第三幕「狂犬は夜に吠える」

「act01 気配」

「ウルティーナ村、ここで合ってるわね」


 ガイナ達四人は協会からの依頼であるウルティーナ村の裏山調査を行う為、村に到着したところなのだが。


「人はいるが活気がねぇな」

「少しだけ血の臭いがする」

「それにさっきから見られているような感じがしますよ……」


 活気というより死気、静観というより閑散とした雰囲気を纏う不思議というより不気味な村に入った一行は警戒というより奇怪な視線に不快さを隠さずにはいられなかった。


 とりあえず、と近くにいた老人に話しかけてはみたものの返答なし。これでは生きているのか死んでいるのかもわからない。しびれをきらしたガブリエラが読心術を使うも思考が真っ白なのか何も言葉が浮かんでこないのだ。


不審に思ったガヴリエラは手あたり次第に読心術を試みるも誰からも何の情報も得られなかった。


「何かあったか?」


 エドガーの問いにありえない、と首を横に振るガブリエラ。


 だって人間は生きていれば何かしら頭の中に何か考えが入っているものなのだ。死人のように絶望した人でも植物状態の人間にだって思考というものが存在しているというのにこれはなんだ。誰一人として思考というものを持ち合わせていない。


 ——これは生きていると言っていいの……?


 と、そこでここまでの流れで一つガブリエラが引っかかることがあった。


「ツヴァイス・アンデ・シュタイン、アナタの勘を信じて聞くわね。さっきと言ったのよね。それどっちの方向から視線があったかわかる?」


 見られている気がするという素人の勘程度の根拠だが、素人の勘、というのが意外とばかにできない。危険地帯に向かうのがこれで初めてというこの娘は生きるため無意識的に少しの違和感もひろってしまうのだ。慣れているものにとっては気にする程でもない些細な違和感でさえ拾う。


「えっと、多分あっちのほうです」


 指さした先、遠くのほうだが他の家とは明らかに様子の違う建物が存在していた。


 そう、明らかに様子が違うのに気づかなかった。おそらく魔法で認識をずらしていたのだろう。それでも素人の勘はそれを見逃すことができなかった。


「連れてきて正解だったわね」


 キョトンとしているツヴァイスの肩に手を置いたのはガイナ――ではなく初老の男性だった。


「な、なにィ~~~ッ!? ま、全く気配に気付けなかった!? 誰なんだァ~~、このおやじはよォ~~~~~!?」

「……こほん、わしはこの村で村長をしている者です。あなた方は旅のお方かな?」

「えぇそうよ、


 この男性も思考が読めない。なんなのこの人たちは……。


「おう、あの建物はなんだ? 明らかに他の建造物と様子が違ぇが」

「あそこは研究所でございます」

「研究所?」

「なんの研究をしていたかまではわからないのですが、ある時爆発が起きてそれからその周辺は黒く濁り、村の人間から活気がなくなってしまったのです」


 言われてみれば黒い霧でもあるのか視界が異様に暗い。よく見れば山のなど地表面があまり見えないほど黒い霧で覆われているではないか。


 ——言われてみれば、こんな大きくわかりやすい違和感になぜ気が付かなかったのか。何から何まで認識が阻害されているようだ。


「なるほど、だからこその調査ね。気付いてて言わなかったのねあのクソジジイ共。いつか絶対痛い目に合わせてやる」

「まさかあなた方はこの村の調査に?」

「厳密に言えばあの山の調査なのだけれどね」

「でしたらなおあの研究所は通るべきだ。あそこから山へと繋がる道があります」

「ご親切にどうも。ではワタシ達はこれで行くわね。ありがとう

「……あなた達の道行きに光があらんことを」


 それだけ言うとガブリエラはさっさと研究所の方へと歩いていく。


 あの男性が見えなくなってから話し始めたのはガイナ。


「研究、って何をしてたんだろうな」

「さぁ。そのうちわかることでしょう」

「行ってみりゃあわかるさ。嬢ちゃんは何が出ると思う? 蛇? 鬼?」

「え、えぇ!? 鬼か蛇の二択なんですか?」

「これはたとえなんだが……、まあいいか! いざ危険地帯へ、ってな!」


 一行は視界の悪い中、研究所へと入っていったのだった――




「さて、お手並み拝見ってなァ」

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