第203話 進む二人
「お二人に集まってもらったのは、他でもありません。新しい任務についてです」
僕とシェリーはリアーヌ王女に呼び出されていた。もともと、この場に来る前から新しい任務の話であることは分かっていた。そして、彼女は金色に輝く髪の毛を後ろに流しながら、こちらに資料を渡してきた。
「こちらが詳しい資料になります。前回、ギルも含めて三人で偵察に行ってもらいましたが今回は二人でより詳しい調査をしてもらいます」
目を通す。その資料には詳しい任務の内容が書いてあった。といっても複雑な内容ではなく、シンプルに今回も調査がメインになっている。しかし前回とは違って、かなり深いところまでいくようだ。
その偵察の範囲は黄昏危険区域レベル7まで入っているからだ。
レベル7か……と考える。僕は確かに、放浪時代にレベル10まで経験している。しかしそれからすでに時間はある程度経過している。僕の経験が全て同じように通用するとは限らない。
だからこその少数精鋭ということだろうか。人選はともかく、まずはこの任務を果たすことだけを考えるべきだろう。
「ひとつ質問よろしいでしょうか」
シェリーの凛とした声が室内に響く。それに対してリアーヌ王女は「どうぞ」と言って返答を促す。
「仮に魔人と接敵した時は、殺しても?」
それはおそらく、ベルさんを殺した魔人のことを言っているのだろう。その問いに関して、彼女は冷静に答える。
「殺せるのなら、構いませんが……今回の目的は以前と同じで偵察がメインです。あまり無理をしてもらっては困ります」
「そう……ですか。了解いたしました」
と、言葉にはしているが納得しているようではなかった。少し落ち込んでいるように思えるシェリーだが、リアーヌ王女は思いがけないことを口にした。
「しかし──あの魔人と戦う舞台は用意したいと思っています」
「……それは、本当でしょうか?」
「はい。最近、大きな魔力を保有している生物が黄昏危険区域レベル7にいることが確認されました。魔物かもしれませんが、魔人の可能性もあります。シェリーさんの舞台はこちらでしっかりと整えますので」
「ありがとうございます……本当に、感謝しかありません」
深く、とても深く頭を下げる。それはきっと、本当に心から思っている違いない。僕とは違って、二人はベルさんと深く接してきた。だからこそ通じるものが二人にはあるのだろう。
「それでは出発は来週になります。お二人とも、準備はしっかりとしていてください」
「分かりました」
「はい」
そうして僕らは会議室を去っていく。その際に、シェリーがボソリと呟いた。
「思ったけどユリアと二人なのよね?」
「まあそうだね。色々とよろしく」
「は、はぁ……!? 色々とよろしく!?」
「え、何かおかしいこと言ったかな?」
そういうとシェリーは落ち着いたのか、こほんと咳払いをする。
「う、ううん。何でもないのよ! じゃ、また来週ね!」
まるで逃げていくようにシェリはこの場から去ってしまった。一体何があったのかよく分からないけど、僕も時間がるとはいえ早く準備をすべきだ。そう思って、僕もまた歩みを進めるのだった。
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