68話 人滅魔法
みんなの面談が終わった後、俺たちはテントの前に集まっていた。
「はい!静粛に!今から3日は俺が指摘した問題点を無くせるように頑張ってほしい!じゃあ独自で自主練始め!」
俺はみんなの問題をゆっくり解決できるようにあらかじめ時間はとってある。
3日でも短いと思ったんだが、時間の都合上3日が精一杯だった。
「あ、あとミサタは俺についてくるように」
ミサタははっきりいってもう短所は無いからな。
後はレベリングして強くなるだけでいいだろう。
「分かった!」
ミサタは元気よく俺についてきた。
このダンジョン、正確にはこの100階層はファフニール以外のモンスターは出現しない。
だからいちいち俺がみんなの安全を見なくてもいいというわけだ。
しかもどれだけ暴れても傷一つつくことはない。
まさに訓練場の理想とも言える場所だ。
「これから何をするんだ?」
「まぁ、とりあえず今日はレクリエーションとして俺と戦ってもらうか」
今からレベリングでもいいんだけど、上には上がいるということを前から知っていた方がミサタのためにもなるしな。
「えっ!?トオルと戦うのか?」
「当たり前だろ。ていうか他に誰がいるんだ?」
「いや……そうなんだけど……」
「そんなに俺と戦いたくないのか?」
「それは……実力差がはっきりしすぎてるから勝負にならないぞ……」
「確かにそうだな。だが、格上との戦いは後になって確実に必要になってくる」
「……うん。分かった!」
理解してくれたようだ。
俺としてもここいらで今のミサタの全力を見ておきたいからな。
「じゃあ、…行くぞ!」
俺は短い間をとって、一気にミサタに攻めかかる。
「はぁっ!」
ミサタは手を横に一閃する。
何をするのかと思ったら手の振った方向の先、つまり俺の端から端が突如爆発したのだ。
(なるほど……これが天魔法か。思ったより強いな……)
手で一閃してこの破壊力。
これから先、もっとレベルが上がって更に大技を出せるようになったら俺は止められるのかな?
まあ、今のこの爆発は痛くないんだけどな。
俺は物ともせず、ミサタに詰めかかる。
「煉獄拳!」
俺は右手に魔力を集中させて、ミサタに向けて放った。
もちろん、オジルとやった時のようなほぼ全力なパワーじゃない。
ちゃんと手加減している。
「くっ……!!」
ミサタは腕にくらった拳の衝撃に耐えきれずに後ろに飛んだ。
「へぇ……やるじゃん」
ミサタは何の魔法か知らないが、俺の煉獄拳の煉獄を消し、奥に結界のようなものを張って極力のパワーを殺したのだ。
そのおかげで俺の攻撃を防げたのである。
(戦闘で頭は回るようだな)
この方法を即座に取れる判断力があるのなら指揮官にも向いているかもな。
「これは……キツイ」
「まだまだだが、センスはいいな。よし、じゃあもうちょっと早く行くぞ!」
俺はさっきより更にスピードを上げる。
ミサタに向かって容赦のない攻撃を繰り返していった。
「くっ……うっ……」
数を重ねるごとに耐えきれなくなっている。
そのせいかミサタが耐えきれずにだんだん鈍くなっていった。
そして勝負が決まる。
ミサタが倒れこみ、俺が顔面に拳を寸止めさせた。
「大丈夫か?」
「はぁはぁ……。何の……!!」
そこでミサタは呪文の詠唱に入った。
「〈神よ神よ。この者に鉄槌を下したまえ。祖は全ての創造主であり、創造主に抗いし者に神罰あれ。全てを灰燼にかさん!〉」
そうしてミサタの天魔法の詠唱が終わる。
「人滅魔法デストラクションパニッシュ!!」
ミサタの全力とも言える魔法が俺に向けて放たれた。
発動を終えると、ミサタの手から徐々に複雑難解な魔法陣が生まれた。
それが弾け、俺がいる半径10メートル以内に雨のような猛烈な攻撃が仕掛けられた。
それを俺はあえて何もせずに受ける。
(これは……いけるのか?)
