第207話 ダンジョンへ


 目が覚める。


 ちょうど入れ替わるようにして、僕は目を覚ました。といっても今の僕はそれほど睡眠を必要としないので、一時間程度の休息で十分だった。


「ユリア。起きた?」

「うん。何かあった?」

「ううん。別に何もなかったわよ」

「そっか。それなからよかった」


 そう言いながら僕はぐっと体を伸ばす。今日はもう少し奥に進もうという話になっていたので、改めて準備を始める。手持ちの持ち物を確認して、自分の体調を確認する。


 うん。どうやら魔素の通りも悪くないようだし、大丈夫だ。


「じゃ、行きましょうか」

「そうだね」


 そうして僕ら二人は、黄昏の光に包まれながら先に進んでいくのだった。



「魔素が濃い……というよりもこれは地下に続いているね」

「ダンジョンの類かしら?」

「だろうね」

「行ってみる?」

「……」


 手を顎に当てて思考してみる。ここから先のダンジョンは僕は全く知らないものだ。おそらくは黄昏を放浪している時には気がつかなかったものだろう。しかし、黄昏危険区域レベル5以上のダンジョンとなればかなりの難易度になる。


 僕はあの放浪時代は逃げている時の方が多かったので、ダンジョンの存在は自体は知っているがその内部構造まで知らない。


 でもだからこそ、ここは行ってみるべきだと思った。調査するにしても、ダンジョンの内部構造くらいは知っておいた方がいいだろう。


「行こう」

「分かったわ」


 シェリーはすぐに了承してくれた。その瞳は確かな覚悟がやって来た。伊達に僕らはこの黄昏に立った二人でやって来てはいない。僕たちの一歩一歩は確かに。人類のためになっている。


 そう信じながら僕らは先に進んでいくのだった。


「暗いわね」

「うん。それになんだか湿度が高い」

「えぇ」


 僕を先頭にして、ダンジョンの内部に入る。わずかに魔法で灯しながら、二人で進むがギュッと僕の袖を掴んでくるシェリー。


「ねぇ、シェリー」

「ど、どうかしたの?」

「その。進み難いんだけど……」

「あれよ! 離れたら危ないでしょっ!」

「そうだけど、僕の袖を掴む必要はなくない?」

「う……ま、まぁそうね……」


 と、そういうとしゅんとした表情をしてパッと手を離す。なんだか名残惜しそうな感じがしているけど、何かあったのだろうか……いやもしかして?


「もしかして怖いとか?」

「べ、別に怖くないわよっ! 暗いところが苦手とか、そういうわけじゃないからっ!」

「……」


 なるほど。どうやらシェリーは暗いところが苦手なようだ。なら僕がすべきことは……。


「じゃあ、はい」

「え?」

「手を握っていよう。だったら怖くないでしょ?」

「そ、それはそうだけど……」


 手を差し出す。身動きを取るのは少し難しくなるけど、進むだけなら手を繋いでいても問題はないだろう。


「じゃその……ありがとう」


 恥ずかしそうにしながらも、手をぎゅっと握りしめる。そうして僕ら二人はさらに奥へと進んでいくのだった。

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