「エピローグ2」

 ——厄災戦記録書——


 そう書かれた記録書を書いているのはイテグリア・エイカム。あの戦いから一ヶ月。国の復興もかなり落ち着いてきたので、あの戦いの記録をまとめていたところだった。


 ——被害リスト


 ——参戦部隊の四割以上の死者。


「被害は甚大だ……」


 覚悟していたとはいえこうして記録に残しているとその悲惨さを思い知らされる。


 ——前線精鋭被害


 〇コメッタ・ディセイヴァー

 両腕を喪失するも生還。神秘を弾く性質の肉体に魔力による治療痕あり。おそらく魔法ではない別の異能によって何者かに治療されたものと推察される。アレイスター・クロウリーが作成した魔法装具で以て、最初に魔力核の破壊に成功した。また、これ以上の戦闘行為は不能と判断され、第二魔装師団長を引退する。。


 〇リダウテン・ハウリッド

 直接戦闘に参加していなかった故にほぼ無傷にて生還。初撃を防いだものの、そこで魔力を使い果たして戦線を離脱した。現在では今までと変わらず教会にて祈りを捧げている。


 〇キール・ダイタロース

 治療困難な後遺症を足に残しながらも生還。魔力を吸収する特性で以て様々な活躍を見せる。後述のエドガーと協力し、魔力核の破壊に成功した。戦いの後、帰郷し家族とともに平穏な毎日を送っている。


 〇ファイン・アンデ・シュタイン

 持ち前の火力で厄災の子討伐に尽力。厄災獣タナトス討伐にも貢献した。その後、謎の人物と対峙。その最中に視力を喪失する。視力喪失に伴い、第三魔装師団長を引退。その後、帰郷したと言われているが詳細は不明。


 〇マリン・ガブリエラ

 ファインと共に厄災の子討伐に尽力。厄災獣タナトス討伐にも貢献した。その最中、熾天使ガブリエルの力が暴走し、左腕と右目、ガブリエルとの契約を喪失。三週間の療養の後、単身旅に出る。熾天使いでなくなったため魔法協会への定期報告義務は消失。その為その後の足取りは不明。


 〇ミハエル・エドガー

 キールと共に厄災獣タナトスの魔力核破壊に尽力した。消息不明。


 〇ツヴァイス・アンデ・シュタイン

 ファイン、マリンと共に厄災獣タナトス討伐に貢献した。死亡したとの報告もあるが、遺体は未だ確認できず。似たような人物の目撃情報はあるものの双子の妹であるヌルである可能性が高い。


 そして……。


「————————」


 〇ガイナ・クォーノス

 熾天使ガブリエルの暴走と止めて参戦。最後の核破壊を達成した。しかしその後、謎の人物の介入により死亡を確認。遺体は謎の人物が回収しており、現在は消息不明。


 エイカムの数少ない後悔。あの時何故身体を動かすことができなかったのか。勿論呆気に取られていたのもある。満身創痍だったのもある。


 否。否。全て言い訳だ。現にマリンは動けた。ファインだって戦った。


「私は……。彼らにどう顔を合わせればよいというのだ……!」


 テーブルを一度叩く。大きな音が部屋中に響いたが、聞いている者は誰もいないだろう。怒りや後悔は一周回って彼に普段以上の冷静さを与える。自身で書いた記録を読みながら、と感じる。そう、違和感だ。


「前回の厄災戦の後、誰も記録を残さなかったのはおかしい」


 何かしら残すはずだ。何かしら残すはずなのだが欠片もそれらしいものが見当たらない。たかだが百年程度しか経っていないのに記録が一つもない? そんなバカな話があってたまるか。と、なると自然と答えは絞られてくる。不自然な出来事には必ず何者かの意図が挟まれているはずなのだ。なにが言いたいのかというと、つまり——


「何者かが記録を意図して抹消した……?」


 断言はできない。できないが調べてみるだけの価値はありそうだ。空振りならそれでもいい。もし仮に悪意を以て記録を抹消するような者がいたとすれば——


「このイテグリア・エイカムの名において、許してはおけない……!」


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