この雨のような攻撃は、一つ一つにさっきの爆発の数倍以上の威力が秘められている。
流石にそのままはキツかったので俺は魔力を全開にして、打ち消せるか試してみる。
(これは……いける!)
俺の魔力と魔法は反発を起こし、対消滅を繰り返していた。
そうして魔法が消えた時、俺はほぼ無傷の状態でその場に立っていた。
「……そんな……」
「そんなに落ち込むことじゃないぞ。生身の俺に傷を入れられたのは久しぶりだ」
本当に。まともな攻撃をくらったのは修行中の時と、100階層の分身と戦っていた時だろうな……。
今の攻撃だって、まともに魔力で防がなかったら怪我をしていたのは間違いなしだろう。
「今はまだこんなものかもしれないけど、今から頑張れば更に強くなる。それこそ勇者である俺と並ぶくらいにはな」
「本当っ!?」
「当たり前だろう。俺は無理でも現騎士団長には勝てる実力はすぐに身につくだろう」
はっきり言って、ミサタに足らないのはレベルだ。
レベルさえ俺に並べば、何が起こるか分からない。
「というわけで、今日はもう疲れただろう?」
「ああ……正直もうヘトヘトだ……」
ミサタは魔力枯渇寸前の状況だったのだ。
それほどまでにあの魔法を唱えたのは俺に勝ちたかったのだろう。
まぁ、今はまだ無理だけどな。
「じゃあ今日は休めよ。明日から本番だからな」
「……分かった……」
足元をフラつかせながらミサタは歩いて行った。
戦いが終わった俺はみんなの具合を見に行っていた。
今のところどれぐらい出来ているかによって今後のメニューの組み方の参考になると思うからな。
(みんな頑張っているな……)
俺は見守ることに専念しようか。
今手を出したら3日間という時間を与えた意味がないからな。
みんないろんな事を頑張っているな。
ある者は魔力操作だけのことに集中して、使い勝手が良くなろうとしている。
また、ある者は自身の最大魔力量を上げようと、限界まで魔力を使っている。
(こんなのを見ていると俺も努力したくなってくるな……)
アルスのレベルが7桁ということを踏まえて、魔王のレベルはもっと上に違いない。
今からレベリングもいいんだけど、なるべくファフニールの召喚はみんなの為に使ってあげたい。
(ならやるとしたら素振り……かな)
はっきり言って今から何をやるかって考えてなかった……。
「手伝ってあげようか?」
「お、おう。ありがとう……っ!?」
俺は振り向いた時に背筋が凍るかと思った。
「な、何でここにいるんだ!?楓!」
まさかの楓がここにいた。
(何でここに来れた?……まさか俺の転移に割り込んできたのか?)
あの時は俺もちゃんと確認していなかったから気づいていなかったのかもしれない。
「そんな顔しないでよ。別に邪魔をしにきたんじゃないんだからさ」
「それは分かってる……」
それは俺の練習を手伝おうとしてくれたことから察することが出来る。
「私はね。透と同じ全スキルを持っているんだよ?なら当然転移も使えるよ」
「……転移は一度行っていないと発動しないはずだ」
「確かにそうだね。でも実際に行かないといけないわけじゃない。それは透でも薄々理解できているんでしょ?」
「……」
楓の言う通りだ。
実際にその場に行っていなくても転移は可能。
その方法として、他人の記憶を見たりするなどがある。
(俺が寝ている隙に記憶を見たのか?)
「……随分趣味が悪いことをするじゃねぇか」
「ごめん。でも気になっちゃって」
「まぁその事は別にいいんだけどな」
楓の能力の幅が広がっていることの証明だし、悪気があった訳じゃないからな。
(でも……ちょっと怖いな)
他人に記憶を覗かれているというのは安心できることじゃない。
「まあいいや。それで何を手伝ってくれるんだ?」
「うーん……久しぶりに戦わない?」
「ああ、いいぞ」
俺も暇を持て余していたところだしな。
これでしばらくは暇か潰せる。
俺はそう思うのだった。
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