22話 ムカついたからやりました

 俺たちが〈青い猫家〉に戻ると、あの子と

 デブのおっさん+護衛2名が何か言い争いをしていた。


「そんな大金普通の宿屋に払えるわけないじゃないですか!」


「黙れ!この程度の金も払えないようならばここの 営業許可証を取り上げるぞ!」


「くっ……!」


 これ完全にあの子がまずい状況だよな。


「下賎な獣の雑種が!これ以上口答えするならば……!」


 そう言って贅肉の塊である腕を振り下ろした。

 女の子は顔を背けて痛みに耐えようとする。


「はい、そこまで」


 俺はデブ男と、彼女の間に割って入り、手首を掴んだ。


「痛!痛たたたたた!!」


 あ、豚が悲鳴をあげてる。

 ……いや、こいつを豚に例えるのは豚に失礼か。

 ならもうデブ男でいいや。

 ……全然悲鳴をあげるほど俺は強く握ったつもりはないんだけどなー。

 こいつが痛みに耐性が無さすぎるだけなのか、俺の握力が尋常じゃないほど強まったのかの二択だな。


「おい!お前たち!私を守ってこの男を捕らえろ!」


 おいおい、喧嘩ぐらい他人に頼るなよ。

 まあ、デブ男が貴族?で、彼らが護衛という立場上、ここで仕事をしなければ彼らも生活できないだろうからな。

 だから手加減はしねぇ。……あ、流石に全力で魔法をゼロ距離ぶっぱとかはやらないよ。だってやったら確実に死にそうだしね。

 2人は俺のところに向かってくるが、即座にデブ男の手を離し、左の顔面に1発ずつストレートを打ち込んだ。

 結構力込めたからか、文字通り吹っ飛んだ。

 ……これ、リアルじゃ絶対無理だったよなぁ。


「ひ、ひいいぃぃ!!」


 おいおい、そんなに怯えるなよ。俺ってそんなに怖いか?

 確かに自分が雇った精鋭の護衛をストレート1発で撃沈させられたからな。無理はない。

 それに反してデブ男は運動とか出来なさそうだし。


「貴様!一体何者だ!」


「ふっ、ただのさすらいの旅人さ」


 決まった!ひさびさに決め台詞が決まったな。だけど、これ思い返してみると絶対黒歴史レベルで恥ずかしいやつになるな。


「嘘をつけ!こんなに強い旅人など私は聞いたことがないぞ!」


 嘘はついてないよ。だって旅をしているのは事実だし。……王国と帝国の間だけだけど。

 果たしてこれは旅になるのか、俺はなると思っている。


「大商人である私に向かってこのような態度……覚えていろよ!」


 三下のようなセリフを吐き捨てて、デブ男は走り去っていった。

 ……はぁ、こりゃ絶対諦めてないな。仕返しが来るのは確実だろう。前もって防犯とかチェックしとかないとは。

 そう思った俺であった。


「大丈夫か?」


「は、はい……」


「とりあえず中に入るか。えーっと……」


「私、テリアと言います。先程は助けていただいてありがとうございました!」


「どういたしまして。俺は金山透。これから宿でお世話になります」


「はい!お任せください!」


 そう言って俺たちは中に入った。

 ……そういや、エルは全然話に入って来なかったけどどうしてるかって?

 俺の背中で爆睡中です。



「あの忌々しい亜人族とそれを庇ったガキめ!あいつらから利益を生むことの何が悪い!」


 デブ男は1人、商会の自分の部屋で憤っていた。


「こうなったら我がクローン商会との全面戦争だ!あの雪辱を晴らすために!」


 こうしてデブ男は着々と奴らを潰すという計画を練るのだった。


 宿に戻った俺たちは 、泊まる部屋に案内してもらった。


「おおー!」


 王城ほどでは無いにしても、しっかり広い部屋だった。しかも全てのところに掃除が行き届いている。

 ……こんないい宿なのに、なんでこんなに客がいないんだ?やっぱり差別が原因なのか?

