64話 使者
オジルとの決闘からは2日が経ち、今日はようやく使者がやって来る日だ。
「おはようございます。トオル様」
いつも通り、メイドさんが起こしに来てくれる。
……俺は起こしてもらえないと起きれない症候群が発症しているからな。
「お着替え、ここに置いておきますね」
「はーい」
今日用の綺麗なシャツやズボンが用意されていた。
この世界での服の事情なのだが、そもそもで蚕という生き物がこの世界にはおらず、魔物で似たような糸を吐き出す奴がいるから、それを使うのが一般的らしい。
綿や麻も普通に使われているそうだが。
俺はそれに着替えてみる。
(うっわ……)
俺は着てみて、鏡の前に立つと青を基調とした、いかにも王子とかが着そうな服だった。
(ダッサ……ていうよりか恥ずかしすぎる!)
こんなの着て衆目の前に立てるわけない!
「トオルー、着替え終わった?」
「なっ!?」
俺が鏡を見ながら悶絶しているところをルーナに見られてしまった。
「へぇ」
ニヤニヤしながら俺のところに近づいてきた。
「そ、そんな顔してこっちに来るんじゃねぇ!」
「えー、いいじゃん。似合ってるよ」
「ルーナが良くても俺がダメなんだ!」
こんな服で行けと?冗談じゃない!
「これなら着替えてやる!」
「えー?この服を着ていかないとダメってお母様が言ってたよ?」
「知るか!それに正装なら俺にだってある!」
学校の制服という裏技がな!
あれはガチの正装だ。文句を言われる筋合いはない!
「この服を着ていかないとダメですよ」
ここでまさかの女王様登場。
「これでいいだろ!」
俺はアイテムボックスに放置しっぱなしの自分の制服を突き出した。
「ブーーーーーーーーーーー!!」
俺は一国の王に対してブーイングをした。
「ではこうしましょうか。トオルさんがこの服を着ないというのだったら、カエデさんから聞いた秘密を私の名の下に公開しましょうか」
「くっ……!そんな脅しは俺には通用しないぞ!」
カエデだって俺の詳しい秘密は知っているわけじゃない!
少しぐらいの恥辱だって、これを着るよりかはまだ幾らかはマシなんだ!
「強情ですね……。なら、あなたのこの格好をカエデさんに見てもらうとしましょうか」
「それだけはやめて!」
「残念。もう遅いようです」
女王様が言うのと同時ぐらいに楓が入ってきた。
「トオル、その格好……」
「…………………………………」
(うぎゃあああああああっ!!)
よりにもよって楓に見られた!
地球の価値観を持っている楓に見られるのは……グフッ!
俺はダウンした。
「似合っていると思うよ…………ふふっ……」
「おい今そこ笑っただろ!」
なんて奴だ!
人が恥ずかしく着ているのにそれを笑うなんて……。
いや、自分でも他人がこの格好をしていたら反射的に笑ってしまうだろうけどな。
「〈換装〉!」
スキル〈換装〉。
アイテムボックス内にある武器と防具、服を一瞬で装備できるスキルだ。
それを使って俺はアイテムボックスに突っ込んだ制服に着替える。
「俺はもうこれで行くからな!それじゃあ門の前で!」
その言葉を楓たちに投げつけるように言い、俺は転移で移動した。
使者が来るまで暇な俺は図書館に寄ることにした。
予め東諸国連合がどういった感じで、どこにあるのかと言うのを知っておきたい。
(使者が来るタイミングは分かっている。ていうか千里眼で馬車に乗って来ているのが見えたからな)
距離を考えると、あと2時間はかかるから1時間半前には門の前にいるつもりだ。
(それよりも……〈叡智〉)
そう念じると手の中に一冊の本が出てきた。
図書館へ来るというのは静かな所で見たかったということだ。
図書館の本は読む気になれない。
何故かって?読みにくいからだ!
(確かに言語のスキルはあるけど、あれをずっと使ってると目眩がするんだよなぁ……)
というわけで、俺はこの世界の本は緊急時以外は読まないようにしている。
本読んでいて倒れたとか嫌だしな!
早速俺は叡智を使い、東諸国連合のことを調べた。
〈東諸国連合。
出来たのはつい最近で計63もの国が所属している。
その中でリーダー格なのが、ギルバート=タルサ。彼はこの世界において最強とも呼べる強さを誇っている。
連合の場所はここから東にずっと進んでいったところにある〉
大まかにまとめるとしたらこんな感じか。
ギルバート=タルサか……。
あの俺と喋っていた男がそうなんだろうな。
(他にもいろいろ調べてみるか……)
幸い、今のことを調べたので1時間ぐらいしか取られていない。
あと30分間は気になっていたことを調べるとしようか。
そしてあっという間に30分は経った。
この30分間何をしていたかというと、あのギルバートのことを個人的に調べていたんだ。
〈ギルバート=タルサ。
アストラ歴752年生まれ。現28歳。
幼い頃から武、智両方とも秀でていて15歳からは、もはや誰も太刀打ちできなくなる程強くなる。
777年のアルスター帝国との戦争を獅子奮迅の活躍によって他の王政候補者を差し置いて王になった〉
叡智にはこう書かれていた。
……今思ったんだが、叡智ってプライバシーを完全に無視したスキルだよな。
普通個人情報は隠しておくものだろう!
「……そろそろだな」
千里眼で確認するに、使者とメルトリリスとの距離はもう着きそうなくらい近づいていた。
俺も向かうとするか。
(〈影〉)
影を使うことにより、俺の存在感が果てしなく、路傍の石よりも薄くなった。
そして俺は飛翔を使って王都の出入り口の門まで飛んでいくのだった。
それから10分後。使者はようやく到達したようだ。
そこに女王様が向かった。
「本日は我が国へお越しいただき誠にありがとうございます」
「いえ、それでトオル様はいづこに?」
「それが……すみません。まだ見つかってないんです……」
女王様が気まずそうに話していた。
「構いませんよ。彼が出てくるまで待ちましょうか」
(優しい!……何かこの人を待たすのは気がひけるな……)
というわけで俺は顔を出すことにした。
「お待たせしました」
門の上から俺は飛び降り、会話している二人の横に降り立つ。
「すみません……。ちょっと待ってくれませんか?」
「はい、どうぞ」
あっさりと許可が出された。
……一体何をするつもりなんだ!?
そして俺は人影がないところまで連れてこられた。
(一体どういうことですか!?)
女王様が俺にひそひそ声で怒ってきた。
(仕方ないだろ。俺はあれ着るの嫌だったんだし)
(でも……!)
(それにあのギルバートって人がもう見てるんだ。今更服を変えたらそれこそ失礼なんじゃないか?)
(くっ……)
俺は女王様の意見を論破した。
(問題ないですよね?)
(はぁ……問題ないです)
ようやく女王様も諦めてくれたようだ。
「お待たせしました」
俺は女王様と一緒に戻る。
「いいえ、そんなに待っていませんよ」
「ありがとうございます」
バードンは優しく対応してくれる。
「では、馬車で3日の距離がありますので支度を行い、出発は今日の夜からということにしましょう」
「分かりました」
そして俺たちは支度のために一度王城へと戻るのであった。
それから2時間後。
支度が済んだ俺たちは門前に集まっていた。
「では行きましょうか。東諸国連合の本拠地、我が国タルサ王国へ!」
そして俺たちは数名の護衛を連れて、タルサ王国へ向かうのであった。
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