46話 模擬戦と爆弾発言

「今日は疲れたから休むな」


「はい、おやすみなさい」


「「おやすみ」」


「ああ」


 流石に今日は疲れた。

 ……ていうか今日って結構いろんなことがあったような……。

 戻ってくるや否や楓を助けたり、ルーナを助けたり……。

 まあ、俺が帰ってくるのが遅かったのが原因だったんだけどな。


(いや、だって帝国の連中があんなに屑だとは思ってなかったぞ!?)


 まさかこんな強硬手段に出てくるとは……。

 一体誰が予測できたでしょう?

 ……今日の色々もぜーんぶ!帝国の所為だな。

 これはお返しをしなくては……。

 そう心に決意しながらも、とりあえずは休む俺であった。



(やばい……)


 起きたらまさかの深夜だった。

 まさかこんな時間に起きるとは……!

 まあ、確かに昨日は晩ご飯を食べずに寝たんだけども!


(ああ、腹減ったなぁ)


 そう思った俺は食堂に行った。


 深夜の食堂はもちろん暗かった。


(ん?)


 奥に灯りのようなものが見えるな。

 行ってみるか。


「おい……そこで何してるんだ?レオン」


 まさかの明かりの正体はレオンだった。


「こんな深夜に食堂に潜り込むなんて……お前どんだけ腹が減ってるんだ?」


「ち、違います!鍛錬に夢中になっていたら深夜になって食堂に誰もいなかっただけですよ!」


「隠さなくてもいいぞ」


 俺は同情するようにレオンの肩に手を置いた。


「だから違うんですっ!!」


 少しからかっていたら本気で怒りかけていたから俺はもうそのくらいにしておいた。

 ……流石にキレると後の関係がこじれて面倒くさくなる……と思うからな。


「ルーナ様のこと……本当にありがとうございました」


「今更だな……。別にレオンからお礼を言われるためにやった訳じゃないし、自分がやらなければならないって思ったからな」


「そうですよね。それじゃあ手合わせでもしますか?」


「今からか?」


「でも、訓練場なら明かりも付いていますよ」


「なら行くか」


 ちょうど体を消し動かしたい気分だったし。


「そうですね」


「レオン……、その感じで言ってもダサいだけだぞ?」


 レオンはちゃっかり食堂の冷蔵庫の中から食材を物色していた。


「ほら、行くぞ」


「そうですね」


 俺たちは訓練場に向かった。



「トオル様の武器は何にしますか?」


「俺は双剣で」


「……また変わった戦い方をしますね」


「そうなのか?」


「そうですよ。普通の流派なら片手剣を使いますからね」


「まあ、普通はそうだろうな」


「そうではないと?」


「ああ、だって俺にはこれがあるからな」


 そう言って、俺はアイテムボックスからトルリオンとダーインスレイブを取り出した。


「……その二振りは持っていて大丈夫なのか?」


「ああ、片方は魔剣だが問題ない」


 なんたって自分で作成した魔剣だしな。

 ……まあ、特にそういうことを意識して作ったわけじゃないんだけど……。


「では、これを使いますか?」


 レオンはそれを投げてよこした。

 俺は難なくキャッチする。

 それは刃が付いていない普通の剣だった。

 簡単に言うと、木刀を強化したバージョンと言ったところだ。


「ああ、これでいいぞ。ていうか大丈夫なのか?」


「?何がですか?」


「もうちょっと防御を硬くしたほうがいいんじゃない?」


「いえ、これが私にとって最善の服なので」


 そう言うんだったらいいか……。


「じゃあ行きますよ!」


「ああ、来い!」


 こうして亜神vs一国最強が激突した。


「はぁ!」


 レオンは初手から飛ばし、さまざまな攻撃を繰り返していった。

 だが、これを俺は全て捌く。

 こちとら原初の龍の攻撃を捌いていたんだからな。

 流石にこの程度は捌けないと……。


「やりますね。ではこれでどうですか!」


 その瞬間、レオンが振る県のスピードが今までのとは段違いに早くなった。


「きかねぇよ」


 俺はその剣すらも綺麗に捌く。


「……これを防がれたのは生涯で10もありませんよ。流石ですね」


「そりゃ、勇者だからな」


 これだったら天谷でも防げると思うぞ?

