第205話 黄昏へ向かう


 あれから準備を終えた僕たちは黄昏へと向かうことになった。前回とは異なり、今回はさらに深いところまで行く予定だ。ギルさんは他の任務と重なっているため、今回は同行しない。


 僕とシェリーだけでこの任務はこなす必要がある。


「ユリア。ごめん、ちょっと時間がかかって」

「いや。僕も今来たところだから」


 基地の東にある門の前で僕とシェリーは待ち合わせをしていた。早朝誤字に集合するということで、周囲には微かに黄昏の光が漏れ始めていた。


 シェリーは朝がそれほど強くないので、ギリギリでの到着んあったがしっかりと時間内に来たので僕としても指摘することはない。


 軽く息を切らしているので、彼女はそれを整える。


「ふぅ。よし、行きましょうか」

「うん。それにしても、寝坊したの?」

「う……い、いや。ちゃんと起きたのよ? でもどうしても眠気が襲ってきて二度寝しちゃって……」

「よく間に合ったね」

「ふふふ! それを見越して、準備はバッチリとしておいたのよ! すごいでしょ!?」

「いや……誇るところはそこなの?」


 と、胸を張ってなぜか自慢気に語り始めるシェリー。なんだかこんなやりとりも、妙に懐かしい気がして僕も微かに笑みを浮かべる。


「さて、と。今回の任務はちょっと大変そうね」

「そうだね。人類未到達領域の調査になるから、結構大変だと思うけど」

「でもユリアは一度行っているでしょ?」

「うーん。といっても僕の場合は適当に歩いていただけだから、なんとも。今回向かう場所も僕が行ったことのないところかな」

「へぇ。思えば、ユリアが黄昏にいた二年間の話は詳しく聞いたことないわね」


 確かに僕は自分が黄昏にいたときのことをあまり話していはいない。報告書にはまとめているが、それも書面上での話だ。


「……そうだね。僕の場合は、あの時は無我夢中だったから記憶がしっかりと覚えてるわけじゃないんだ。ただ地形や魔物の情報は覚えているけど……行ったことない場所は僕でも分からないから、要注意だね」

「そうね。ユリア頼ってばかりじゃだめね。私もしっかりとしないと」


 よし、と声を漏らしてグッと拳を握る。そんなシェリーの様子を見て、なんだか可愛らしいなぁと思ってしまう。


「なんだかやる気だね」

「そ、それはだって……まぁ、ユリアと二人きりだし……!」

「ん? 僕と二人だとやる気が出るの?」

「べ、別にそのことはいいのよ! とりあえず私は頑張るからっ!」


 金色の髪から覗く頬が微かに赤くなっているような気がした。


 そうして僕たちは黄昏危険区域レベル5の先へと進んでいくのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る