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 二人は加奈の通学路を歩いて、加奈の実家まで移動した。

 加奈の家は住宅街の片隅にある、小さな普通のどこにでもあるような、あまり特徴のない家だった。赤い屋根の家だ。その家には明かりが灯っていなかった。

「今、お父さんもお母さんも家にいないの。今、この家にいるのは私一人だけなんだ」と文を見て加奈は言った。

 それから加奈は鍵を使って家のドアを開けた。

「どうぞ」加奈は言った。

「お邪魔します」

 文はそう言って、傘をたたんで、真っ暗な加奈の家の中にお邪魔をした。

 さっき食事をした、レストランのときはそんな風にはあんまり思わなかったのだけど、このとき文は、久しぶりに加奈と手を離して、なんだか少し、本当はそこにあるはずのものがなくなって、寂しいな、とちょっとだけ思った。

 文は東京のお土産を加奈に手渡すと、加奈はそれを明かりをつけたあとでキッチンの戸棚にしまった。それから二人は二階にある加奈の部屋に移動をした。

 加奈がキッチンの明かりを消すと、家の中はまた真っ暗になった。


 加奈の部屋は物の少ない、とても綺麗に掃除のされたシンプルな部屋だった。荒れ放題の文の部屋とは大違いだ。

 でも、その生活感のなさは、なんだかここが加奈の部屋であるということを証明するものが、なにもないかのように思えて、文は少しだけ寂しいと思った。

「なにもない部屋でしょ?」加奈が言った。

「そんなことない。綺麗で、すごく素敵な部屋だよ」とにっこりと笑って文は言った。 

 加奈がキッチンでコーヒーを淹れてくれて、二人はそれを飲みながら、文の持ってきた東京のお土産であるどら焼きを食べることにした。

 そして二人はどら焼きを食べ、コーヒーを飲みながら、レストランでの話の続きをした。

 それは笑顔の絶えない、まるで小学校時代に二人がタイムスリップしたみたいに幸福な、本当に、本当に楽しくて仕方のない、時間だった。

 思わず文は、何度か泣き出しそうになってしまったくらいだった。

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