全スキル保持者の自由気ままな生活

78話 昼休憩

　一足早く外へ出た俺は昼飯を食べるために控室に戻っていた。

「お疲れ」

「おう」

　そこにはミサタがいた。

「ミサタは大血闘だったよな？」

「そうだね」

「じゃあ午後からは頑張れよ」

「トオルはもっと頑張らないといけないけどね」

「……そう言われるとモチベが下がるんですけど……」

「あ、ごめん……！なんか気に触ること言った？」

「いや、大丈夫だ。それより飯を食おうぜ」

「そうだね。早く取っておかないと、後になって結構みんな来るからね」

「そうなのか？」

「トオルは客が埋まっている観客席と、冷房が効いているこの部屋だったらどっちを取る？」

「そりゃもちろんこの部屋だな」

「そういうこと」

　なるほどねぇ……。

　ていうかみんなどこらへんで見てたんだ？

　俺、ずっと出てたから一度もそういう感じで見ることがなかったんだが……。

「みんなならクラスごとに仕切られている観客席から見ているよ」

「そうか……」

　……ってちょっと待ていっ！

　なぜ俺が考えていることがわかったんだ！？

「トオルってよく顔にでるよね」

　くそっ！！

　やっぱり俺にはポーカーフェイスとか無理なのか！

「はぁ……もうそれは半ば諦めてると言ってもいいから、別に何とも思ってないんだけども……」

　なんかそう言っていると虚しくなってきたな……。

「じゃあご飯食べよう」

「…….そうだな」

　俺はアイテムボックスからエルが作ってくれた弁当を取り出す。

「……いつもいつもすごいお弁当だね。誰が作ってくれるの？」

「基本はエル……って言ってもわからないか、俺の家族だ」

「あれ？でもトオルって勇者で異世界から来たんでしょ？なら……」

「いいんだよ。もうそんな感じだからな」

「……ごめん」

「何で謝るんだよ……」

　そしてお互い気まずくなる。

　俺たちは無言のまま食べ進める。

「あれ？二人があまり喋らないなんて珍しいこともあるもんだな」

「「ライオス……」」

　空気を読まずにライオスが乱入してくる。

　……俺は気にしてないんだけど、ミサタがああだからなぁ……。

　普通に話せるのがいつになることやら……。

「む。どうやらミサタは師匠の地雷を踏み抜いたらしいな」

「ぐっ……」

　流石だ……。

　状況判断力が優れている。

　まさにその通りだ。

「……師匠。コイツを許してやってくれないか？」

「……ていうか俺そもそもで怒ってないんだけど？」

「そういうことだ。勝手にお前が責任を感じているだけだとさ」

　おいおいっ！？

　俺そこまで言ってないんですけど！！

「分かった……。悪かった、トオル」

「あ、ああ。こっちこそ何か勘違いさせたな……」

「じゃあご飯を食べようか」

「そうだな」

　ライオスは弁当箱を取り出し、俺たちは食べることを再開する。

「そう言えばライオスって弁当なのか？」

　意外だな……。

「俺も出来るんだけど……姉さんが自分がやる！って言って聞かなくて……」

「そうなのか？」

「姉さんはアレでも王国魔術師のエースとも呼べる人だからな」

「へぇー」

　そんな人がライオスの姉だったんだな……。

「……そ、それってもしかしてアリス＝アーストル様っ！？」

「何だよ柄でもないこと言って」

　ていうか様って何？

「と、トオルっ！！！お前はアリス様を知らないのかぁぁぁぁああああっ！！」

　あ、壊れた。

　あのミサタとは思えない態度や言動だな。

「アリス様は史上最年少で王宮魔導士として認められ、あのレオンハルト＝バーナードに並ぶほどの実力を持ち、ファッション雑誌に出れば売り上げが10倍以上になるほどの天性の美貌を持つのだぞ！！！」

