
ほどなくしてローズは、庭にたたずむレオンの背中を見つけた。声をかけると、ひどく驚いた顔で彼は振り向いた。
「どうした」
「散策です。レオン様は?」
「……散策だ」
「そうですか」
ローズは、レオンの隣にたつと、足元を見下ろす。そこは、きれいに花が咲いている大きな花壇だった。
「きれいですね」
この館には、いくつもの花壇があったが、どれもきちんと手入れをされていて様々な花が植えられていた。
「そう思うか?」
ふいに、確認するようにレオンが聞いた。
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