 まあ、あやつも勇者なんだけど……。


「では、これはどうでしょう!」


 レオンがそう言うと、レオンが使っている剣に赤と青と緑の色が混ざっていった。


「〈トリプルエレメントバスター〉ッ!!」


 いかにも中二病っぽい技をレオンが使った。


(これどうしよう……。はっきり言ってかき消すのは簡単なんだがそれだとなぁ……)


 この後の被害が予測できない。

 今自身を擬似的に封印しているのを解放すると手加減なんて出来ないからな。

 はっきり言って被害はこの訓練場で収まるのかどうか……。


(というかこんな技を手合わせで撃ってくるのもどうかと思うんだけどね!?)


 まあ、決闘に熱くなっているんだろう。

 仕方ない。


(じゃあ俺もレオンの真似でもするか)


 レオンが技を撃ってから俺がここまで思考するのにかかった時間は0.05秒。

 これも新スキル〈並列思考〉と〈高速思考〉と言う常時発動型スキルをしていたおかげだな。

 おっとそれよりも、


「はああぁぁぁぁぁぁぁあっ!」


 はの部分から俺は付与を始め、上段から下ろされてくる剣を下から迎え撃った。

 すると、


 バキィィィィインッッ!!


 と、何かが粉砕する音がした。

 それは俺たちが握っていた剣だったものだった。

 すでに柄から先がポッキリ折れており、お互いのほぼ隣に着地した。


「これなら決着はつきませんね……」


「ああ、そうだな」


 俺はこれをやりたかったがために、わざわざレオンと同じ技を使ったんだ。


「今日は疲れた。というわけでまた寝てくるな」


 いい運動になったし。


「はい、おやすみなさい」


「おう。お前も寝とけよ」


「はい」


 こうして、模擬剣による俺とレオンの試合は引き分けに終わった。

 そして俺は帰って寝るのだった。


 そして朝が来た。


「起きてください。ご主人様」


「……なにしてるんだ?ルーナ」


「久しぶりにご主人様をお世話したいなーと思って」


 ……メイド姿のルーナを見るのが俺にとっては久しぶりだな。

 可愛ゆい。


「今日はまた話したいことがあるからってお母様が言ってたよ」


「サンキュー。じゃあ朝飯食って着替えたら行くって言っておいてくれないか?」


「えー!私もっとご主人様と一緒にいたいよ!」


「……恥ずかしいからそれはやめてくれ」


「ふふっ、分かったよトオル。それとお母様はいつでも来ていいと言っていたからゆっくり行かない?」


 うーん……出来れば早く行きたいんだけどなぁ。

 まあ、いっか。

 というわけで俺たちは食堂に向かった。


 食堂は相変わらずの賑わいを見せていた。


(あれ?朝ってこんなに人が多かったっけ?)


「なあ、なんでーー」


「トオルが言ったこと当てようか?“なんでこんなに人が多いのか?”だよね?」


「……なぜ分かった……?」


「そんなの見れば分かるよ」


 ……謎だ。

 俺はそんなに分かりやすかったか?

 あの一年で少しは感情面も鍛えたはずなんだけどなぁ……。


「それはもうすぐ昼だからだよ」


(昼だったのかよっ!?)


 俺は思わず心の中で突っ込んだ。


「今、昼だったのかよって思った?思ったよね?」


「し、しらねぇし!」


「ふふっ、それより早く席に座ろう。無くなっちゃうよ」


「……そうだな」


 ……なんてエスパーだ!!

 ……もうここの女性陣には何を隠してもダメな気がしてきた……。


 そして俺は日替わり定食、ルーナはカツ丼定食を頼み、空いている席に座った。

 ……本当に肉が好きなんだな。昼でも俺はカツ丼はしんどいぞ。


「ねぇ、責任取ってくれるって言ったよね?」


「ああ、そうだな」


 ……何だろう。何か嫌な予感がする。


「それって……私たちと付き合ってくれるってことでいいんだよね?」


「……ああ」


 俺は水を飲む。


「……ならHなことしてくれないの……?」


 俺は含んでいた水を明後日の方向に噴き出してしまった。

 俺の予感は見事的中したようで、ルーナは公共の場で俺にとって被害がありすぎる爆弾を落としていったのだ。

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