「act05 不自然な蘇生」
秘密の特訓を終えたガイナ、キールの二人はいつまで経ってもウリエルが迎えに来ないことを気にして様子を見に一足先に部屋へと戻ろうと廊下を歩いていた。
「しかしガブリエラの兄ちゃんどこ行ったんだろぉな。ガブリエラもいねぇしわけわかんねぇ」
「確かにスイートハニーがどこにいるのかわからないってのは心配だよな」
「すいーとはにー?」
「それも知らんかったか……。まあい――」
部屋に入ろう扉に手をかけた直前に轟ッ! という爆発音と共に扉も破壊され二人は唐突に襲ってきた衝撃に身構える暇もなく壁へと叩きつけられる。肺から空気が一気に放出されたのと何か燃えたのか一帯の空気が極端に薄くなっておりたまらず胸を叩く。
思いっきり空気を取り込みたいところだがこの異様な熱を帯びた空気の中それを吸い込めば完全に内臓が焼かれてたことだろう。キールは兎も角、ガイナもそれを知っていたのは幼い頃父であるマキナから教わっていたからだった。
「ごほっ、ごほっ……! な、なんの爆発!?」
魔力反応は二つ、ガブリエラと知らない誰かか。
「くっ……! 呼吸が整ったら行くぞ。ウリエルと誰かが戦っているみてぇだ!」
この知らない魔力反応、爆発はウリエルのもの、ということは戦っているのはウリエルとガブリエラということになる。何故この二人が戦っているのか。ガイナにはその理由はわからないがとにかく早く止めなくては。とても嫌な予感がするのだ。
呼吸など整えている余裕はなかった。
起き上がったらなるだけ腰を低くして部屋の中へと侵入したガイナ。そこには既に誰もいない。窓が割れている状況から察するに外へと移動したのか。この高さから落ちて怪我をするような人間達ではないだろうが、嫌な予感とはそれではない。
ウリエルの発する魔力には明確な殺意というものが込められていた。そんなものを実の妹に向けるなぞとんでもない。
それにしても煙で視界がはっきりとしない。これでは外も確認できないではないか。
「くそ、
瞳が反転し、灰色の光を纏う。
「それがお前の魔法。特別、選ばれし者、か……」
一刻も早く外を!
煙の晴れた窓から見下ろすとそこには炎を纏った剣を構えているウリエルと明らかに弱気になっていたガブリエラ。
そして次の瞬間にはガブリエラの首半分を剣が裂いておりそこからなんの抵抗もなくその首はあっさりと飛ばされて――
意味がわからなかった。
目の前の光景を理解できなかった。
ウリエルの振るった剣は確かにガブリエラの首を刎ねていた。
首を。
ガブリエラの。
首が。
刎ね――
「え」
「ああ」
後から追いついたキールもその光景を確かにその瞳に捉えた。
「あが」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
叫びしか無かった。剣を持った男が振り向いた時には人間の顔を捨てた獣の拳が迫っていた。
「はっ」
しかしそれも熾天使いである男には些事であった。
「獣が。いっちょ前に人間もどきの死に吠えるか。キサマにも引導を渡してやろうか、と言っても獣が引導を理解できる道理もないか」
取り回しの悪い剣は今はいらない。今は全身全霊、限界以上の力をもって眼前の仇を殺す!!!!!!
「そこまでだガイナ」
と、止めたのはキール。何故止めるのか! そんな単純な言葉を発する余裕さえガイナには存在しなかった。その程度の言葉で静止するわけがない。できるわけがなかったが。
「わ、ワタシ、生きてる……の?」
聞き覚えのある声に振り向けばそこにいたのは奇妙な体験でもしたかのような、ありえないものでも見たかのような表情になりながら首元をさすっているガブリエラだった。
確かに斬られたはず。
「ま、幻でも見てんのか……。俺も斬られたとこ見たってのにしっかり首が繋がってやがるぜ……」
「……ははっ、実の妹を本気で殺すわけがないだろう。オレ程度の殺気に怯んでしまうようならまだまだだなということを伝えたかったのだ」
……どこまで本心なのかわからない。それほどまでにガブリエラやガイナに向けた圧には明確な殺意を感じたのだ。
「……よくぞ間に合ってくれた」
「あん? なにか言ったか」
「なに、君に言ったわけではないから気にしないでくれたまえ。我が妹は自力で歩ける状態ではないな。キミ達、部屋まで送ってあげてくれ」
「……わかってる」
「はっ、オレへの不信感が拭えないか。それならば尚更明日からの修行もやりやすいというもの。さあ、今日は明日に備えて各々休め」
キールとガイナ(ウリエルを激しく睨んでいる)はガブリエラの脇を抱えて立たせるとそのまま城内へと向かう。
「明日はここから見える大きな山のふもとに集合だ。我が妹は、来ることができたら、でいい」
その声に反応する余裕すら今のガブリエラは持ち合わせていなかった。
「よくぞ間に合ってくれたな」
「一日早い出所だと思ってみれば突然熾天使いサマ達が殺しアイをしてたんだもの。私も混ぜて欲しかったわ」
「キミを殺そうなどと無駄なことはしない。悦ぶだけだろう」
「あら、あんなにアイしあった夜を忘れたのかしら」
「ああでもしなければキミは今でも大人しく捕まってはくれなかっただろう?」
「ふふっ」
「……キミ専用に宿は取ってある。くれぐれも人を襲うなよ」
「それが条件なんだもの。仕方ないわ」
「…………明日から、か」
「妹さんは大丈夫なのかしら。かなり滅入っていたみたい」
「何度でも言うがオレ程度の殺気に怯えるようでは厄災の獣なんぞと戦えるわけがない。こんなところで躓いてしまうようだったならば重症でも負わせて戦えないようにでもするさ」
「ふふっ」
「なんだ」
「優しいのね、と思って」
「心にもないことを」
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