129話 身分を偽る

「……ん?もう夜か……」


 俺は体を起こし、周りが暗いことを確認した。


「まだ8時ぐらいだし、飯でも食べに行くか」


 俺は部屋から出て食堂へと移動する。

 ……と思ったら、部屋を出る手前にメイドさんが入ってきた。


「失礼します」


「はい、何ですか?」


「女王陛下がお待ちです。付いてきてください」


 クール系メイドさんに俺は女王様の所まで案内されることになった。

 ……俺まだ飯食べてないんだけど……?

 まあそこまで腹が減ってるわけでもないし、別にいいんだが。


「失礼します」


 5分経ち、俺とメイドさんは執務室へと到着し、メイドさんがノックをする。


「どうぞ」


 中から女王様の声が聞こえたという事で俺は中へ入った。


「お久しぶりです。トオルさん」


「そこまで久しぶりってわけじゃないけど。それで何か用があるのか?」


「帝国の勇者様の話、聞きましたよ?」


「ああ、奏音たちのことね。別にいいでしょ?俺の知り合いだし、実力は俺が保証するし」


「はい。その事に関しては私が許可を下ろしています。問題は学園の方なんですが……」


 ……まあ学園側も勝手に編入させたら貴族からの反発が激しいと思うんだよなぁ。

 まだ他国の勇者ならともかく、帝国の勇者っていう肩書きが重い。

 ……今度、ギルバートが奏音たちの召喚者ということにしておこうかな?


「やっぱり帝国の勇者を入れるのは面子的にも難しいか?」


「そうですね……先日あのような事があったばかりですから歓迎はされないでしょうね」


「だよなぁ……」


 これまた厄介なところに召喚されたよな。

 絶対他の国だったらこんな面倒くさい事になることは無かった!


「身分は偽れるけど、その後が辛そう」


「それも学園に入るとなれば尚更ですよね」


 学園に入れば人と関わる機会が増える。

 その時に異世界人である奏音たちは思い出話などそう易々と話せるものじゃない。


「うーん……どうしたものか」


「諦めてもらうわけには……」


「俺が言えば納得はするかもしれないけど……まず間違いなくゴネるな」


 特に奏音は。天谷も楽しみにしてたっぽいから入れてやりたいんだけどなぁ。


「じゃあタルサ王国さんに頼んでみますか?」


 俺と同じこと考えてたっすね。

 ……やっぱりそれが一番得策かな。ギルバートなら断ることはないだろう。

 一応コッチには切り札がある。


「じゃあそうするか。俺が明日タルサ王国まで連れて行くから、理事長に話通しておいて。ゴネたらみんなに秘密をバラすって言っておいて」


「?分かりました」


 秘密が気になったのか、頭に一瞬ハテナマークを浮かべた女王様。


「じゃあそういうことで。俺はまだ飯食べてないんで」


「それは失礼しました。お忙しいところにこちらまでお越し下さってありがとうございます」


「……それって最初に言うもんじゃない?」


「そうですか?」


 まあいいや。流石に腹が減ってきたからな。俺は食堂に行きたい!

 転移を使うのは気が引けたので、俺はしっかり徒歩で向かう事にしたのだった。

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