146話 最後の魔法

 そこはただ真っ白な空間だった。


「ここは——」


「ここはあなたの心の中ですよ。勇者トオル」


 ふと後ろを振り返ると、そこには優しげな視線を向ける一人の女性がいた。


「あなたは……?」


「私はあなた達にスキルを渡した神ですよ。勇者トオル。魔王を倒し、世界の存亡を救っていただき、本当にありがとうございました」


「でも俺は……っ!!」


 無意識の内に俺は手を強く握りしめていた。

 それを神様は俺の手を触り、解く。


「あなたは自分が人々を救えなかった事を悔やんでいるのですね……」


「……」


 神様の温もりに、固まっていたモノがどんどん溶かされていく。


「あなたが望むのならば、皆様を生き返らせる事は——可能です」


「っ!?」


 神様はそう断言した。


「だけどそれは大変な危険を伴います。あなたは必ず無事では済まないでしょう。それでも世界の人々の為に自分の命を投げ出す覚悟はありますか?」


「……俺の命で皆が助かるんだったら喜んでやるよ」


「……そうですか」


 俺が即答すると、初めて神様の表情が曇る。


「これが俺の贖罪なんだと思ってる。力を得て、そこから皆を置いて修行で鍛えたつもりだった。それでも俺は誰一人も救うことが出来なかった……。だから俺の命が果てようとも俺には皆の命を助ける義務がある」


「やはり……こうなる運命なのですね……」


 神様はまるでこうなる事がわかっていたかのように俺を見る。


「では、あなたに最後の魔法を授けましょう。——皆様を頼みます」


「任せてくれ」


 俺はそう神様に言う。


「では、〈思念伝達〉」


 神様がスキルを唱えると、俺の頭の中に色々な情報が入り込んできた。


 時間魔法〈リワインド〉。時間に直接作用して、時を己が望む方へ巻き戻すものだ。対象を選択することが出来るが、代償として発動者の命を奪うもの。

 そう送られてきた情報には書かれていた。


「これなら……ありがとうございます」


「何も出来ない私を許してください……あなたに幸があらんことを」


「じゃあ行ってきます」


 そう言い、白い空間から俺の意識は現実に戻った。


「……やるか」


 俺は魔法陣を組み始める。

 複雑怪奇なそれは、チートな俺でも組むのにはそれなりの時間がかかった。


 そして術は完成し、最後の魔法が放たれる。


「最終魔法〈リワインド〉——ッ!」


 その瞬間、世界が極光に包まれた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る