「act03 氷の中」
一方、はしゃぎすぎて無事溺れてしまいガブリエラに救助されて絶賛氷の中で海中水族館をしているガイナ、キールはうーんと腕を組んで座っていた。
「……結局あれはどっちが勝ったんだ?」
「……旗、見逃して通り過ぎちまったからな」
「…………」
「…………」
「ま、仕方ないな。で、多分俺達はガブリエラのところに強制帰還させられてるわけだけどこの氷、多分壊せるけど脱出するか?」
「んー、おすすめはしねぇかな。俺様達、かなーり深いとこまで連れてかれてるみたいだからここで氷の中から出たら水圧でぺしゃんこ、とは言わないが危険だと思うぜ」
水圧? だかなんだかのことはよくわからないが要するに危ないってことなのはその口ぶりから察することができる。じっとしていることしかできないというのは思いのほか退屈である。まあ、溺れかけた自分達が悪いのだが。
しかし海の中っていうのは不思議なもので山には深くても腰のあたりまでの深さしかない水場しかなかったからこう自由に泳ぐことができる。ようやく底が見えるところまで戻ってきたが溺れかけた時点では底は真っ暗で文字通り底なしといった具合だった。よく見れば海面付近にはあまりいなかった魚もうようよと漂っている。この魚一つとってもガイナにとっては見たことのない種ばかり。
「なあなあ、あの魚他のに比べてでかいけど食えるの?」
「あいつなら確か街に入った時専門店があったような気がする……、から食えるだろ! 晩飯は魚介の店だな」
「焼き魚か。そういえば山から出てから久しく食べてないなー」
「ふっふっ、お前焼き魚しか食ったことねぇな?」
「まさか他にも食べ方が……?」
「あのくらいの魚なら刺身、生でいけるな」
「刺身……だと!? な、生は危ないから焼いて食えって言ってた。親父が!」
「生でも食えるやつは食えるんだよ。山にいるようなのは難しいだろうがここのはそういう喰い方もできる」
流石海、知らない常識をこうも簡単に多くぶつけてくる。そう聞くと周りで優雅に泳いでる魚がめちゃくちゃ美味しそうに見えてくる。
とはいえ、だ。正しい調理をしなければやばい魚もいるらしく、人間の食に対する関心というのはすごいのだなと思った。
だってこの魚は危険だってわかるってことは一度食べて危険な目にあったってことである。それでもどうにかこうにか食べれる方法を模索してようやっと食べることができるようになった。そこまでしてこいつらが美味しそうに見えた先人達に感謝せねば。
こうしている間にも日は落ちてオレンジに染まる。それもそのはずでこの街に来た時間がそもそも昼過ぎだったのだから遊ぶ時間も当然少ない。それでも、少しでも羽を伸ばす時間をくれたのはウリエルの優しさだろう。
「晩飯にはウリエル合流するって言ってたっけ?」
「ラスティーナさんと入れ替わりになるって話だったはずだぜ」
「あの人ともお別れってことかぁ。最初は不気味な感じの人だと思ったけどさ、接してみれば結構良い人だったな」
アレを単純に良い人とカテゴライズしてしまってよいものかと一瞬悩んだキールだったが、頭を振ってその考えを振り切る。
過去を聞かされていないガイナもなんとなくだが彼女が人類にとって良くない存在なのだろうということは察しがついている。それでもこの過ごした一ヶ月、自分達にとっては良い人ではあった。勿論それがラスティーナ・パンジーの全てではないのもわかっているが少なくともガイナ達にとってはそうであった。
「あの人、今楽しんでるかな」
ふと疑問に思った。表情は笑っているのに心から笑ってはいない、この一ヶ月ずっとそんな気がした。まあウリエルの依頼と言ってたぐらいだから仕事感覚、面倒とでも思っていたかもしれないが今くらいは何故か楽しんでほしいと心の底から思ったのである。
「それは、多分大丈夫だろうぜ」
何故か自信ありげなキール。その表情からは清々しさと悲しさが入り混じっているように見えた。
「まさかお前もなのか!?」
「えっ、何がさ?」
「もはや死に設定に片足浸かってる読心魔法を使えるのか!?」
「なんでさ! 大体あんな高等魔法俺様が使えるかっての。一流の魔法使いでも集中しないといけないから戦闘中に使えない上に完全な格下じゃないと心を探れないっていう使い勝手の悪さのせいでこれを使ってんのは性根の腐ってる人間だけとか言われてる人格破綻者チェッカーだぞ! 逆によく知ってたなソレ。周りに使ってた人いたとか? そいつきっとやべぇヤツだから縁切った方がいいぜ」
思い浮かんだのは似た者同士である二人の魔法使い。そうかー、あの二人人格破綻者だったかー。それはわからなかったなー。そんな風には見えないけどなー。
ここにその人格破綻者がいれば袋叩きにあっていたかもしれないと冷や汗。このことはそっと胸にしまっておいて、
「っと、上見てみろよガイナ」
「……? ばっ!?」
急に掘り下げられた読心魔法のことは置いといて、キールに言われるまま上を向いたらいつの間にかに自分達が包まれている氷の上にガブリエラとラスティーナが座っていてぷりちーなお尻が押し付けられる形で丸見えとなっていた。
「いやー、こんなかにずっといて退屈退屈と思ってたけどこんないいもんが見られるなら悪かあねぇな」
「お前心に決めたやつがいたんじゃなかったのかよ……」
「それはそれ、これはこれだから。見てるだけ思うだけならギルティーでもないぜ。流石におっかないあの二人に手を出すわけねぇしな」
これにもまた苦笑いしかできない。
……しかしここからもちらっと見えるが左脇腹にある火傷のような痕。本人は物心ついた時にはあったと言っていたが何かあったのだろうかと今更ながらに考えるようになってきた。ただの火傷なら流石に治っているだろうし、でも本人は気にしてないみたいだし。わからんがあそこがなんとなく気になる。
それはキールも同じだったようで言及こそしないものの尻と痕を交互に見ている……、って!
「あ、あんま見るなー!」
「あ、やっぱり自分以外の男に見られるのは嫌? じゃあ大人しく黒ビキニお姉さんを見とくよ」
それでいいのかキールよ。
そうだ、本人が知らなくてもお兄ちゃんであるウリエルなら何か知っているかもしれない。後で聞いてみよう。
——さっ、散々遊んだ後にはやっぱりおいしい飯を食べないとね。
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