　やばい……。

　真面目に言ってミサタが壊れた……。

　ていうかレオンと同程度だったらライオスとミサタなら勝てるんじゃね？

　それ言ったらお終いなんだけどな。

「……あんまり弟の目の前で姉を褒め称えるのはやめてくれるか？見ていてなんだが恥ずかしいから」

「そういえば……ライオスはアリス様の弟なのか！？」

「いや、だからそう言ってるだろ」

「くっ……なんとも羨ましい！それでアリス様の日常生活を伺っても？！」

「別にいいが……特に何もないぞ？……強いて言うなら俺にとても構ってくる」

「それは羨ま……けしからんっ！！」

　今絶対に羨ましいって言おうとしただろ。

　……これはもうダメかもな。

「そんなことよりさっさとご飯食べようか」

「そ、そんなことっなんだ！お前は俺に喧嘩を売っているのか！？」

「いや、別にそうは言ってないけど……」

「うるせぇぇぇぇぇぇぇえ！！アリス様をそんなこと扱いする奴とは全面戦争じゃあぁぁぁぁぁぁああっ！！！」

「うるせぇ！」

　流石にライオスはキレたのか、ミサタに向かって全力で拳を叩き込んだ。

「ぐへっ」

　特に防御もしていなかったミサタは綺麗に吹っ飛んでいった。

「おいおい。これはやりすぎじゃないか？」

「すいません師匠。今、騒音の原因を排除しますので」

　……ライオスも大変だな……。

　ミサタのような熱狂的信者がいるアイドルのような姉の弟とは……。

　俺なら絶対に嫌になるね。

「じゃあ食べようか」

「排除を……」

「別にいいよ。アイツはアレでも慕われる人間になる」

「……俺にはそう見えませんが……」

「大丈夫だ。……俺もさっきのを見て同じことを言い続けられる自信がない……」

「……そうですね」

「というわけだ。放っておこう」

「了解です」

　そしてミサタのせいで中断された食事を再開した。

「お姉さんとは仲がいいのか？」

「いいというか……なんか日頃からベタベタされてますね」

「それは……」

　典型的なブラザーコンプレックスというやつですな。

「でも姉さんにはいつも頭が上がらないんですよ」

「へぇ、例えばどんなことしてもらったんだ？」

「あれは俺がまだ魔力を扱えていなかった頃ーー」

　ライオスは一度優秀な姉と間違えられて、攫われたことがあり、それを助けてくれたのがお姉さんで、ライオスにとって姉はヒーローなのだとか。

　だから頭が上がらないんだと。

「良い話だ……」

「でしょ？姉さんは今でも俺の誇りです」

　良いこと言うなぁ……。

　俺には妹に守ってもらうことなんてなかったからなぁ……。

　どっちかと言うと俺を守ってくれたのは楓の方だけどな。

「師匠は家族いるんですか？」

「ああ……。何故か帝国に勇者として召喚されていたらしいんだけどな」

「えっ！？」

「あれ？知らなかったのか？あそこの勇者の名前は金山 奏音と天谷和樹って名前なんだけど……」

「あそこの帝国は秘密主義だからあんまり情報が流れてこないんだよ……」

「なるほどなぁ……」

　連合で話を聞いていた感じ、あそこの帝国の皇帝はバカらしいからな。

　いや、普通最高到達をしたのが勇者だからってそんなに威張らないだろ。

「それならダンジョンって何人でクリアしたんですか？」

「4人だな。俺に勇者2人にエルの。……まあ実力的に後半はほとんど俺が戦っていたんだけどな……」

「それって……」

「寄生プレイとも言えるが、俺はそれでもいいんだ。知らない奴だったら許さないけど、妹とその友達だ。守るのが兄として当然なことだと俺は思うから」

「……やっぱり師匠には敵わないですね」

「ふっ。今更何言ってるんだ？そんなのはとうの昔に運命づけられているんだ！」

「師匠ってたまに子供っぽいところありますよね」

「そりゃあな」

　俺の精神年齢って絶対本当の年齢よりも下だもん。

「それでは第五種目に出場する生徒は闘技場まで集まってください！」

　アナウンスが流れ、出場者の招集を命じた。

「そろそろ行かないとな」

「頑張ってくださいね、師匠」

「おう。Sクラスには負けられないからな」

　俺はライオスと別れ、闘技場へと向かった。