「act02 剣士と魔法使いの場合」
「この先ずっと真っすぐでいいって言ってたけど、信じて大丈夫なんか?」
「その点は心配ないわ。不可思議でムカツクヤツだけれど未来予知にすら匹敵するほどの推察能力、アレで何回もイタイメにあったからね」
「ふーん……」
「……」
沈黙。特に話すこともない。否、話したいことはあるが、アレイスターについて話を広げたくない。何故だかガブリエラが彼の話をすると胸の奥がムズムズしてくる。
……思えばガブリエラのことを自分はあまり知らない。すごい魔法使いであるのと、割と自分中心だがきちんと人のことも思いやれる多少の人間性を持ったボインなお姉さん(の雰囲気を纏った年下)ということは現状でわかっていることだが、過去の話を聞いたことがなかったのだ。今までは長い旅の中でそのうちわかることだろうとゆるりと構えていたが、少しだけ。少しだけ自分の未熟な語彙力では言い表せない感情がふと浮かび上がる。
「……どうしたの。そんな黙りこくってからに」
「うわっ! か、顔ちかっ!?」
物思いに耽っていたガイナは彼女の顔が接近していたことに気付かずに前に進んでいて危うく顔同士がぶつかってしまうところで驚きすっ転んでしまう。
悪戯っぽく、年相応に笑うガブリエラの顔を見て惚けていると不思議そうに顔を傾けている。
……そうか。いつもならば読心魔法を以て余裕を演出して大人ぶっているところだが残念かな、現在は魔法を使用できない状況にある。それさえなければ見た様子は普通の年頃の女の子に見えることが発見できた。大変な状況ではあるが、何故だか嬉しかった。
今ならば対等に話せる、ということか。ならば――
「どのみち先は長くなろうから話を聞かせてくれんか。ガブリエラの話を、聞かせてくれ」
「えっ……。ま、まあいいけれど? そんなに楽しい話じゃあないわよ」
「いい。俺はお前のことが知りたいんだ」
「……なんかいつになくアプローチが積極的ね。まあいいわ、どこから聞きたいの?」
「生まれから」
「そんなに?」
「あぁ、頼む」
「…………なんか変なアナタ。――ワタシは知っての通り、優秀な魔法使い一家、ブリテンウィッカ家の末っ子長女として生まれたわ。父、アルタイルと母はベガ、兄のユゥサーとワタシの四人家族よ。両親ともに優秀な魔法使いではあったけれど、兄さんは特に秀でた魔法使いで今は熾天使いの一人、『
「へぇ。ってことはガブリエラよりも強いってことだよな。実はお前、そんな強くないとか?」
「バカね。現代魔法史においては間違いなく五本指に入るほどの魔法使いだという自負があるわ。実際魔力量に至っては他の熾天使いを抜いて記録上ここ百年で一位よ。それはそれは本当に凄い魔法使いなの。ただ歳がいくらか若いからまだ経験が浅いだけさな」
「じゃあ、俺と同じ発展途上だな」
「違いはないわね。……なに笑ってるのよ」
「いいや別に? 続きを頼む」
「むぅ……。ブリテンウィッカ家では代々三歳になるときに魔法判定が行われるわ」
「魔法判定?」
「魔法を使えって話ではなくて、単純にその子がどういった属性魔法に才能があるのかを測る儀式みたいなものがあるの。それをした結果、ワタシに一番適しているのは火属性だった」
「なんだって? 火が一番適しているのに今は氷、ていうか水を使ってるのか。魔法のことまだ詳しくわかってるわけじゃないけど、それってとても損してないか?」
「ま、そうね。ただ兄さんも火属性に適正があってね。どうしても被りたくなくて強引に対極にある水を習得したってわけ」
「どうやら昔から我が強かったらしいことは推察できたぞ。でもそんなに被るの嫌か? 二人で火を極めるというわけにもいかんのか」
「……兄もかなり優秀な魔法使いだったからね。ただでさえ比べられるのに同じ分野にいたらなおのことでしょう。それだけはどうしても嫌だったの」
「コンプレックス、ってやつか。お前も人並みに悩んでたんだな」
「なんかムカツクわね。それにアナタ! いい加減お前呼びはやめてくれないかしら。どうしても上から目線な印象を受けるわ」
「上から目線なのはどっちさ! いいだろう、なら二人とも名前で呼び合おう! これで対等、文句ねぇな?」
「えぇ、上等よ! ……はぇ?」
「? 何か問題で――」
「っ……、なーいないないないない! 上等、これからガイナと呼ぶわね!」
「俺はガブリエラだな!」
「おぅけぃよ! どんとこいよっ!」
「じゃあガブリエラ!」
「ひゃいっ!?」
「続きを頼むぜ!」
「ま、任せなさいな! ちゃんとありがたく聞いておくのよあな――ガイナ!」
「お、おう! しゃあ来い!」
「次はワタシが五歳の頃の話をするわね」
――ふむ、やや少し緊張感に欠けるね。
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