 あのデブ男が言っていた通り、ハーフだったとしても、俺は絶対に差別はしない。

 そんなことを思いながら俺はエルをベッドに寝かした。


「ふぅ」


 はっきり言って今日は結構魔力使ったかもしれない。

 空を超高速で飛ぶんだり、風魔法で風をブロックしていたし。

 トルリオンを作った時ほどでは無いかもしれないけどそれでも結構使ったなー。

 まあ、一般人だったら考えられないようなことをしていたからな。


「俺は風呂あるか聞きに行こ」


 そう言って俺はテリアがいる受付のところに向かった。


「あ、トオルさん。エルちゃんは大丈夫なんですか?」


「ああ、よく眠ってるよ。それよりここってお風呂ってあるの?」


「……いえ、ありませんね。お風呂は基本的に王族か貴族しか使いませんから。普段は街の公衆浴場を使ってますね」


「ありがとう。今開いてる?」


「今は空いてますよ」


「じゃあ、行くことにするわ。鍵預かっててもらえる?」


「はい。分かりました」


 俺は初めての異世界銭湯に期待を覚えながら、宿屋を出ていった。

 ……おっとその前に。テリアに風魔法で位置を知らせる魔法をつかっておこう。

 あいつらの襲撃を受けた時にすぐに居場所を特定するためにね。

 今度こそ俺は銭湯に向かうのだった。


 はっきり言って俺は王城の方が良かった気がする。

 それは当たり前なんだけど、銭湯は日本にいた時によく行っていたから懐かしい感じがした。

 俺は風呂上がりの牛乳を飲んで宿に帰宅することにした。


「ん?これは……」


 それは風魔法で調べていたテリアの位置が宿屋からどんどん離れていく。

 おかしい。流石にこんな夜に買い物に行くとは考えられない。

 だから残る答えはただ一つ。あいつらの仕業で間違い無いだろう。


「よし、追うか」


 今全力で行って誘拐者を叩き潰すことは簡単だが、それでは意味がない。本丸を探らなければ。

 そう思い、俺は路地裏から飛翔で上空200メートル以上まで飛び、千里眼で見てみると、複数の男がテリアを担いで走っているのが確認できた。

 テリアには悪いがもうちょっと待ってもらう。


 しばらく観察を続けていると、大きな豪邸の中に入り込んだ。

 千里眼の便利なところは赤外線みたいに相手の体温も察知できるところなんだよな。

 だから死角に入ったとしても俺には意味ないから。

 急ぐ必要がなくなったのか、男どもはゆっくり歩いている。

 そして目的の部屋についたようだ。そろそろだな。


「じゃあ、行くか!」


 そう言って俺は速度を最大限にして、部屋の窓に突撃した。

 バリーーーン!!という音とともに俺は簡単に部屋に侵入することが出来た。


「な!?貴様なぜここに!?」


「そんなもの決まってるだろ。あんたらがテリアを誘拐してきた時からずっと見てたからだよ」


「な!?そんな気配は微塵も感じなかった!貴様どこで見ていたというのだ!」


 デブ男の部下で暗殺者らしきその男は、自分の索敵でも見抜けないことに驚愕していた。


「え?上」


 そう言って俺は人差し指で空を指す。


「「「「「は?」」」」」


「正確には高度200メートルぐらいかな?それぐらいからずっと千里眼で見てたよ」


 これぐらい教えたところで俺にはなんのデメリットもない。こいつらは誰一人逃す気は無いんだから。


「じゃあ、ちょっとマジモード入るから。弱すぎて死なないでくれよ」


 俺はトルリオンを取り出して、全力で奴らの近くまで詰め寄った。

 部下たちは何もすることができずに、俺のアッパー、ストレートや回し蹴りなどで全員戦闘不能にした。


「……やべ。ちょっとやりすぎたかな?」


 ストレートや回し蹴りをくらった奴らは壁にめり込んでいる。


「……貴様、何者なのだ……!?」


「ああ、捕まる前に教えといてやる。俺は金山透。この世界の正式な勇者だ」


「な!?そんなデタラメな!」


「確かに俺には自分が勇者であるという証拠はない。だが俺にはこれがある」


 そう言って俺はアイテムボックスから時計を取り出した。


「その二つの獅子が描かれた時計は……!?まさかメルトリリス王国の腕時計だと!?それは王族のみしか所持を許されていないはずだ!」


「ああ、そうだな。だが女王陛下は勝手に出て行く俺にこれを渡してくれたんだ。お前のような奴の不正から世の中を守るために」


「そんな……バカな!」


「うるさい。もう寝てろ」


 俺は渾身のストレートを顔面にくらわせて、一撃で失神させた。


「……これからどうしようか」


 警察みたいな組織が帝国にはあるのか分からないから、もう放っておいてもいいだろう。

 また何かしてくるようならばその時はこの程度じゃ済まさないけどな。

 ……だけど、流石に商会の会長を潰すのは良くなかったかな?これから後処理に困りそうだなー。

 そんな風に人ごとのように考えている俺はテリアを背負い、宿に帰るのだった。

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