第174話 謁見


 一際大きな建物。その建築物は木造であるが、しっかりと造りであるのは人目で分かった。


 僕たちは女王との謁見を前に、一度その場で待機するように言われたのだ。


 キャサリンが中に入り、彼女が戻ってくるのを待っている最中だが……僕は依然として悪寒のようなもの感じる。というよりも、後ろをチラッとみると視線が突き刺さる。


 この場にいるサキュバスの方々が僕だけに注視しているのだ。


 早く、早く中に入りたい……そう思っていると神妙な面持ちでキャサリンが出てきた。


「入ってもいいわよ。ただし、私は付き添いはしないから。三人で入って」

「分かりました」


 リアーヌ王女が代表してそういうと、彼女を先頭にして僕らは室内へと進んでいく。内装は派手なものはなく、至って質素だった。そして奥の方へと進むと、そこには一人の女性が座っていた。


 座敷にただ一人妖艶な雰囲気を纏って座っている女性。それこそが、かのサキュバスを統べる女王であるとすぐに分かった。


 透き通るような金色の髪に、それと同様にまるで宝石でも嵌め込まれたかのような碧色をした双眸。人目見て、僕はその美しさに心を奪われていた。


 と、その瞬間僕は体が一気に熱くなるのを感じるが……それが魔法的なものが要因だと察するとそれを跳ね返して対処した。


「ふむ……人間の中でもかなりの上位のやつを連れてきたか」


 静謐な雰囲気の中、女王はそう言った。


「お座りください。人間のお三方」

「失礼します」


 リアーヌ王女が率先して前に出ると、その左右に並ぶようにして僕と先輩もその場に正座をする。


「さて、まずは自己紹介を──」


 まずはリアーヌ王女から、次に先輩、最後に僕という順番で挨拶を交わす。すると女王は不適に微笑みながら、こう告げた。


「私はサキュバスの女王である、サンドラと申す。さて、人間たちよどうしてこの国にやってきた?」


 見定めるようにして、僕ら三人を射抜いてくる彼女は持っている扇子をパッと広げるとそう質問を投げかけてきた。


「単刀直入にお伺いします。人間に対して敵対の意志はあるのでしょうか?」

「ある、と言ったらどうする?」

「敵対するのであれば、戦いは辞さないですが……そうしないと私は確信しています」

「ほぅ……リアーヌとやら、どうしてそう思う?」

「サキュバスはその特性からして、男性が必要です。繁殖のために人間の男性は重要では? 実際にここにきて思ったのは、数が少ない……という印象です」

「……人間の男を差し出すというのか?」

「条件次第です」

「ふむリアーヌ、お主のことは気に入った。聡いものは嫌いではないからの。カッ、カッ、カッ」


 歯を見せて笑う女王はやはり僕はどこか恐ろしかった。


 そしてリアーヌ王女から視線を外すと、次は僕の方を見てきた。


「ふむ。お主、ユリアといったな」

「はい。サンドラ女王」

「脱げ」

「え?」

「いいから脱げと言っておる。早くしろ」


 僕がどうしていいのかとオロオロとしていると、先輩がその会話に割り込んでくる。


「お言葉ですが、どうしてその必要が?」

「……子どもは黙っておれ」


 プチン、と何かが切れるような音がしたが先輩はグッと堪えたのか……切れることはなかった。


 こうして不穏な空気の中、謁見は続くのだった。


 

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